オリジナルスキル 2
「あー。なるほどね」
先ほどまで話していたことを話すと、アオイは納得の声を上げた。
そしてそのままコガネに目を移す。
「日程はどの辺がよさそう?」
「早くて3日後」
「はーい。じゃあレヨンさんにお手紙を書こうか」
「流石マスター。行動が早いわぁ」
「行かないとなーとは思ってたからね」
「主、忘れてた?」
「……えへ?」
どうやら忘れていたらしい。
最近は忙しかったから、と言い訳するアオイをじっと見つめると、困ったような笑みを向けられた。
「これがもうすぐ終わるから、手紙書いてお返事来てから予定組もうか」
「うん。じゃあ待ってる」
「はいはーい」
開けた窓は換気のためそのままにし、手紙のやり取りを待つ間は再びセルリアの魔法特訓だ。
今度こそ浮くのだ、と杖を構えたセルリアを遠巻きに眺めつつ、コガネとシオンは木陰に腰を下ろした。
コガネがセルリアの足元に魔法のクッションを展開するのを認識して、シオンはあくびをかみ殺す。
ちゃんと見てはいるが、まあ魔法ならコガネに任せておけばいいだろう、という考えだ。
コガネも否定はしないので、とりあえずはシオンの休憩時間だ。
先ほどまではしっかり横にいたが、コガネがいるなら任せた方が安全なのかもしれない。
アオイもそれを眺めていたが、作っていた薬が放置時間に入ったので作業部屋から出て自室に便箋を取りに行く。
手紙を書いて内容を読み返し、問題がないことを確認したらそれをもってリビングに向かう。
「サクラー?」
「はーい!」
見当たらないので呼んでみると、廊下の奥から元気な返事が聞こえてきた。
魔力契約の契約獣は、主が自分を呼んでいるとそれが分かるらしい。
ので、最悪自室で呼べば来る。まあアオイは基本探してみるところから始めるのだが。
「レヨンさんに手紙を届けてくれる?」
「分かった!」
レヨンさん、と聞いてぱあっと顔を明るくしたサクラを見て、アオイは微笑みつつ若干の悲しみを感じていた。
自分も好かれているのは知っているのだが、それでもここまでの反応をされると何だか嫉妬心が芽生えるような……
「主?」
「んー?何でもないよ」
よろしくね、と頭を撫でて送り出し、アオイは作業部屋に戻った。
そろそろ放置していた薬が出来ている頃合いである。
それをやっている間にサクラ特急便がレヨンさんのもとに到達するだろうか。
考えている間に薬の制作は終了し、箱に詰めたところでコガネが部屋に入ってきた。
箱は回収されていき、運び終えたコガネが戻ってくる。
「主、サクラから取り合えずの連絡」
「お、なんてー?」
「おいでって」
「了解した。予定組んじゃおっか」
今日の夜か、明日の朝か。
それくらいにはサクラも帰ってくるだろう。
詳しい返事はそれを待ちつつ、おいでと言われたので行く準備は始めてしまう。
とはいえ、今回準備が必要なのはアオイよりセルリアである。
まだ数回しか行ったことのない遠出だ。主に頑張るのはシオンだが、セルリア自身少しづつ遠出にも慣れていった方がいいだろう。
今後、すぐにではなくてもリコリスを旅立つ時が来るかもしれない。
その時に、少しでも戸惑いが少ないようにしたいのだ。
初めての世界に急に放り出されると、結構混乱するものなのだ。それをアオイは身をもって知っている。
「あ、主」
「おや、夕飯?」
「はい。サクラは超特急で帰ってくるみたいですよ」
「おお……誰か夜食食べるのかな?」
「トマリさんが」
「そっか、ありがとう」
廊下でモエギと合流して、そのまま一緒にリビングへ向かう。
サクラが返ってくる頃には皆眠っているかもしれないが、今日はトマリが夜更かし予定らしい。
元々だったのか、サクラが夜中に帰ってくるからなのかは分からないが。
今回の遠征は、誰が付いてくるのだろうか。
アオイが行くからコガネは行くし、セルリアが行くからシオンは行く。
小鳥たちはどうするか聞いてみないといけないが、場合によってはトマリは留守番になるかもしれない。
「たまにはウラハとお出かけもいいかもね」
「……確かに。シオン置いてく?」
「それは流石に……セルちゃん関連だし」
「じゃあとりあえずトマリは置いて行こうか」
「わあすっごくいい笑顔」
ものすごくいい笑顔だった。
すごく嬉しそう。別に、同行するのが嫌な訳ではないはずなのにこの笑顔。
本能のような感じになっちゃってる種族の相性って、大変だね。と、そんな感想を漏らしつつ。
とりあえずは夕飯を食べよう、と席について、食べつつ遠征内容を話し合う。
セルリアの準備はシオンに任せておけばいいのでそのあたりは心配していないが、やはり話し合いの内容は誰が付いていくか、である。
コガネが決めた日程なので、最悪在宅人数が一人になっても店的には影響はない。
ただ、そんなに大人数で行っても迷惑になるので、それは避けなくてはいけない。
出来るだけ少人数で、とも思うが、さてどうしたものか。
「今回は、僕とサクラは留守番ですかね」
「いいの?」
「はい。買い物も特にはないですし」
「そっか、ウラハは?」
「私も待機でいいわ。次にどこか行くときにでも連れて行ってちょうだい」
「はーい。じゃあ、今回は4人で、かな?」
「ん?俺も待機か」
「うん、今回はね」
トマリは当然ついてくるつもりだったらしい。
まあ、たまにはこんな日があってもいいだろう。
豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしたトマリと、それを見て笑いを堪えているコガネを眺めつつ食事を終えて、アオイはセルリアに向き直った。
「さて、セルちゃん。明日はシオンと一緒に荷物をまとめようか」
「うん!」
元気のいい返事に頬を緩めて、シルバーピンクの髪を撫でて。
アオイはそのまま、ちょっとした作業のために書斎に向かうことにした。