オリジナルスキル 1
セルリアはその日も魔法の特訓に精を出していた。
自分の杖を持ち出して、今やろうとしてる魔法のために魔力を練って呪文を唱える。
今はとにかく、空を飛ぶ魔法を成功させたかった。
だがいきなりそれをやろうとしても上手くはいかないからと、他の魔法も練習して。
それらがかなり様になってきたので、本格的に飛行魔法の練習に入った。
何かあったら危ないので、それの練習はシオンかコガネどちらかが、欲を言えばウラハとトマリの4人のうち2人がいるときにという約束になっている。
アオイはそれを窓越しに眺めながら薬の制作に精を出し、コガネは今日それほど忙しくないのでセルリアのそばにいる。
シオンはいつも通り横にいるし、今日は暇らしいトマリもいる。
準備は万端、何かあっても対処できるので、セルリアは魔法の成功だけに集中できるのだ。
中々豪華な練習環境で育てられている大魔法使い(予定)は、丁寧に呪文を詠唱していく。
詠唱が終わると、セルリアの身体の周りに風が集まり始める。
その威力は徐々に上がっていき、そっとその小さな身体が浮き上がった。
が、少しすると風が霧散してセルリアは体制を崩し、横にいたシオンに受け止められる。
「いい感じやねぇー」
「すぐに落ちちゃうよ?」
「浮ける時間は伸びとるからな、前進しとるで」
セルリアを抱えて陽気に言ったシオンは、そのまま近づいてきたコガネに目を移す。
今日は出かける用事も何もないので、コガネの頭はシオンより低い位置にあるのだ。
「やっぱり、一回見た方がいいと思うよ」
「やなぁ。マスターに相談してみよ」
「なんの相談?」
「あ、セルちゃんにはまだ言っとらんかったっけ?」
「……シオン」
「今言うからええやん」
ふにゃっと笑って許しを求めたシオンに、コガネはため息とついて木陰に移動する。
その後を追ってシオンも歩き出し、木陰のイスに座ってセルリアを横に降ろした。
「セルちゃんのオリジナルスキルを確認しに行こうって話とったんよ」
「オリジナルスキル……」
「知っとるね?」
「うん。生まれ持つ以外は習得方法のない、貴重な能力、だよね?」
「せやでー。良く知っとるなぁ」
偉い偉い、と頭を撫でるシオンの正面に腰かけたコガネは、その文面を暗記しているこの歳の子供は他にいないのではないか、そもそも読む文献が難しすぎるのではないか、とあれこれ考えていたが、顔にも声にも出さずに2人のやり取りを見守ることにした。
「私も、あるのかな?」
「見てみんと分からんからなぁ。調べといたら後から楽やからな」
「……シオンにいには、ないんだよね?」
「うん。人じゃないかんねぇ」
「アオイ姉さまは?」
そう聞かれたシオンは、そっとコガネに顔を向けた。
知らないわけではないのだが、どこまで教えるか、という確認だろう。
アオイのオリジナルスキルは、どの程度の能力かという指標である魔力換算が少しおかしいことになっている。
本来オリジナルスキルの魔力は5が限界値とされている。
魔力の数値は1から1.5になり、2と上がっていき、5が限界である。
5を超えると神話に足を突っ込み始め、歴代勇者のオリジナルスキル「魔を打ち砕く者」は基本が5以上という中々狂った性能だ。
オリジナルスキルは、本来誕生と同時か自我の目覚めと共に顕現する。
が、魔力5以上のものはその「器」が相応しいものになった時に顕現するのだ。
アオイのオリジナルスキルは、アオイが神の代行者として最低限の素質を発揮させるまで一番彼女と親和性の高かった「テイミング」の名で発現していた。その時の魔力表記は5であった。
その後、彼女が器としての能力を揮えるようになった際に本来のものに変化した。
「愛しき代行者」魔力10を誇る、この世界においてすべての上に立つスキルである。
神に愛され、その力を代行するもの。
それがアオイのスキルで、彼女の役割……なのだが、アオイはこの力をほとんど使わずに別のものを使ったりしてのんのんと生きている。
力については時々必要に応じて使うだけで、普段はただの最上位薬師である。
それでも、人に話すわけにはいかない力であることに変わりはないのでそっと隠されているのだが。
「……すっごい強いのを持ってるよ」
「やっぱり?」
妹にすべてを隠し通すわけにはいかないので、ぼやっとした言葉で濁しつつ教えるしかなかった。
全てを話すことが今後あるのかは分からないが、コガネとしてはどうやって伝えるべきがとても悩ましいことである。
「まあ、とりあえずセルちゃんのスキルを見に行かんとな」
「主に話してこようか」
「せやなぁ。今日は窓開けても平気なんやろ?」
「うん。窓越しでいっか」
そうと決まれば話は早い。
3人揃って作業部屋の窓に向かい、窓を開けると暑い空気が漏れてきた。
「主、換気も兼ねてお話ししよう」
「いいよー。っえ、コガネカワイイ……」
「姉さま!」
「セルちゃんも可愛い!」
窓が若干高い位置にあるからと顔だけ覗かせたところ、アオイはそっと口元を抑えるしセルリアはシオンに抱えられないと顔が出なかった。
それでもナベはかき混ぜられ続けているので、話し始めても問題はなさそうだ。
おまけその2、予定通りセルちゃんのオリジナルスキルの話です。