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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
おまけ
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最上位薬師の権能 3

 ムスペル。第5大陸にある、第1大陸と第5大陸を海路で繋ぐ国である。

 その国の薬師会は、数年前に大きく人員を入れ替えた。

 理由というか原因部分は、アオイである。


 アオイがムスペルを訪れた時、偶然見かけた薬師の腕に違和感を覚えた。

 自分の薬師免許を提示して階級の確認をし、売っていた薬の内容を確認し……工程は省くが、結論を言うとアオイはムスペルの薬師会に乗り込んだ。


「え、どうしてですか?」

「そうですねぇ。確認した人の階級が大体みんな中級以上で、売っていた魔力消しの効果がなかったから、で伝わりますかね?」

「あ……えっと、階級を上がれないはず、ってことですか?」

「はい。正解です」


 パチパチと拍手をして、アオイは一旦お茶を啜る。

 そう、アオイが旅の途中でわざわざ薬師会に乗り込んだのは、階級の不正昇格があったからである。

 それも、1人2人ではなくそれなりの人数がいた。


 なのでアオイは薬師会に乗り込んで最上位薬師の権能、という強力なそれを使いムスペルの薬師試験のデータをすべて開示させ、そのままそれを上位薬師会に持ち込んで全面に提示、問題を告発ついでに一度ムスペルの薬師会を解体した。


 その後、近年にムスペルで薬師免許を取ったものに対して再試験を行い、ムスペルの薬師会上層部は人員を入れ替えた。

 なのでここ数年、ムスペル薬師会の審査基準は他より少し厳しいのだ。


 わずかに残った元々ムスペル薬師会にいた者たちが、信頼を取り戻そうとしているからである。

 再試験を通ったものはそれまで通りの生活をしているが、再試験で落ちた者への目は冷たい。

 アオイを逆恨みするものもいたが、アオイの横には常にコガネがいるので実害は何もない。


 ついでに薬師会にも加護を置いて行ったので、そちらにも手出しは出来なかった。

 その一連の事柄をまとめて「アオイ・キャラウェイ最上位薬師の方正」なんて呼ばれていたりする。

 アオイにその気はなかったが、その出来事はアオイがいる限り不正は許されないしアオイがいる間に今ある不正は全て見つかるものだ、と言われている理由になっていたりする。


「す、すごいですね……」

「もうね、今でも言われるからね……」

「武勇伝になってますよね」

「自分で言ったことなんて一度もないですからね!?」


 アオイは無駄に目立ってしまった、と嘆いているが、薬師たちが久々に表れた最上位薬師の能力や立ち位置についてどう扱っていいものか、と悩んでいたころに起こした事案なので、今の自由に薬師会に顔を出す立場を確立させる事案でもあったのだ。


 何かあったら最上位薬師様は動いてくれるから、とりあえず今いないけどまあいいだろう、という安心感の源である。


「……じゃあ、あれですか。ハルフさんは一回再試験を通ってるんですか?」

「そうですね。確か、中級の時に」

「あら……それはそれは……まあ無事に通れてるんだし、少し面倒をかけましたーくらいの感覚なんですけどね」


 あの件に関して、アオイは一切悪びれはしない。

 独断ではあったが、アオイが悪いことをしたわけではないしそもそもあってはならないことだったのだからワタシワルクナイヨ、と言い張る所存である。


 それに関しては上位薬師会が全面的にアナタワルクナイヨと言ってくれているので胸を張って再試験お疲れ様でした。というだけである。


「サラの受験に関しても、特別厳しいところで通るのならその方がいいだろう、とムスペルにしていましたし」

「あ、そうなんですね。……というか、そもそも基準を変えるのが駄目なんですけどね……」


 そのうち落ち着いたらもう一度顔を出そうと思っているので、今のところは不問である。

 アオイがため息を吐いたところで昼食が運ばれてきたので、それを食べつつアオイは心を落ちつける。


「まさか、最上位に上がって半年程度で権能を使うことになるとは思ってませんでしたよ……」

「最初の仕事が薬師会の解体って、中々ない事態だよね」

「あったら困るのよ……」


 最上位薬師の仕事は少ない方がいいのだ、とアオイは常々言っている。

 それでも、きちんと仕事はしているのだ。


「最上位薬師って、大変なんですね……」

「まあ、新薬を作ろうと思わなければ取らなくていい級だからね」

「え、そうなんですか?」

「うん。最上位薬師の一番の特権は、新薬を制作して薬学書を作れることだから」


 それに興味がないゆえに最上位薬師に上がっていない人を、アオイは知っていた。

 その人がただの人ではないことを知っているからあえて何も言ってこなかったが、それは関係なく面倒くさがっているだけなのだと昔気付いた時は少し見る目が白くなった。


「例えばね、うちの師匠……そう、どこぞのプラチナ級の人とかね……あの人最上位の条件満たしてるからね……!」

「ああ、ヒエン・ウィーリア・ハーブさんですね」

「はいその人ですね」


 最上位薬師になる条件は、現存の薬をすべて制作できること、である。

 古の書だのなんだの、大量にある薬の制作を全て成功させたものが最上位薬師と呼ばれる存在になる。

 アオイが知る限り、アオイの師匠であるヒエンもとい先代勇者の一人であるウィーリア・ディルに作れない薬はない。


 アオイより先に最上位の条件は満たしているのだ。

 自分は過去の人間だから、とかなんとか格好つけているが、その実面倒なだけだとアオイは知っている。


「あの人、本当に面倒くさがりですからね……!」


 そんな風に文句をたれつつ、話題は移り変わっていく。

 アオイの数少ない薬師の友人との会話は中々楽しいものだった。

アオイちゃんは意外としっかり最上位薬師のお仕事をしています。

次の小話はセルちゃんのこと、な、はず……

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