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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
おまけ
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最上位薬師の権能 2

 その日、アオイはコガネと共にヘリオトロープを訪れていた。

 この街にある、少しお高い食事処でハルフと待ち合わせているのだ。

 別に高くなくても良かったのだが、食事をしながら話したいとなると個室がある店でないとアオイがフードを下ろせない。


 フードを下ろせないと、雰囲気も視界も悪いのだ。

 先に到着したアオイとコガネがお茶を飲みながら食事とハルフの到着を待っていると、扉がノックされた。

 コガネが立ち上がって扉を開けに行き、アオイは衝立越しにそちらを伺う。


 アオイは絶世の美女、である。

 普段はそんな雰囲気はないが、家を出て微笑みながらお茶をしていると周りの時間が止まっているかのように見えたりする。


 なので、店員の行動を無駄に止めてしまわないように衝立の奥にしまわれていた。

 アオイも慣れてしまっているので、薄布の衝立越しに扉を伺う動作が板についている。


「主、ハルフが来た」

「サラちゃんは?」

「一緒」

「そっか、じゃあまずはお茶を頼もう」


 コガネの後ろから顔を出したハルフとその弟子のサラに着席を促して、アオイは追加のお茶を注文する。

 コガネが横に戻ってきたのを確認してから、アオイはハルフに満面の笑みを向けた。


「ゴールド級昇格おめでとうございます」

「ありがとうございます。キャラウェイ様のおかげですね」

「……怒ってます?」

「怒ってはいませんが」


 急に姓で呼ばれたので怒っているのかと思ったのだが、とりあえず遺憾の意を示しておこう。ということだったらしい。

 それに関しては申し訳ないと思っているので素直に謝り、新ためて向き直る。


「さて、お茶がまだ来てませんが……まずはこれを」

「……はい。確かに。流石はアオイさんですね」

「それ関してなんですがね、ちょっと気になることが……」

「主、その前に代金」

「あ、はい。そんなわけで金額こちらになります……」


 忘れないうちに、と促されて代金を通知し、示した金額を受け取ってコガネに渡す。

 ちゃんと確認してからしまわれたのを見届けて、丁度届いたお茶を飲みながら持ってきた薬学書を提示する。


「これなんですがね」

「はい」

「どうでしょう、内容、同じです?」

「……いえ、カランの葉ではなく、カレカンの葉だと表記してありましたね……」

「やっぱり。系統的に、ハルフさんが作れないのはおかしいなと」

「系統で分かるんですか?」

「何となく、ですけど」


 薬学書を買いなおさないと……と嘆くハルフに苦笑いしつつ、一応薬師会に誤植の報告を、と人任せにしてお茶を啜る。

 そのまま雑談に付き合ってもらうために昼食を選んでもらう。


「サラちゃんは昇級は狙うんですか?」

「はい。上位薬師会に出られるところまで、行けたら……いいかな、と」

「なるほどー。出れたら楽になりますからねぇ」


 四人分の昼食をコガネが頼みに行き、その間にアオイはハルフにおすすめの薬学書を提示する。

 最上位薬師がおすすめする本だ、誤植はないし内容もそれなりに分かりやすい。


「そういえば、ハルフさんはどこかに定住したりはしないんですか?」

「顔を出す村はどこも薬師がいないですから。どこかに定住してしまうと、ほかが……」

「なるほど……ん?ハルフさん、薬師試験はどこで?」


 薬師は、自分が級を取った国に定住することが多い。

 その国の薬師会と顔見知りになるし、いろいろと融通が利くことが多いためだ。

 そんなわけで、単純な興味で聞いたのだが、ハルフはなぜかクスリと笑った。


 何かおかしなことを言っただろうか、と思い返してみても薬師であるならそれなりに普通な質問である。

 戻ってきたコガネに聞いてみようかと思ったが、その前にハルフがネタ晴らしをしてくれた。


「ムスペルですよ」

「あっ……」


 それだけで、なぜ笑ったのか分かってしまった。

 そっと顔を覆ったアオイにコガネはお茶の追加を差し出し、ハルフは楽し気に笑う。

 1人、サラだけが不思議そうに3人の顔を見渡していた。


「……アオイさん?師匠?ムスペルが……何かそんなに面白いんですか?」

「サラには話していなかったかな?」

「はい。私もムスペルで試験を受けてますけど、そんなに何か特殊なんですか?」

「ふふ……アオイさんもいるし、話してしまおうか」

「いいんですけどね、別にいいんですけどもね……!」


 アオイの嘆くような声が部屋に響くが、ハルフは楽し気に笑うだけだ。

 意外と肝が据わっている。

 仮にも最上位薬師なのに、こんな扱いでいいのだろうか。


 まあ、友人と呼んでもいいくらいには関りがある相手である。

 そのくらいの距離間をアオイが好んでいるのも事実なのだが、それでも遠慮がなさすぎる気もする。


「あ、どうせならアオイさんが話しますか?」

「ハルフさんもしかして昇級の件すごく怒ってたりしますか!?」

「いえ別に?」

「アオイさん、師匠は意外と人をからかうのが好きです」

「なるほど納得!」


 元気よく叫んでみても、ハルフの楽し気な顔が余計に楽し気になるだけである。

 仕方がないのでお望み通り話してやろうとアオイは口を開いた。

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