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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
おまけ
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最上位薬師の権能 1

 世界統一薬師免許、というものがこの世界には存在する。

 名の通り世界で統一された薬師の免許であり、試験に合格してその免許を手にすればそれを身分を表す証明書にも出来るというものだ。


 薬師としての腕前の証明であり、位が高ければ貴族としての地位を与えている国もある。

 そのくらいに信頼された基準なのだ。

 故に、その級で想定されていた能力を下回る者がその級を持っていることがあってはいけないのだ。

 それは薬師会全体への不信感を生むものであり、今まで続いてきた薬師の歴史に泥を塗る行為になるのだから。


「……こーがね」

「なあにー」

「全ッ然終わらないね!」

「ここまでため込んだのは主だよ。動かすべきは口じゃないよ」


 そんな薬師免許の最上位、そこにいるだけで勝手に周りがどよめくような存在が今、情けないことを言いながら必死にナベをかき混ぜていた。

 少しなら大丈夫だろうと思って放置していた薬づくりの量が思ったより多く、やってもやっても終わらないのだ。


 なぜこうなるまで放置していたかというと、別にサボっていたわけでもなく。

 ただ、別のことをしていたらそちらの進みが良かったのでついうっかり放置してしまったのだ。

 それでも、こうなったのは全面的にアオイが悪いのでコガネに冷たくあしらわれながらナベを混ぜるしかないのである。


「主ー、入ってもいいですか?」

「いいよー。どしたのモエギ」

「お手紙です。薬師会経由……ハルフ・フィアーさんから」

「ハルフさんから?なんだろう」


 薬師会の中でも上位薬師と言われている階級の者たちは、一定間隔で会議を開く。

 その会場が薬師会の本拠地となっており、そこに住んでいる者たちもいる。

 アオイはそこに自分との通信機器を置いていた。自分が上位薬師会に出席するという連絡と、その他何かがあった時のために。


 本来それを使ってアオイに個人的な連絡は出来ないことにしているのだが、ハルフに関してはアオイが色々任せた結果階級を上げることになってしまっているのでそのお詫びも兼ねて少しくらいならどうぞ、と連絡を受けるようにしてあった。


 それでも、実際連絡が来るのは初めてである。

 何の連絡か気になりはするが、今は手が離せない。

 仕方ないので置いておいてもらい、今作っている薬を仕上げて封を開ける。


 手紙の内容はごく一般的な挨拶から始まり、とある薬学書への疑問とその薬の製作依頼が書かれていた。

 コガネに一言伝えて手紙に書いてある薬学書を取りに行き、内容を確認して手紙の返事を書く。

 届けるのは薬師会経由だ。今はそれの方が早いだろう。


 薬の制作は承ったが、今始めるには少し時間と手が足りない。

 なので一先ずため込んだ薬作成を終わらせてから取り掛かることにした。

 やっている間に手紙も向こうに届くだろう。


 そう考えて鍋を混ぜる行為に戻り、必要分の薬を作り終えたのは夕飯を食べ終えた後のことだった。

 後は風呂に入って寝るだけだ、となったところでハルフからもう一度手紙が届き、その手紙には制作した薬の受け渡し場所と代金についてが記されていた。


 代金については明日考えることにして、何となく返事の内容を考えつつベッドに潜り込む。

 ため込んだ仕事がとりあえず終わったのでそっと息を吐き、そのまま意識は夢の中へ落ちていく。

 ……と言っても、夢は見ないのだが。


 夢を見ることもなく深い眠りについて、気付けばいつものようにコガネに布団を剥がされている。

 はがされなくとも起きれる日が来るのだろうか、と考えてみたりするが、多分来ないので考えても無駄だ。


 アオイの覚醒を確認したコガネが部屋から去っていこうとするので、その前に声をかけて薬の代金について相談を持ち掛ける。

 あまり出回らない薬なので、これといった基準がないのだ。


「材料代を超えてれば取り合えず問題はないけど……ハルフが作れない薬なんでしょ?」

「それがちょっと疑問でねぇ。ハルフさんなら作れる系統だと思うんだけどなぁ……」

「現状作れてないなら、まあ少し高めでもいい気はするけど」

「最低ラインは?」

「……主が作ってる間に考える」

「はーい、お願いします」


 このあたりを丸投げして今まで薬屋をしてきているので、アオイは値段を決めるのが苦手である。

 師匠の店で売っていた薬に関しては値段が完全に同じになっている程度には、自分で考えることを放棄しているのだ。


 周りがそれを許してしまうのも原因だとは思うが、薬に関して口出しするにもアオイの肩書は最上位薬師なので、ものすごく口に出し辛いことだったりする。

 出来ることといったら、せいぜい法外に安くならないように見張るくらいである。


 アオイが着替えて一階に降りると、コガネはお茶を飲みながら材料一覧を見て唸っているところだった。

 作成難易度や材料費を計算しているところらしい。

 唸るコガネに申し訳なくなりながら、アオイは朝食の支度を手伝うことにした。


 寄ってきたセルリアの頭を撫でながら、ほとんど出来上がっている食事の配膳を手伝って、終わったら自分の席に座る。

 今日はいい天気だが、薬を作り終わるころには日は落ちてしまっているだろうか。

おまけの始まり、小話その1です。

アオイちゃんのお仕事の話、です。

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