6,終わり
狭間から出てくると、外は朝日が昇り始めていた。
その光にぐっと伸びをして、狭間に繋がる亀裂は塞いで、流石にもう動きたくないのでリコリスに帰ることにした。
ウラハはもう起きているらしく、連絡を入れて朝食は準備しておいてもらう。
アオイを抱えたコガネが走りだしたところでトマリは陰に消えていき、アオイは心地よい揺れで眠りそうになった。
風呂の中で寝られると困るので、移動の間寝させておこうと、コガネは大きな揺れが起こらないように少しだけ走る速度を遅くした。
トマリは一応近くにいるらしく、斥候のようなことをしているようだ。
今はとにかく、帰宅とアオイの安眠が優先である。
腕の中で器用に寝ているアオイは、何か夢でも見ているのかふにゃふにゃと笑っている。
一足先に報告に行っているのかもしれない。
「……トマリ」
「なんだ?」
「お腹が空いた」
「いや、知らねえよ」
暇なのか、なぜかトマリに空腹を訴えたコガネはそのままジト目でトマリを見た。
謎の反応にトマリがたじろぐと、不満げに声を出す。
「何かないのか」
「なんであると思ったんだ」
「持ち歩いてるのかと思ってたが」
「ねえよ」
時折食事の時にいないからか、何か持っているものだと思ったらしい。
が、残念ながら何もないので不満げなコガネから目をそらすことしか出来ない。
「お腹空いた……」
「……お前、本当にアオイが起きてる時と態度違うよな」
「年上に格好つける意味はないだろう」
「無くはねえだろ」
周りが年長者だけになると自分は子供なのだと主張を始める面倒な白キツネに苦笑いして、トマリは再度リコリスに連絡を行った。
腹を空かせたキツネが騒ぐ、とぼやくとウラハは笑って朝食は多めに作っておくと言ってくれた。
それを伝えて黙らせて、眠いなら運んでやるから寝ろ、というと眠くはないと返される。
空腹と移動の単調さで暇を持て余しているだけらしい。
「ったく。アオイが起きてたら、とか考えねえのか?」
「寝てるのは分かる」
「そーかよ」
そんな会話をしながら走っていると、森が見えてきた。
トマリが影に溶けて先に帰ったので、コガネはアオイを起こしつつリコリスに向かう。
アオイがぼんやりと目を開けたタイミングでリコリスに到着した。
「あ、姉さまお帰りなさい!」
「おー、ただいまセルちゃん。おはよう」
「おはよう!」
朝から元気のいいセルリアに微笑みつつ、眠い目を擦って家の中に入る。
キッチンからは朝食のいい香りが漂ってきたので、急いで手を洗ってきて席に着いた。
この時ばかりは眠気も消える。
何せ、本当に美味しそうな香りが部屋いっぱいに満ちているのだ。
睡眠欲と食欲が真剣勝負をして、食欲が勝利したのだから食べるしかない。
食事に手を伸ばしながらざっくりと事の顛末を話し、のんびりと食事を勧める。
食事をある程度終えると、眠気が一気に襲ってきた。
机に突っ伏しそうになるのをどうにかこらえて部屋に戻り、ベッドに入れば一瞬で意識は落ちる。
熟睡していたようで、次に目を開けたのは夕方になってからだった。
それでも眠たいと訴える脳をどうにか起こしてリビングにおり、コガネを呼んで報告に行くべき人をざっくりと確認する。
報告自体は明日行くことにして、大まかな事態の流れを文に起こしていると夕食に呼ばれたので切りの良いところで仕上げて夕食に向かい、寝支度を整えて再びベッドに入るとやはり意識が落ちるまでに時間はかからなかった。
次の起床は朝になってからで、いつものようにコガネに布団をはがされて目が覚めた。
起き上がってベッドから降り、着替えてリビングに降りるとアオイ以外は皆揃っている。
いつも通りの日常に戻ってきたという実感が急にきて、アオイがふにゃふにゃ笑っている間に朝食の準備は完了する。
食事を終えて荷物を確認し外に出ると、いつ借りられてきたのか馬が草を食んでいた。
コガネは当然のように馬にまたがっているし、トマリも当然のように影に消えていくので何か言う気も消えてしまい、馬の上に引き上げられつつ向かう先を指定する。
「先にレヨンさんのところ!」
「了解。急ぐか?」
「うーん……まあ、日帰りで行きたいしね」
「分かった」
走り出した馬に身を任せて、二度寝がてら目を閉じているとしばらくしてコガネに揺さぶられた。
「え、もう着きました?」
「ああ。……まさか主、寝て……」
「無かったよ、多分。大丈夫だよ、多分」
何か疑うような目を向けてくるコガネから目を逸らして馬から降り、レヨンの家を目指す。
馬を返してきたコガネが合流してから扉をノックして、出てきたレヨンに笑顔で手を振ると頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「無事かーそっかーまあケガする未来はちょっと見えなかったけど安心したわー」
「無事です!報告に来ました!」
「よーし、お上がりよ。もう片付いてるぜ」
「早っ……」
招き入れられた部屋の中は、レヨンの言う通り以前の整頓された部屋に戻っていた。
アオイには絶対に再現不可能な片付けスキルに驚きつつお茶をいただき、詳細の報告を行って。その後話が盛り上がってしまい、帰るのは結局リコリス到着時間が夜になるだろう時間だった。
他への報告は明日に回すことになり、アオイは苦笑いしつつ馬に跨った。
見送りに来てくれたレヨンに手を振って、名残り惜しいがキマイラを後にする。
「ねえコガネ?」
「なんだ?」
「もしかしてだけどさ、明日も話が盛り上がって一か所にしか報告出来ないのでは?」
「……あり得るな」
予定通りにはいかなそうな報告に顔を見合わせて笑い、日が沈む前にとコガネは馬を急がせた。
これで本編は終わりになります。なんだか最後の最後で色々振り落とした気がしますがたぶん気のせい。
ちなみにこの後なのですが、どこかに入れたかったけど入らなかった小話がいくつかあるのでそれをおまけとして投稿しようと思っています。
そのおまけたちを上げきったらリコリスは終了、になるかなと。
説明不足、描写不足、語彙力不足等々あったと思いますが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
おまけの終わりでまた長々あとがき書く気がするので今回はこのあたりで終わりにします!
本当に、最後までお付き合いいただきまして感謝感謝でございます……