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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
16章・神の愛し子
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4,毒風

 道中、トマリとコガネにアオイの魔力を少し分けてみたり、2人の魔力を少し貰ってみたりしながら進み、目的地に到着したのは日が落ち切ってからだった。

 教えられた通りの場所にあった、洞窟の奥。


 そこには時空の裂け目とそこから広がる深い闇があった。

 時空の狭間、と呼ばれる場所に繋がっているようだ。

 そこは、本来人が入ることの出来ない領域。


 狭間には、神話の時代からこの時代に移り変わる時に失われた島々が浮かんでいる。

 精霊界、魔界などと呼ばれるものも存在していて、今の世界にはない技術も狭間には残っていたりする。

 その代わり、何度でもいうが本来は人が入り込めない危険な空間である。


 適応できない人間が入ると、自我を失うか肉体が崩壊するか、全く別の生物になってしまうか……とにかく色々悲惨である。

 アオイは適応云々知らなかった、くらいの適応者であり、お供たちはそもそも人間ではない。


 故に、この時空の狭間に入り込むことに躊躇いはなく、アオイはコガネとトマリの手を取って狭間に足を踏み入れた。

 奇妙な浮遊感と、上下前後左右、何が何やら分からなくなってしまう感覚。


 それでも、両手がそれぞれ握っている手の感覚と、昔に入り込んだ経験等で向かいたい方に進んで行けるくらいにはアオイはこの空間に慣れていた。


「どの島に?」

「それがね、島にはいないみたい」

「……狭間にずっと居座ってやがんのか?」

「そうみたいだよ」

「マジかよ……いよいよ人間じゃねえな」


 狭間に点在している島のどこかにいるならそれを探せばいいのだが、ヤトゥールは島ではなく空間のどこかにずっと立ち止まっているらしい。

 適性があってもそれなりに辛いであろう行為だが、そうまでして何かしたいことがあるのだろうか。


「えーっと……たぶんこっちかな。……というかさ、今更だけどもさ」

「どうしたんだ?」

「レヨンさんの小鳥、狭間に適応できるってどんな魔力……?」

「……確かに」

「サクラとモエギは入れねえんだろ?」

「うん。……あの子が相当特殊なんだろうねぇ」


 帰ったらお土産に何か持っていこう、何がいいだろうかとそんな相談をしつつ、その小鳥がヤトゥールを見たという景色を探す。

 あってないようなヒントだが、ないよりはマシだし探しやすい。


 狭間は広いが、あの裂け目から入ってそう遠くない場所に居るというならどうにか見つけられるだろう。

 あまり時間をかけて探したくはないので、コガネの魔力も使って視覚と認識の範囲を広めつつ心当たりのある場所を見てまわる。


 見つけるまでに、そう時間はかからなかった。

 移動中にコガネが魔力を見つけ、それを辿って行ったところにヤトゥールはただ立っていた。

 何か防護壁を置くわけでも、ほかの者に護衛をさせるわけでもなく、ただ1人でぼんやりと立ちすくんでいる。


 その姿を見つけてから、アオイがゆっくりと近付くとヤトゥールは邪気のない笑みを浮かべて振り返った。

 まるでアオイの到着を心待ちにしていたような笑みだった。


「こんにちは、代行者」

「初めまして、ヤトゥール」

「ヤトゥール……そうか。貴女は僕をそう呼ぶのか。なら、僕もそう名乗ろう」


 いい名前をありがとう、と心底嬉しそうに笑ったヤトゥールを、アオイは表情を変えずに見定めた。

 まだ若い青年の姿をしているが、人から外れてどのくらい経ったのか。

 隠す気がないからだろうが、気配も魔力も人でない何かになり果てていた。


 そして、実際に対峙して確信に変わったものがある。

 ヤトゥールには、悪意がないのだ。

 何か目的があって、それを成すために人に害を与えたが、それに悪意を持たせていない。


 黒ウサギとはまた違った狂い方である。

 ただの悪人であったなら、何も考えずに倒してしまえたものを。

 そんなことを思って、アオイは心の中で笑った。


 何も考えずに、などと、そう割り切れないのは自分が1番良く知っている。

 コガネに目を向けると、繋いだ手に少し力を込められた。

 あまりゆっくりしているわけにもいかないのだ。


「ギューヴィルの毒を各地に撒いたのは貴方ですね?」

「うん。そうだよ」

「第2大陸に開いた穴と、この間のゾンビと……あとは、フォデーグに龍を襲わせたのも?」

「ああ、僕がやった」


 その応答には、やはり悪意など欠片もなく。彼の表情も笑顔のままだ。

 それゆえにアオイは、真顔だった表情を薄い笑みに変えた。

 いつもの穏やかな笑みとは違う、どちらかというと威嚇的な笑み。


 それを見たコガネの顔が強張るような表情だ。

 普段は絶対にしないその笑顔のままアオイはヤトゥールに向き直った。


「それで、何がしたいんですか?」

「あれ、気になるの?」

「そりゃあ、気にならなければこんなところまで来ませんよ」


 ヤトゥールは一瞬不思議そうな顔をして、アオイの目を見てにっこりと笑った。

 アオイが本当に自分の目的を理解していないことを楽しむように、その眼は細められる。

 そして、ヤトゥールはアオイを指さして言った。


「神の力を、見てみたいんだ」

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