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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
16章・神の愛し子
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3,寄り道

 向かう先は、アオイの4体目の契約獣の元。

 契約獣の中でアオイが唯一敬語を使う相手、ヒソクの元だ。

 何か用事があるわけではないが、会っておいた方がいい気がしていた。


 地上に出てこないヒソクは、コガネでもはかり切れない存在であるらしい。

 最上位のドラゴンであるが、種族の格としてはコガネやシオンの方が上。それでも、下に見ることなどできない何かがあった。


 森を抜け、谷底まで一気に降りて横穴に入り込む。

 進んでいくうちに空間自体が光り始め、その不思議な空間の最奥に流水のようなドラゴンが鎮座している。


「うむ、来たか」

「はい。来ました」


 以前来てからそう時間も経っていないのだが、ヒソクは不思議がることも、何かを聞いてくることもなかった。

 ただ、自分の身体に触れるアオイを包み込むように身体を動かし、ゆったりと声を発する。


「行くのか」

「はい。……これで、この件は終わるはずです」

「そうであろうな。お主の苦労も、一旦は打ち止めだ」

「よ、よかった……これ以上続くと投げ出したくなるところでした」


 何も言っていないのに、全てを見通すかのような静かな声でヒソクは言う。

 洞窟の光を反射して色味を変える鱗からは、水音が聞こえてきた気がした。

 その水音に耳を澄ませて、身体を預けていると、アオイは自分が纏っていたヒソクの気配が変化していることに気が付いた。


 アオイは、最上位ドラゴンの加護を纏っている。

 それはアオイが何かに襲われたときに自動で発動する守りの1つであり、アオイを悪意あるものから隠す目くらましであり、彼女の異常を知らせる鈴であった。


 ただでさえ色々と効果を盛っている加護なのに、今回また何か過保護が追加されたらしい。

 これ以上何を盛るのか、アオイにはいい加減分からなくなってきているくらいである。

 それでも盛るらしいので、まあ悪いようにはならないしいいだろうと全て任せることにした。


「……よし。気をつけて行っておいで」

「はい!帰りも会いに来ますね」


 笑顔で手を振ると、頭を撫でられた気もするが彼が人の形をとっていないので、撫でられはしないはずである。

 気のせいだろうかとも思ったが、それにしてはやけにはっきり撫でられた感覚がある。


 帰りに寄ったら聞いてみようと思いつつコガネに谷の上まで運んでもらい、どうするか聞かれてリコリスとは違う方向を指さした。

 さした先は、レヨンのくれたメモに書いてあったヤトゥールの居場所である。


「このまま行っていいんだな?」

「うん。早く終わらせよう」

「分かった」


 レヨンから渡されたメモには、居場所のほかにヤトゥールが関わったと思われる事件が大量に記載されていた。

 アオイが知っているものから、まったく知らなかったものまでさまざまだ。


 よくここまで調べたものだ、と思いつつ紙をめくると、この前のゾンビ事件も記入されていた。

 追記で使われていた死体の元居た国も書かれていたので、それをコガネに見せつつどうしようかと考える。


 元の場所に戻してあげたい気持ちもあるが、大移動は目立ちすぎる。

 誰かに手伝ってもらおうか、などと考えていたら、トマリに肩を叩かれた。

 目を向けると、前方に顔を向けられる。


「……え、何あれ」

「さあな。魔獣の一種だろ」

「主、どうする?」

「うーん……トマリ?」

「先行ってろ」


 前方には、何かよくわからないドラゴンのような狐のようなキノコのようなものがいた。

 トマリが影から抜けて先に走り出し、コガネはアオイを抱えたまま跳び上がってそれの上を超える。

 アオイが情けない悲鳴を上げつつコガネにしがみついている間に、ソレからはどんどん遠ざかっていく。


 トマリは強いし、影に入ればコガネより速いのでそのうち合流するだろう。

 そんな信頼があるので、後ろは気にせずに先を急ぐ。

 何かあればコガネが気付くだろうから、アオイはとりあえず何も考えないでコガネにしがみついた。


 絵面がなかなか滑稽だが、安全が最優先なので仕方ない。

 そもそもアオイが急いで移動しているときに格好付いていることなどないのだから今更だ。


「あとどのくらいかな?」

「まだ先だな」

「そっかぁー」

「疲れたか?」

「いや、慣れてきた」

「そうか」


 当然のように強行軍でやってきたが、実はそれなりに距離があるのだ。

 この後何があるか分からないので移動で全力を出し尽くすわけにもいかず、だがのんびり歩くわけにもいかず。


 とりあえずそれなりの速さで進んでいるので現状はそれでいいとして、アオイはそっと天を見上げた。

 今回ばかりは、流石に必要になるであろう自分の力と、その源に思いをはせてみたりしつつ。

 ぼんやりと見上げていた空との間に、急にトマリが割り込んできた。


「わあ、おかえり」

「おう」

「あれなんだった?」

「知らねぇ。レヨンの鳥が来てたから、帰ったら聞いてみようぜ」

「そっかー」


 合流したトマリは、そのまま影に沈んでいった。

 そう消耗した気配もないので、あまり強くはなかったようだ。

 コガネも、まだまだ余裕があるようだし、まだ到着まで時間がある。


 アオイは目が合ったコガネに笑いかけ、もう一度空を見上げた。

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