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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
16章・神の愛し子
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2,準備

 レヨンは物が大量に置かれた机の上から何かを探しているようだった。

 邪魔にならないように少し避けて立ち、部屋の中に目を向ける。


「ああ、そういえば連絡に行かせた子は?」

「随分疲れていたようなので休ませてますよ。疲れが取れたら戻ってくると思います」

「そっか。ありがとね」

「いえいえ」


 話しながらも、捜索の手は止まらない。

 そんな中、アオイの目に1つの箱が止まった。

 この部屋の中で、ここだけが整えられている。


 箱の中を覗くと、柔らかな布が敷き詰められていた。

 その中心に埋もれるようにして眠っている小鳥がいる。

 レヨンの使い鳥のようだが、ピクリとも動ないさまは少し心配になってしまう。


「レヨンさん」

「なんだい?」

「この子は?」

「その子がヤトゥールを見つけてくれたんだ。随分危険な場所にいたらしくてね、弱って帰ってきたから休ませてる」

「なるほど……ポーションとか貢いでも?」

「わーい」

「わーい。飲めますかね?」

「水は飲めてるから大丈夫だと思うよ」


 許可を貰ってポーションをカバンからだして小皿に移し、小鳥の前に差し出すと小鳥がゆっくりと身体を起こした。

 そのまま不思議そうにアオイを見つめ、差し出された皿からポーションを飲み始める。


「ありがとうね、頑張ってくれて」

「チュピピ」

「うん。ゆっくり休んで」


 ある程度ポーションを飲んで、小鳥はまた倒れるように眠りに落ちた。

 ポーションはそのまま箱の横に置き、眠った小鳥を撫でているとレヨンが声を上げた。


「やーっと見つけた!いい加減整理しないと」

「これ、もしかして全部……」

「そ、ヤトゥール絡みよ。もーね、仕事増えすぎ」


 適当にまとめられた髪を弄りながら、レヨンはアオイを手招きした。

 寄っていくと1枚の紙を渡される。

 紙には、簡易的な地図と説明が書かれていた。


「……ここ、ですか」

「そう。ここの崖に穴が開いていて、そこから時空の隙間に入り込んでるみたい」

「……なる、ほど。コガネ?」

「行ける」

「さっすがぁ」

「行くのかい」


 レヨンの目は、いつになく真剣だった。

 彼女にはアオイの背負ったものを伝えていない。だが、別段隠してもいない。

 察しの良い彼女のことだ、ある程度察していて、それでいて心配してくれているのだろう。


「はい。行ってきます」

「そっか。……そっか。うん、気を付けてね」

「はい!」


 一度下を向いて、もう一度目が合った時、レヨンはいつも通り読めない笑みを浮かべていた。

 集めた情報を簡易的にまとめたという紙も追加で貰い、レヨンの家を出る。


「もう本当、気をつけろー?」

「はい。……大丈夫です、無茶はしません」

「そっか。信じるからね」

「大丈夫ですよー。私が嘘言ったことあります?」

「わっかりやすいのなら4回くらい」

「ば、ばれてる……」


 そんな会話をして、いつものように手を振って別れる。

 帰りは、1時間の特急はせずにもう少しだけ時間をかけて荷物をまとめなおすためにリコリスに帰ってきた。


 それでも疲労の酷かったコガネは一旦風呂に入りに行き、アオイとトマリは荷物の確認をしながらセルリア以外に行先と目的を伝えて、とにかく無茶はしないから待っていてくれ、と笑顔を向けた。

 小鳥組からはしがみつかれたが、シオンとウラハは一瞬天を仰いだ後はいつもの表情に戻っていた。


 くれぐれも無理はするな、何かあったら呼べばそこまで飛んでいく、と何度も念を押されて、アオイがウラハに髪を結われている間に身支度を終えたコガネがやってきた。

 連れていくのは、コガネとトマリだけ。


 いつも連れていくのがこの2人だけである理由はそれなりに簡単だ。

 何があろうと自分を守れる戦闘能力を持っているのが、契約獣の中でこの2人なのである。

 小鳥組は単純に弱く、ウラハとシオンは能力が戦闘に寄っていない。


 コガネも直接戦闘に参加するよりは補佐に回ったほうが向いているのだが、それを差し置いても戦えるし逃げられるし守れるのだ。

 そもそも、アオイはコガネを置いて行くという選択肢を持っていない。


 彼女の本来の力を使うにもコガネの手は必要だ。

 それだけでなく、この世界で何かするとき、どこかに行くときにコガネがアオイの横にいなかった時はない。


 もはや刷り込み、それを超えて本能までいっているくらいに、彼らは行動を共にする。

 契約獣が増えてからはコガネが少し遠出をすることはあったが、それでもアオイがどこかに行くときには絶対にコガネも不在になる予定で組まれているのだ。


 他は連れていくかどうか、というところから話が始まるのに、コガネだけは最初から予定の中に組み込まれていて日程調整を丸投げされている。

 アオイにとってコガネは特別であり、アオイの行動は、コガネがいなければ始まらないのだ。


「準備は?」

「出来たよ」

「このまま?」

「うん。寄り道してから」

「分かった。……サクラ、モエギ」


 コガネに手招きされた小鳥組は、アオイの裾を掴んだまま顔だけコガネに向けた。

 自分たちが行けないのは分かっているが、何も出来ないで送り出したくはないというそんな絶妙な顔をしていた。


「……いや、行けないから」

「分かってるよー!」

「分かってるんですよー!」

「私たち弱いもん!知ってるもん!だからコガネに任せるの!」

「そんなわけですコガネさん」

「いや、うん?まあ分かった」


 コガネと小鳥たちの付き合いも長い。

 アオイのお供が3人だけだった時期は、それなりの時間があった。

 仲のいい彼らは、何かコガネに託してアオイの裾を離した。


「行ってらっしゃい!」

「行ってきます。あ、帰りの時間は分からないけどご飯食べたいです」

「串焼き作ってますね」

「やった」


 ただの遠出のような会話をして、アオイはコガネに抱えられて再び森に入った。

 向かうのはヤトゥールのところ……の前に寄り道をしてから、である。

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