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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
16章・神の愛し子
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1,急展開

 薬屋・リコリス。その建物の中にある作業部屋にて、最上位薬師とは思えない情けない声を上げながらアオイはせっせと薬を作っていた。

 ここ最近、前にも増して薬の売れ行きが良く、売り切れで渡せないなんて事態を起こさないために必死に制作しているのだがそれでも平行線である。


 暇よりいいのだが、暇が欲しい。

 今日だっていい天気だから外で寝転がりたいのを我慢して薬を作っているのだ。

 シオンが寝転んでいるのを時折羨ましそうに眺めつつ、それでもしっかり働いているのだ。


 1人なら投げ出していそうなところだが、コガネも一緒なのでどうにか頑張っているところである。

 この多忙のせいで、少しづつ進めていた新薬の案が頭から抜け落ちてしまった。

 メモを見返してもその時の自分の考えが分からないので困りものだ。


 もっと正確なメモを残せ、と過去の自分に怒ってみてもどうにもならないので一旦諦めているが、あれをもう一度考えるのは骨が折れる。

 その前にこの大量の薬作りを終わらせなければならず、まずその時点で複雑骨折だ。


 なんてことを考えながらナベをかき混ぜていると、何かが窓にぶつかる音がした。

 驚いてそちらを見るとレヨンの使いの鳥が物凄く急ぎの様子で窓を叩いている。

 慌ててナベをコガネに任せ、窓を開けると息も絶え絶え足に着いた紙の回収を求めてきた。


「なんて書いてある!?」

「まって、待ってね……」


 コガネと小鳥に急かされながら紙を回収し、広げて内容を確認する。

 そこには、几帳面なレヨンにしては珍しい殴り書きの文字でこう書かれていた。


「ヤトゥールを見つけた、至急来られたり」

「……は?」

「コガネ、手は止めないで!トマリ!」

「聞いてた。どうすんだ?」

「行く。全員に通達、ポーションは濾すところまででいいよ、残りは帰ってきてからね」


 紙を握りしめて、アオイは極力焦りを顔に出さないように指示を出す。

 そして、そのまま作業部屋を出て自室に向かっていった。

 コガネは薬を作り終えなければ動けないが、トマリはそのまま後を付いてくる。


「馬は?」

「いらない、そんな時間はなさそうだから」

「……足りるか?」

「足らせる。ちょっと、限界には挑戦してもらうけど」

「……先に?」

「いや、一緒に」


 アオイの身支度を邪魔しない程度に、トマリは様々な確認をしていく。

 その間にウラハから最低限で至急向かえという意向が届き、それを伝えるとアオイは緩く微笑んだ。


「大丈夫か?」

「うん。思ってたより、少し早いけど。……でも、いつかこうなる気はしてたんだ」

「勘か」

「うーん……というより、ほら。レヨンさんの情報網からいつまでも逃げられはしないかなって」

「……いや、あいつ一応一般人だろ」

「え?」

「ん?」


 なにか意識のすれ違いがあった気もしたが、そんなことを気にしている余裕はないのだ。

 作っていた薬は、もう作業の終盤である。アオイが支度を終わらせて戻るとコガネが魔法でナベを浮かせてまとめて濾し器に移しているところだった。


 強引に見えるが、一滴も零していないあたり流石である。

 コガネがナベをもとの位置に戻している間に薬の保管部屋に寄って、作業部屋から出てきたコガネに抱えられて一気にレヨンの元を目指す。


 レヨンの小鳥は疲れが取れるまでリコリスにいるように言ってある。

 元々彼女のもとにいた小鳥2人がいるので、世話は焼いてくれるだろう。

 連れて行こうかとも思ったが、この移動速度はなかなか危険だ。


 コガネがアオイを抱えて、魔法で多重に保護をかけた上での加速。

 風を纏って、地面を蹴って。

 言ってしまえばそれだけだが、それだけに魔力をつぎ込んでいる。


 アオイが自前で掛けた分の保護は解いて、その魔力も足に向ける。

 加えてコガネの影に沈んだトマリがその足を押して一歩の大きさを長くしていく。

 関所を抜けずに海の上をすり抜けて、あまりの暴風を伴っているので人は避けて。


 普段1日かけて馬で進む道のりが、魔法特化種族が本気で頑張った結果1時間ほどで到着してしまった。

 キマイラが見えてきた時点でブレーキをかけ始めたが、止まったのは門にだいぶ近づいてからだった。

 そのまま入国し、急いでレヨンの家を目指す。


 ちなみに無茶な移動方法を取ったせいでアオイは目を回してぐったりしており、コガネは魔力を一気に使いすぎてぐったりしている。

 しているが、それ以外に被害はない。上々である。


 トマリが扉をノックしている間にコガネに揺さぶられてアオイが目を覚ましたが、酔ったのかまだぐったりしている。

 少しして扉が開き、明らかに作業中だったレヨンが出てきてトマリとアオイの顔を綺麗に2度見した。


「……はっや」

「めっちゃ、急いで……うぇ……」

「おお、みたいだね、お疲れ。とりあえず入りな」


 招き入れられた室内は、珍しくものが乱雑に置かれていた。

 アオイも急いできたが、レヨンも急いでいたようだ。

 とりあえず、とコガネに魔力ポーションを差し出し、コガネがそれを一気飲みするのを横目にアオイはレヨンに向き直った。

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