10,報告
ゾンビやら魔窟やら、盛沢山だった日から一夜明け、アオイたちは報告のためにギルドを訪れていた。
昨日の夜のゾンビと謎の発光は、やはり話題にはなっているようだ。
だが、誰も詳細を知らないし、もうどちらも消えてしまったから調べようがない、らしい。
それらのすべてはトマリが拾ってきた噂なので、詳しいことはギルド長に聞くとしよう。
そんなわけで眠い目を擦って服を着替え、朝は早くからギルドを訪れた。
白髪の青年を伴ったフードの小柄な人影、というだけでアオイだと認識したのか、職員の方から声を掛けられる。
ギルド長の職務室まで案内されたので、入室前にフードは取って笑顔で報告に訪れた。
ギルド長は、何やら書類に囲まれて忙しそうである。
あまり長いはしない方がよさそうだ。
「ああ、キャラウェイ様、よくぞいらっしゃいました」
「おはようございます。魔窟内部のご報告を」
「ありがとうございます。どうぞおかけになって下さい」
促されてソファに腰を下ろし、アオイは正面に来たギルド長を見据えた。
コガネが内部の罠やら道やら、アオイには良く分からない報告をしているのを聞きながら、ただじっとギルド長を見つめる。
それでも揺らぎのなかったギルド長に若干の笑みを零し、さてどれをどこまで話そうか、と今更になって考える。
全てを言うわけにはいかないが、全て言わないわけにもいかないのだ。
「それで、最深部は……」
「若干崩れてはいましたが、穴は見つかりませんでしたね」
「そう、ですか……」
「魔力による修復の跡があった。それで塞がったんだろう」
コガネが理由を付け加えてくれたので、これで穴に関しては逃れられるだろうか。
地竜が地面を動かすのは、正確には魔法ではないらしいが魔力を使ってはいるらしい。
魔力による修復、なら嘘は言っていないのだろう。
「それと、もう一つ。昨夜の謎の光はご覧に?」
「魔窟から出てきたら、急に光始めましたねぇ。何かを認識する前に消えてしまいました」
「なるほど……そうですか」
「あの光が何か、分かりそうですか?」
「残念ながら。何も痕跡がないもので……」
「そうですか……報告は、これだけかな?」
「そうだな」
「そうですね。お忙しい中ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ無理を通していただきまして」
笑顔で言い合って、これにて魔窟関連のやることは終わりである。
それ以外の用事は特にないので、このままリコリスに帰ることになりそうだ。
ギルドから出て、帰る前に市場を見ていこう、と船に乗る。
コガネがモエギに連絡を取って、何か必要なものがないか確認している間、アオイは何となく興味をそそられる出店を眺めて暇を潰していた。
コガネが連絡を終えて船を漕ぎだしてから、気になるものを指定してそれを眺めてみたりして、ある程度買い物を終わらせる。
トマリは先に馬を借りてくると言っていたので、買い物が終われば後は帰るだけだ。
買い忘れがないか確認して、船を返して陸に上がる。
まっすぐ歩きだしたコガネについていくと、トマリのもとに着いた。
何かしらの確認方法を持っているのか、単純に魔力が特殊でたどりやすいのか。
どちらもありそうだが特別聞いてみる気もないので、何も言わずに馬にまたがる。
それと同時にトマリは闇に溶けていった。
「夕方までにつくかな?」
「ああ、今日は天気もいいからな。駆けていけば日暮れに間に合う」
「じゃあ夕飯はモエギのご飯だ」
「そうだな」
ゆるゆるとそんな話をして、国を出て馬を走らせる。
通り道には昨晩ゾンビが大量発生していた場所も入っていたが、光の後も闇の後も何も残ってはいなかった。
その代わり、少しだけ地竜の魔力が感じられる。
彼を知っていて意識していなければ気付かない程度の残り香だ。
おそらく、後処理までしてくれたのだろう。
機会があれば、何か手土産をもってもう一度訪れてもいいかもしれない。
闇蝶は来るなと言っていたが、やはりそちらにも何か持っていきたい。
そんな気分である。
「嫌がられるかなぁ」
「不安なんだろう。置いてくるだけ置いて、ささっと戻ってくればいいんじゃないか?」
「なるほど。……あ、もしくは光魚と一緒に行くとか?」
「それでも反応は同じだと思うぞ」
「そっかー」
それなら、単身乗り込んでもよさそうだ。
向こうは嫌がるだろうが、こうなっては意地である。
手土産は何がいいだろうか、なんて考えながら馬に揺られていると、移動の時間はあっと言う間だ。
気付けば関所に来ていて、気付けは森の入り口に着いている。
森に入れば、もうリコリスまで秒読みだ。
到着と同時にセルリアが飛び出してきたのでそれを受け止めて、馬を返しに行くらしいトマリを見送って家の中に入る。
「ただいまー」
「おかえりー」
「あ、お帰りなさい!」
「ただいま。夕飯なーに?」
「豚肉のソテーです」
「お腹空いてきた」
今回のお出かけの報告は、夕飯が終わった後だ。
今は荷解きと夕飯の手伝いが最優先事項であり、それ以外にやることはそんなにない。
夕飯中は留守の間にあった細々した報告を聞いて、いつも通りに1日が過ぎ去った。
15章はこれで終わりになります。
次、16章で予定通りならリコリス完結……になりそうです。
もう少しお付き合いいただければなと。