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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
15章・地の底
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9,方法は

 日が徐々に沈んでいくのと同時に、足元のゾンビは動きを滑らかにしていく。

 完全に日が沈む前に、どうするか決めなくてはいけない。

 と、言っても今のところ方法は1つだ。


 アオイがいい加減覚悟を決めてコガネに声をかけようとしたところ、コガネが静止するように手を上げた。

 そのまま、何か考えるように遠くを見ている。


「コガネ?」

「主、まだ大丈夫だ。まだ……」

「え、大丈夫なの?もう日が落ちるけど……」

「ああ、日が落ちても、こいつらはまだ移動しない」

「なんで?」

「まだ、そこまで成長していないからだ」

「はえ?」


 さっきまでのそれなりに緊迫していた気がする空気が、一瞬でどこかに行ってしまった。

 間抜けな声を出したアオイは、そのままこちらに向き直ったコガネの目が嘘を言っていないことを確認する。


「せ、成長ってなに?」

「こいつらは、作り出されてからここで眠って居た。これから、徐々にすべきことを理解していく……はず、だ」

「はずなの」

「たぶん……」

「コガネが煮え切らないのも珍しい……」


 煮え切ってはいないが、コガネが言うならとりあえず信じるのがアオイである。

 それならまあ少し待ってみるか、と考えを改めて、そっと目線を動かす。


「トマリ」

「なんだ?」

「蛇蝎との違いについて詳しく」

「あー……そんな詳しくねえぞ?」

「いいよ」


 コガネは何か考えているようなので、それを邪魔しないようにトマリに声をかける。

 思いついた話題を振ると、トマリは困ったように頭を掻きながら話し始めた。


「あいつらは、少しでも生前の記録がある死体を使わない。ただ、かつて人だったものと認識できる程度で、それを国やら個人やらに当てはめは出来ない。……ここにいるのは、装備もそのままだな。紋が入ってるみてぇだからその気になれば特定できるぜ」

「……美学的な?」

「知らねぇ。あいつらの考えは分かんねぇし分かりたくねぇ」

「影獣ズ仲悪いの?」

「……歩み寄れる類の集まりじゃねえからな」


 面倒くさそうな、嫌そうな顔でそんなことを言ったトマリに苦笑いしつつ下のゾンビたちに目を戻す。

 確かに、似通った装備を纏っている気がする。

 機会があれば、国の特定をしてみてもいいかもしれない。


 そんなことを考えて、アオイはコガネの横顔を盗み見た。

 何かを考えているのか、探っているのか、待っているのか。

 まだ声はかけない方がいいだろうか、と悩んでみていたら、コガネが勢いよく振り返った。


 その目線を追ってみると、夜の空に輝いているものがある。

 月ではない、動いている何かがゆっくりとこちらに向かってきているようだ。


「……コガネ?」

「ああ、来たな」

「あれって、光魚だよね?」

「ああ。連れてきてくれたみたいだ」


 周りからすれば噛み合っていないようにも見える会話だが、2人は通じているので問題ない。

 アオイが大きく手を振ると、答えるように光が点滅する。

 そして、近付いてくる光から声が聞こえてきた。


「お、おい!本当に大丈夫なんだな!?」


 声は、空に浮いている光ではなく地上から。

 同じ光に包まれて歩いてきていた者の声だった。

 それは、以前アオイが訪ねて行った闇蝶の声。


 自分を包んでいる光の主、光魚に向けていったようで、光魚は笑顔で頷いてそれに答えた。

 そして揃ってアオイのもとに現れた対の神獣は、猫に呼ばれてきたのだ、と短く告げた。


「そうなんですねぇ。ありがとうございます」

「いや、まあ、うん……で、あれを倒せばいいんだな?」

「はい。出来ますか?」

「まあ、倒すだけならな。もう一度殺してしまえばいいんだろう」


 中々物騒だが、この場においては頼もしい発言にうなずいて答える。

 闇蝶の毒は、闇に依存している。

 光の中ではその毒は効果を発揮しない。


 今は夜。闇という点では十分すぎるほど十分である。

 光魚は存在自体が光に包まれているというか発光しているので、闇蝶の毒は効果がない。

 故にその光で闇蝶を包んで、鱗粉を撒いてしまわないようにここまで移動してきたのだろう。


 それなりに距離があるのに、外を恐れる彼が来てくれたというだけでアオイ的には涙が出てきそうである。

 これが親心なのだろうか。


「……このままだと、ダメだな」

「拡大は得意だ。光魚」


 悩むように下を見下ろした闇蝶の呟きにコガネが答えて横に並ぶ。

 光魚は楽しそうに頷いて、両手に息を吹きかけた。

 そこから光の粒子が飛んでいく。


 それをコガネが広げていき、辺り一帯を包んでいく。

 ゾンビをすべて光の中に収めて、それとは別にアオイたちを包んで光の拡張は終わった。


「……大丈夫なんだな?本当に大丈夫なんだな?……分かった……」


 光魚に最終確認をして、闇蝶はゾンビたちの中に降り立った。

 光魚の光が消えた瞬間から、ゆっくりと鱗粉が舞い始める。

 服の裾から、髪から、瞬きの瞬間にも鱗粉が放たれていく。


 傍にいたゾンビから倒れていき、全てのゾンビが倒れるまでそう時間はかからなかった。

 終わりは、案外あっけない。

 全てが元の動かない死体に戻ったのを確認して、闇蝶は少し距離を取りつつ同じ高さにやってきた。


 光魚が再び彼を光で包んで、手を引かれてようやく同じ空間に戻ってくる。

 ちらちらと後ろを振り返っているのはゾンビを確認しているのか、土地を心配しているのか。


「ありがとうございました」

「ああ……これで、大丈夫か」

「はい。助かりましたー。今度お礼に何か持っていきますね」

「こ、来なくていい!」


 そんなやり取りをしてから、闇蝶と光魚は去って行った。

 手を振ってそれを見送り、アオイは地竜に向き直る。

 足場は、いつの間にか地面と同じ高さに戻っていた。


「地竜も、ありがとうございました」

「いえ……では、これで」

「はい。穴はなかったと報告しておきます」

「ありがとうございます」

「あれ?バイバイ?」

「うん、バイバイ。またそのうち会えるでしょう」


 地竜と黒ウサギも、地面に埋まるようにして元の住処に帰って行った。

 それを見送って、アオイはぐっと伸びをする。

 さっさと宿に戻って眠ってしまいたかった。


 その思いからか、ずっとこちらを見ていた人影に、珍しく誰も気が付かなかった。

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