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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
15章・地の底
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7,地の底

 アオイに一礼したその人は、発していた威圧感を引っ込めてアオイに向き直った。

 ニコニコと笑っているアオイに、何を言うか迷っているようである。


「……貴女が、ここに来るとは。何が用が?」

「いえ、貴方に会いたかっただけです」


 そういって笑うと、相手は余計に困ったようだ。

 そうなるだろうとも思っていたが、それでもあえてそれ以外には何も言わないのがアオイである。

 シオンと出会った時も同じようなやり取りをしたが、シオンは納得の声を上げてふにゃりと笑っただけだった。


「……ああ、それと、聞きたいことがいくつか」

「そう、ですか。……ここでも?」

「はい」


 笑って答えると、アオイの後ろの地面が盛り上がった。

 ちょうど座るのに丁度いい高さになった地面は、土というよりは岩のようである。

 お礼を言ってそこに座り、アオイは余計に高くなった相手の顔を見上げた。


「……地竜、座りましょう?」

「分かりました」


 首が痛くなりそうなのでそんなことを言って、着席を促した。

 自分の分と、ついでにコガネの分も出して座った地竜は、改めてアオイに向き直る。


「……先に1つ、お伺いしても?」

「どうぞー」

「この前も、ここに人間が入りこみまして。どこかと繋がりましたか?」

「ここの先が魔窟に繋がっていますよ。そこのボスが倒されたので」

「……なるほど」


 ため息をついて、地竜は目元を抑えた。

 地竜は、神獣の一種だ。

 神獣の一種なのだが、人間嫌いである。


 このままだと人間がそれなりに来るので、それは悩みの種だろう。

 アオイからすると、大変そうだなーくらいの感覚である。


「塞げないんですか?」

「塞げ……まあ、やってみましょう」

「とりあえず、洞窟の先には何もなかったとだけ報告しておきますよ」

「そうしてくれると。……そちらの用事は?」


 聞かれて、アオイはコガネを見上げた。

 残念ながら目線は合わない。


「……世界に、毒を撒いているものを知っていますか?」

「ヴェレーノですか」

「ヴェレー……」

「他に呼び名がありましたか」

「ヤトゥールって呼んでました」

「なら、それで」


 アオイの知識の中の地竜は、敬語で話しているイメージがないので、今更だが若干の違和感がある。

 別にいう気はないが。ないのだが。


「不穏な動きは、あちこちで。地だけではないようです」

「むーん……」

「何か目的があるようですが、どうにも小さな騒ぎしか起こさない。……何かを、待っているような不穏さだ」

「……むん……」


 唸りながら話を聞いていると、洞窟の奥から足音が聞こえてきた。

 軽快な足音は、そのまま近づいてきて地竜の背に飛びついた。


「何してるのー!」

「……黒、落ち着け」

「あ、愛し子?愛し子だー!初めまして!」

「初めまして、黒ウサギ。……ここで暮らしているの?」

「うん!ボク地竜に拾われたの!」


 地竜の背中に乗っかって元気よくそんなことを言った黒ウサギは、以前に出会った個体とは違う子だ。

 それでも、素直な子供のような反応は同じもの。

 ニコニコと笑う黒ウサギに笑い返して、アオイは地竜に向き直る。


「前に、別の子に助けられたことがあります。なかなか上手く育った子だと思っていたのですが」

「……黒ウサギに、子育ての能力はない。見つけたら保護はしている」

「なるほどー」


 黒ウサギは、成体になっても成熟はしない。

 どこまでも無垢で、どこまでも残忍で。

 そこから進むことも退くことも出来ない。それが、黒ウサギだ。


「なに話してたの?」

「何でもない。……片付けは?」

「した!」

「そうか」


 じゃれる2人を見て、アオイはそっと微笑んだ。

 地竜は、幼体の黒ウサギを回収することがあるとは聞いていたが、実際に見るとなかなか微笑ましい。


「長居するのも悪い気がしますねぇ」

「別に構いませんが…………いえ、待ちましょう」

「どうしました?」

「上に何か居ます。……何か」

「コガネ?」

「何か居る。何かは分からない」

「2人が分からないなら、見てくるしかないか。トマリ?」

「……あん?なんだこれ」

「トマリも見たことないの?」


 上を見に行っていたトマリが、疑問のような気の抜けた声を出した。

 トマリが見たことのないものとなると、いよいよしっかり見に行かなければいけない。

 そもそも、地上から出ないと帰れないのでいつかは出ることになるのだ。


「魔窟上がって間に合うかな?何か起こりそうだけど」

「いえ、このまま上まで行きましょう」

「……地竜ってすごいな……」

「主、主、俺も出来なくはないぞ」

「地竜の専門分野で張り合わないの。……黒ウサギは、どうしますか?」

「いくー!ボクも行くー!」

「……放置も危険か。離れるなよ」

「うん!」


 トマリは、影を伝ってすでに上に出ているようだ。

 地竜が指定した範囲に収まってじっとしていると、その部分の地面が盛り上がり始める。

 頭上の岩は道を開けるように消えていき、勢いよく足場が上昇を始めた。


 アオイが立っていられなくなるほどの勢いである。

 コガネに掴まってどうにか上昇を耐え抜いたアオイは、辺りを見渡して眉をひそめた。


「……なにこれ?」

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