5,いざ魔窟
ギルド長に促されて庭に出て、コガネと向き直ったのは案内してくれた職員だった。
審査役も務めているようだ。やはりコガネの勘に頼ったのは正解だ。
「どうすればいいんだ?」
「相手を傷つけず、行動不能に」
「分かった」
アオイはコガネの後方でゆったりと観戦を決め込んでいるが、流石にギルド長は緊張の面持ちである。
まあ、高次元の戦いは全く見えないアオイと違い元冒険者なギルド長はこれを見定めなければいけないのだから当然である。
そもそも、自分の命がかかっている戦いでも「見えねえ」の一言で全てを諦めるアオイが異常なのだ。
最悪お供がどうにかしてくれるだろうという信頼の元、丸投げしすぎである。
「では、始め!」
アオイがのほほんとコガネの背を見ている間に、審査が始まった。
まあコガネなら大丈夫だろう、何をするのかしら、などとやはりのんびり見守るアオイの視線に気づいているのか居ないのか、コガネは最初からアオイでは認識できないような魔力を練り始めた。
先に動いたのは職員の方。
放たれた魔力はコガネに当たる前に消された、気がする。
正直もう分からないのだ。
ついでコガネが何かを放って、どうなるのかと見ていたら急にアオイの方に魔力が飛んできた。
流れ弾ではない。確実に、アオイを狙って放たれたようだ。
それがアオイに当たる前に、足元が盛り上がった。
巨大な蔦が伸びてきて、アオイを押し上げたようだ。
勢いが良すぎて転びそうになっていると、今度は安定感のある押し上げ方をされた。
目線を下に降ろすとトマリがいる。
どうやら、転びそうだったアオイはトマリの肩に乗せられたようだ。
そのまま更に下を見ると、職員の人はアオイを押し上げているものと同じような蔦に捕まっていた。
よくよく見るとしっかり杖を取り上げている。
流石はコガネ、抜かりない。
職員の人の攻撃手段がないことを確認してから、コガネはトマリの足元の蔦を徐々に消し始めた。
アオイは未だにトマリの肩の上なので、一気に消しても問題なかっただろうがそこは慎重である。
降ろされながらふとギルド長を見ると、悩んでいるような、その実楽しそうな複雑な表情を浮かべていた。
「許可は、出しましょう。これだけの実力があるなら問題はありません」
「ありがとうございます。……コガネ、蔦引っ込めよう?」
「今やってるぞ」
「……一つ、お尋ねしても?」
「なんですか?」
「彼らの、種族は?」
「俺は魔法特化種だ。これはただの陰に引きこもる系の種だ」
「間違っちゃいねえけど、お前後で覚えとけ」
「はいはい喧嘩しない。なんでここで始めるの?」
隙あらばじゃれあう2人を止めつつ、ギルド長から立ち入り用の魔道具を受け取った。
要するに、これが鍵なのだろう。
「戻りましたら、内部の様子を聞いてもよろしいですか?」
「もちろんです」
そのくらいなら、特に負担にもならないだろう。
最下層まで寄り道はしない予定なので、どれくらいの報告ができるかは分からないが。
その後、魔窟の詳しい位置を聞いた後にギルドを出た。
まだ朝と言っていい時間である。
このまま魔窟に向かっても問題はないだろう。
「……コガネ」
「なんだ?」
「ギルドのテスト、もしかして最初から私が狙われてた?」
「ああ。俺たちに主を守り抜けるかどうかの意味合いが強かったんじゃないか?」
「そっかー。全然気付かなかった」
アオイが苦笑いしているのを横目で見つつ、コガネはそっと笑みを浮かべた。
アオイの戦闘的な勘が鈍いままなのは、それだけ自分に被害が来ていないということである。
これまでいろいろなことに巻き込まれてきたが、アオイが弱いままなのはコガネにとって自分の働きが認められているようなものであった。
そもそも、アオイは魔法の才能はそれなりなのだ。
攻撃魔法が扱えないのはアオイがそれを拒絶しているからであって、もし彼女が本気でやろうと思えばできることなのだろう。
「……主はそのままでいいぞ」
「これからも迷惑かけるけどね?」
「むしろかけてくれていいんだ」
「甘やかしのプロめ……」
そんな話をしつつ、ケートスを出て平原を進む。
魔窟の位置はコガネがしっかり覚えているので、アオイは付いていくだけだ。
しばらく進んで、コガネが止まった。
アオイにはよく分からないが着いたようだ。
ギルドで貰った魔道具を発動させると、目の前に洞窟が現れた。
「ここだな」
「……コガネ?もしかしてケートスに着く前に見てたのって、ここ?」
「ああ。魔力が弄られていたようだったからな」
「すごいな、魔法特化種……普段物理なのに……」
「魔法しかできないよりいいだろう」
物理攻撃が気に入っている魔法特化種は怖い。
アオイだけでなく、モクランもそう言っていたからそれは確かなことである。
つまり、コガネはそれなりに怖い存在である。
「……主?」
「何でもないよ。よし、行こうか!」
「ああ」
コガネの物理攻撃問題も、今更だ。
言っていても仕方ないので、とりあえず魔窟の中に入ることにした。
戦闘シーン書けない人間なので、アオイちゃん視点が大好きです。
「見えねえ!!」って叫んで終わらせてくれるアオイちゃん大好きです。




