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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
2章・血をすすぐ雪の剣
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7,有明月

 アオイが薬を完成させて、それをジーブに渡した時にはすでにジーブの腰には真っ白な鞘に入った剣が吊られていた。

 実は数日前に届けられており、白く透き通る刀身はとても美しかった。


「寒いと固まるし、暑いと溶けるよ」

「氷みたいだな」

「完全に溶けても液体にはならなくて、ペースト状で止まる。人にとっては毒じゃないから、対策は必要なし」


 平たい入れ物に入れた薬を渡しながら、アオイは口頭で説明をする。

 ジーブは頭の出来がいい。これで覚えてくれるだろう。


「どうする?私か誰か連れてく?」

「いや、隠密になるだろうし、人は少なくていい。トマリも来なくていいぞ。終わったら報告に来る」

「そっか、分かった。気を付けてね」


 餞別にハイポーションを渡して、去って行く2人を見送る。

 薬と剣の製作は頼んだが、それ以上の危険な部分には巻き込まない。

 なんともジーブらしい、と思いつつ、ただ待つのも辛いものかもしれない、と思った。


「とりあえず、毒消しと魔力ポーションと、ついでにポーションも大量に作ろう」


 頼まれていないものまで送ってしまおう、なんて考えながら母屋に向かっていると、庭でウラハが空を見上げていた。

 アオイに気付くと微笑んで、また空を見上げる。


「今日は有明月ね」

「……もうそんなに経ったんだ。間に合うかな?」

「大丈夫よ、きっと」


 アオイには見えないが、彼女には月が見えているのだろうか。

 それとも、見えていないが分かるのか。

 彼女の象徴であるそれを探して、アオイも空を見上げた。



 コガネに大瓶を作ってもらい、その中に作った毒消しやら魔力ポーションやらを入れながら、アオイは去って行った2人を探すように魔力を放つ。

 これ以上の手助けは要らない、と言われているから、手出しをする気はなかった。

 ただ、気になってしまう。


 普段待つ側に回らないから、アオイはどうしても落ち着かなかった。

 だが、作業する手は淀みなく動く。

 毒と違い、これは手になじんだ作業である。


 ジーブに渡したアレの作り方も清書しなきゃな、なんて考えながら手を動かし、大量の大瓶を満たし終えた。

 これは流石に小鳥組では運べなさそうだ。


「……トマリ」

「居るぞ」

「これの運搬、頼んでもいい?」

「おう」


 スルリと影から出てきたトマリに大瓶の群を見せる。

 それだけで伝わったようで、どこからか出てきた箱にまとめて入れられ、トマリの陰の中に入っていく。


「……それ、どうなってるの?」

「さあな。ほとんど無意識にやってんだ」


 種族として受け継いでいる能力には、自分で完全に把握、制御が出来るものと、何となく使えるが詳細が分からないものとあるらしい。

 闇に沈むのは意識してやっていて、闇に沈めるのは無意識、らしい。


「第三種の方が意識して、なんだね」

「制御が出来てるって考えれば違和感もそんなにないぞ」


 そう言われて納得して、再び影に入り込むトマリに行ってらっしゃい、と声をかかる。

 腕だけ陰から出てきて緩く振られ、すぐに引っ込んだ。

 これで、やることはなくなってしまった。




 リコリスから出た2人は、行きに通った道を戻っていた。

 第6大陸には入ってからはフレアが先に立って道案内をし、村の影が見えたのは翌日の夕方になってからだった。

 今からやろうとしていることは、村からすれば自分たちの安全を破壊する反逆である。

 人の目があるうちは動くことが出来ず、日が暮れるまで隠れていた。


 日が暮れてから、危険を承知で一度村に入る。

 向かうのはフレアの家だ。

 今その家にはフレアの妹が1人でいるはずだった。


 1人の魔力しか感じない、大丈夫だと言われて、フレアは走り出す。

 リコリスで暇を持て余しているときにシオンから少しだけ教わって、気配を少しだが消せるようになっていた。

 完全に消せているわけではないが、村の住人などはこれくらいでも気付かないだろう。


 鍵が壊れている窓から家の中に入り、妹を探して家の中を歩く。

 足音を消して、普段いる場所を覗いて回った。

 リビングに近づくと、微かな歌声が聞こえてくる。

 悲しげで、涙が出そうになる歌声だった。


「フラム……!」


 扉を開けて名前を呼べば、フラムは勢いよく振り返った。

 目線の先に立つフレアを見つけて、確かめるように近づいてくる。


「お姉ちゃん……?」


 フレアが頷くと、その胸に飛び込んだ。

 目には涙を溜めて、何度もフレアを呼ぶ。


「死んだって、死んだって言われてたの。お姉ちゃんが急にいなくなって、私……」

「ごめんね、フラム。……落ち着いて聞いてね、この後、もう、会えないかもしれないの」


 フラムに今からしようとしていることを説明して、何かあったら混乱に乗じて逃げろ、と告げる。

 頷いたフラムを抱きしめ、姉妹は離れて前を向いた。

 フレアは窓から外に出て、待っていたジーブに声をかける。

 その瞳は濡れていたが、ジーブは見なかったことにした。


 早く魔神の住処を見つけなければいけなかった。

 あと3日。3日後の夜が来る前に魔神を倒さないと、自分たちのしていたことは全て水の泡だ。

 村から一定の距離の中を虱潰しに探して、気が付けば夜が明けている。

 このままでは倒せる物も倒せない、と昼の内に睡眠をとり、日が落ち始めたら動き始める。


 夕暮れの赤い視界の中で、フレアは焦っていた。

 もう、時間がない。今日見つけられなかったら、妹は助けられないかもしれない。

 もしそうなったら、自分は、どうしたらいいのだろうか。


 悪い方、悪い方に考えてしまう思考と止めたのは、前を歩いていたジーブだった。

 何かに気付いたのか、フレアに静止の指示を出す。

 目の前はただの土壁だった。だが、ジーブはそこをジッと見つめていた。

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