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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
15章・地の底
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2,行き当たりばったり

 ポーション類の作り置き、その他よく売れるものの作り置き、そう売れはしないが急に減ることのある薬の作り置き。

 それらを全て終わらせて、組んであった日程の最終調整を行って。


 もうこれでリコリスを留守にするための事前準備は全てやっただろう、と言う状態にしてからアオイはケートスに行く準備を始めた。

 契約獣たちには、あらかじめ言ってある。


 付いて来るのはいつも通りコガネとトマリだけだ。

 向かう先以外は何も特別なものなど無いいつもの遠征である。


「主、朝だよ」

「うあぁぁぁ……おは、よう……」

「おはよう。朝ご飯出来てるからね」

「わかった……」


 コガネに布団を剥がされるところまでいつも通りである。

 コガネは布団を剥いで畳んでアオイの足元に置き、そっと服を差し出して部屋を出ていった。

 身体を起こして服を着替えて、昨日のうちに纏めておいた手荷物を持って部屋を出る。


 階段に差し掛かった時点ですでに朝食の香りが漂ってきていて、空腹を訴える音が鳴り響く。

 1階にはすでに他の者たちが揃っていた。

 そのまま全員で朝食を食べて、改めて留守中のあれこれについて話している間にウラハに髪を結ばれる。


「じゃあ、行ってくるね」

「ええ。気を付けてね」

「行ってらっしゃい!」

「行ってきます」


 朝のうちにリコリスを出て、馬に乗って第3大陸のケートスを目指す。

 ケートスは第4大陸からそう遠くはない。

 今日の夕方には到着して、明日の朝にギルドに向かう予定だ。


 魔窟の中を進むのにどれくらい時間がかかるかはわからないので、そのあとの予定はまだ立っていない。

 明日中に立ち入り許可を貰うものとして、明日から魔窟に入れるかと言われたらそれもわからないのだ。

 割と、行き当たりばったりである。


「んー……ま、どうにかなるでしょ」

「どうにかするさ」

「はー……カッコイイが過ぎるんだよなぁ」

「駄目か?」

「大好き」


 そんな会話をして、緩く笑いあう。

 森を抜ければ、馬の脚で駆けていける。

 そうなれば大陸を超えるのもそう時間がかからない。


 コガネに任せておけばまちがいはないので、アオイは馬の上でくつろいでいるだけだ。

 それなりの速度で移動していてもピイピイ言わなくなったので、昔よりは進歩しているほうである。

 馬車ですら騒いでいたのが、今やドラゴンの背に乗れるようになったのだから。


「……トマリ」

「なんだ?」

「ケートスのギルトって今どうなってるかな?」

「……入国したら合流する」

「うん。お願いね」


 声をかけると、トマリは馬の陰から現れた。

 そのままそこに引っ込んでいき、気配は近くから消えていく。

 移動は、影の中に入ったトマリのほうが圧倒的に早い。


 ドラゴンよりも早いらしいので、彼にかかれば世界一周など簡単なことである。

 いろいろ基準がおかしくなっているアオイでも、流石にその凄さくらいはちゃんと理解している。


「……主」

「うん?なあに?」

「今更だが、会ってどうするんだ?」

「うーん……会いたいだけ、かな。シオンと最初に会った時と同じ感じ」

「そうか」

「もしや反対だった?」

「いや、害はないだろうからな。……少なくとも主には」


 最後に何やら不穏なことを呟いたコガネに苦笑いしつつ、アオイも正直同じ考えなので余計に笑えてきた。

 これから会いに行こうとしているのは、人間が嫌いな種族なのだ。


「一応、私も人間なんだけどね?」

「……種族的には、な」

「含みがあるねぇ」

「主が1番良く分かっているだろう?」

「まあ、そりゃね」


 コガネの言いたいことは分かっている。

 自分のことだ、確かに1番良く分かっているのだろう。

 それでも、どうしても笑ってしまいそうになる。


 それなりに平凡にお気楽に生きていたはずなのだが、どこをどう間違えたのか。

 ……いや、間違えてなどいなくて、全て上手いこと回った結果なのだが。


「いやはや、私には向かないよねぇ」

「何がだ?」

「お役目全般?」

「今更過ぎないか……?」

「確かに。まあ、それでも思ってしまうのよ」


 コガネに言っても仕方のないことだが、今までコガネに言わなかったことの方が少ない気もするのでこれも今更だ。

 コガネも、今更深く追求してきたりはしない。


「主、もうすぐ関所だ」

「はーい。人は?」

「それなりに」

「ならフードは被ったままか」

「そうだな」


 人ごみを避けてフードを被るのにも随分となれたものだ。

 アオイはお供たちの顔がいいと騒ぐくせに自分の容姿には無頓着であったため、旅を始めたことは色々と面倒ごとが起きていたりした。


 ずっと一緒にいた小鳥たちとコガネからすると、アオイが何も言わずともフードを被るようになったのがここ10年で一番の進歩である。

 最上位薬師の免許取得よりそちらのほうが感動してしまうのだから相当だ。


「……ん?」

「どしたの?」

「いや……気にしなくていい」

「そう?」

「ああ」


 関所を抜けて少し進んだところでコガネが何か遠くを見ていたが、アオイは気にしなくていいことだったらしい。

 コガネが魔法を打つ気配もなかったので、本当に気にしなくていいことだったのだろう。

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