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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
14章・天の姫
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4,入国

 チュン、なんて鳴き声が聞こえてきた。

 モエギかと思ったが、今回モエギは連れてきていなかったはずだ。

 ゆっくりと目を開いて声のした方をみると、魔力を持っていない小鳥が止まっていた。


 ただの小鳥が窓に止まっているだけなのに、誰かからの連絡だろうかと考えてしまう自分に苦笑いする。

 鳥を使って手紙を寄こす知り合いは意外と多いのだ。


「おはよう、主」

「おはようコガネ。今何時?」

「8時になるところだ。起こそうと思ってた」

「そっかー……このまま出る?」

「ああ」

「分かった」


 着替えを差し出されて受け取ると、コガネは部屋を出ていった。

 別に気にしなくていい、と過去に言ったことがあるのだが、本気で怒られたのでもう言わないと心に決めている。

 怒られた理由は未だによく分からないが、まあコガネもそういうお年頃なのだろうと思うことにした。


 着替えを終えてコガネの元に行くと、コガネは荷物を整理しているところだった。

 手を差し出されたので寝間着を渡して、部屋の影に声をかける。


「おはよう、トマリ」

「おう」


 影から出てきたトマリに笑いかけ、アオイはトマリの顔を窺った。

 眠たげに目を細めているが、それ以外はいつも通りである。


「ずっと居る?」

「そのつもりだ。言われたら出る」

「そっか、了解」


 第7大陸には、特別気配に敏感な者たちが居るのだ。

 普通は気付かれないトマリの存在に気付くことの出来る彼らは、隠れられることを好まない。

 そうなったら素直に出てくるらしいので、アオイからトマリにこれ以上言うことはない。


 再び影の中に引っ込んだトマリを見送って、アオイは自分の荷物を持ち上げた。

 ここから第7大陸までは徒歩である。

 そう遠くはないし、第7大陸の中は馬での移動に向かない。


 なので、ちょっとしたお散歩だ。

 歩いたとしても日が落ちる前にはたどり着けるはずである。

 そもそもコガネが日程を決めたのだ、野宿が必要な日程にはしていないだろう。


「主」

「うん?」

「串焼きがある」

「買います」

「分かった」


 朝食は、歩きながら市場で買い食いをする。

 旅をしていた時から、この時間はアオイのお気に入りだ。 

 大陸に寄って、国に寄って違う市場は見ていてとても面白い。


 朝食を食べ歩くのも、国の個性を知るいい機会である。

 ……と言いつつ。本当はただ食べ歩きが好きなだけなのだが。

 まあ、それでも国を見ていることに変わりはない。


 コガネも何も言わないから、正直どっちでもいいのである。

 そんな事より今は串焼きの屋台が重要だ。

 一体何の肉なのか、味付けは何なのか。それを知らなければいけない。


「主、鳥だ、鳥がある」

「買いだ。もうこの際10本くらい買っていこう」


 コガネの嬉々とした報告に目を輝かせて、アオイは屋台に駆け寄った。

 この世界の鳥は魔力を溜めこみやすいらしく、美味しく食べられる鳥があまりいないのだ。

 焼き鳥が好きなアオイからすると、屋台で焼き鳥を見かけたら絶対に買わなければいけないのである。


 財布はコガネが持っているので、会計が済むのを横でそわそわと待ちながらトマリの気配を探る。

 気付かれたのか、自分の影から一瞬強い魔力が放たれた。

 焼き鳥は要らないらしい。


「主、流石にこれだけは駄目だぞ」

「分かってるよ。あっちにパン売ってた」

「よし。それを買ったら出発するか」


 野宿はしないと言っても、時間に余裕がある訳ではない。

 食事は、多少行儀は悪いが歩きながらである。

 人が多いと危ないから、と串焼きはお預けにされて、代わりにパンを持たされてレグホーンを出る。


 周りに人が見えなくなってからアオイはフードを取り、串焼きを渡されてご満悦だ。

 咀嚼しながら草原を歩き、時折上を通る鳥なんかを見上げる。

 徒歩での移動は久々だ。周りが過保護なアオイは基本馬か馬車で移動するのだ。


 アオイとしては徒歩も好きなので、こうして歩くのは楽しかったりもする。

 コガネも風に吹かれて心地が良さそうだ。

 日ごろから光合成だと言って日向で寝ているので、森に閉じこもっているのがたまに申し訳なくなる。


「トマリー」

「何だ」

「日が気持ちいいよ?」

「俺に言うのか、それ……」


 流石に影の種族はその限りではなかったようだ。

 一言謝って視線を前に戻す。

 まだ、第7大陸は遠い。




 日暮れより早く、昼と言うには少し遅い時間。

 アオイたちは閉ざされた門の前に居た。

 閉じているのはここでしか見ることの出来ない、大陸間の関所である。


 閉じているその門の前で、アオイは緩く笑ってコガネの背に手を当てた。

 コガネも分かっていたようで、掌を門に向ける。

 アオイの魔力がコガネを通って強く補強されて、閉じた門に向かっていった。


 魔力を可視化できない状態だと何をしているのか分からないが、これがこの門の解放方法である。

 許可を持った者の魔力が門の内側に到達すると、内側に居る者が関所を開けてくれるのだ。

 いつでもそこにいるわけではないが、来客のある時は誰かがそこで待っている。


 きっと、この大陸の長が何か指示を出しているのだろう。

 そんなことを考えている間に、門がゆっくりと開き始めた。

 内側には濃灰色の長い髪を後ろに流した少女が立っていて、アオイたちを見ると静かに頭を下げた。

第7大陸、エキナセアの頃から時折話題に出すお気に入りの場所なのですが、作中来るのはこれが初めてです。

ついでに言うとリコリスでは最後になる気がしています。悲しい。

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