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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
2章・血をすすぐ雪の剣
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6,もうやり直したくない……(5回目)

 レラプの所から帰ってきて、アオイは書斎か作業部屋に籠るようになった。

 後は装甲を破壊する薬さえできれば、道具は揃う。

 それが焦りになっているのか、ずっと籠りきりである。


 トマリがこっそり覗いた時は、机に本の壁を作りながら唸っていたらしい。

 それだけならまあ、いつも通りと言えなくもないが、いつもなら数時間で飽きてリビングに顔を出す。

 ずっと籠っているのは、普段ならあり得ない事だった。


 それに、コガネに泣きついてこない。

 普段なら、最初に行き詰った時点でコガネに抱き着いてしばらく動かなくなる。

 ちなみにその間、小声で「無理もう無理そろそろ無理無能なのがバレる……」と呟いている。

 最上位薬師な時点で無能ではないが、それを言ってもどうにもならないので「大丈夫だよ、そんなことないよ」と言いながら頭を撫でるのが正解だ。


「……心配だ」

「……心配ね」


 ウラハとコガネは呟いて、書斎を見に行くことにした。

 無理をしているようなら休ませよう、寝落ちさせよう、と会議をしながら書斎の前に到着する。

 ノックをすると、中から入っていいよーと間延びした声が聞こえてくる。


 扉を開けると、アオイはイスに体重をかけてひっくり返るようにこちらを見ていた。

 そのまま、どうしたのー?と聞いてくる。

 いや、その体勢がどうしたの?と聞けば、読書に飽きたが投げだすわけにもいかずにイスを揺らしながら読んでいたのだ。と言われる。


 近づいて確認すると、机に積まれた本は全て毒関連の本らしい。

 こんなにあったのか、と驚いたが、この縦長の書斎の片側は本棚で埋まっている。

 それがほとんど埋まっているのだから、まあこのくらいあって妥当か。


「それはそうと、どうしたの?なにかあった?」

「いや、根を詰めすぎているんじゃないかと思って。休憩しなくて大丈夫?」


 コガネに聞かれて、大丈夫、と答える。

 心配性な2人が揃って、心配性が加速したようだ。

 本当に?無理してない?と顔を覗き込んでくる2人に負けて、休憩に入る。


 リビングに行くと、サクラとモエギの小鳥組が揃っていた。

 お茶を淹れていたらしく、追加で3人分用意してくれる。

 トマリとシオンは外でジーブの手合わせに付き合っているようだ。


「シオンがまともに動いてるの、久々に見た」

「普段溶けてるか昼寝してるかだものね。でも、動けるのよ?」


 シオンの身のこなしは軽い。

 重力を無視するかのように軽く動き、ジーブを手こずらせていた。

 彼は猫だ。ここにいる誰よりも緩く、軽やかに動く。

 ここまで長引いているのはジーブだからであり、並みの冒険者ならとっくに勝負はついていた。


 そんな2人を少し離れたところから見ているフレアに気付いて、サクラが呼びに行った。

 お茶会は人が多い方が楽しい。

 コガネが少女の姿をとっているから男はモエギだけだったが、モエギも少女にしか見えないので実質女子会だ。



 女子会を終えて夕食を食べて、先に風呂に入って作業部屋に向かった。

 何となく、どうすればいいか分かった気がするのだ。

 普通の毒で必要な過程を飛ばして、普通の毒では取らない工程を取る。


 何度かやり直し、その面倒くささに泣きそうになりながら作業を続ける。

 心が折れなかったことを褒めてほしい、と思いながら結果を紙に書きこんでいたら、いつの間にか寝ていたようだ。

 目が覚めると自室のベッドで、朝日が入り込んでいた。


「あ、主。おはよう」

「おはよう、コガネ。コガネが運んでくれた?」

「うん」

「ありがとう」


 少女の姿だと歳下に見えるため、思わず頭を撫でてしまう。

 コガネは嫌がることなく、嬉しそうに撫でられていた。

 そんなことをしていると、シオンが降りてきて近寄ってきた。


「なんや分からんけど俺も俺も」

「撫でられたいの?」

「猫やもん」


 堂々と言われて、差し出された頭を撫でる。

 うーん、髪質がいい。うちのお供、皆いい髪質してるよな……

 そんな事を考えながら撫でていると、サクラがワクワクした表情でシオンの後ろに並んでいた。

 その後ろには少し恥ずかしそうなモエギの姿。


 いつの間にやら始まった、お供の頭を撫でる会。

 トマリまで悪乗りしてきて、それなら、とウラハまで並ぶ。

 結局全員の頭を撫でてから朝食になった。


 朝食を食べてから作業部屋に行き、昨日の続きを始める。

 昨日寝落ちする直前まで書いていた内容は、必要な分解読できる状態だった。

 その先のメモはお手本のように見事なミミズののたうち回ったような線で、全く読めなかったが問題ない。


「よし……もうやり直したくないぞ……そろそろ出来るはずだ……」


 呟きながら、作業を始める。

 その後開始1時間でやり直しになり、アオイは天を仰いだ。

 本気で投げ出したい。投げ出さないけど。こんなことならもっと普段から毒系作っとくんだった。

 まさに、後悔先に立たずである。


 ヒイヒイ言いながらも投げ出すことはなく、時々目元を拭いながら作業を続け、その日の夕方にリコリス中に聞こえるような声が響いた。

 何事かと作業部屋を覗いたシオンは、アオイが天に向けて拳を突き上げているのを見て他の契約獣に心配いらない、と連絡を送った。


 アオイは後に最後の石で単発引いてピックアップウルトラレアが出た気分、と語ったが、それを理解できる者はここに居なかった。

自分史上最大にタイトルが不憫でした。

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