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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
14章・天の姫
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1,思考の渦

 アオイは思い悩んでいた。

 手元の紙に書かれた文字の量は、1時間前と変わっていない。

 それに気付き、アオイはため息を吐いてインクビンの蓋を閉じた。


 ペンを置き、空になったカップを持って書斎を出る。

 キッチンにカップを置いて外に目を向けると、そこではセルリアが足元に風を起こしているところだった。

 もしや、もうすぐで飛べるようになるだろうか。


「んあ。マスター」

「シオン?どうしたの?」

「ジーブが来てるでぇー。会う?」

「会う。フレアさんは?」

「来てるで」


 来たのはいつぶりだろうか。

 戻っていくシオンの後ろをついて行くと、カウンターの外側にイスを出してジーブとフレアが座っていた。

 フレアがこちらに気付いて手を振ってきたので、振り返して空いていたイスに座る。


「お久しぶりです、フレアさん!」

「お久しぶりです!」


 何か少し雰囲気が変わっただろうか。

 ジッと見ていると、フレアの横に居たジーブが足元から何かを持ち上げてカウンターの上に上げた。

 杖だろうか。魔石がはまっているので、ステッキタイプの魔導器のようだ。


「あ、杖作ったんですね!」

「そうなんです。……まだ、全然魔法は使えないんですけどね」


 そういって、フレアはそっと窓の外を見た。

 その目線の先ではセルリアが杖を握って何か別の魔法を始めたようだ。

 ……そういえば、彼らがセルリアに会うのは初めてだったろうか。


「で。今日はどうしたの?」

「いつも通りだ。コガネが持ってってる」

「そうなんだ」

「……お前は?」

「ん?何が?」

「なんか考え込んでるだろ」

「……人の心読むのやめない?」

「読んでねえ」


 ジーブは妙に、人の表情の変化に気付くのだ。

 ある程度親しい相手なら、その時の感情の揺れが分かるらしい。

 便利なような、疲れるような特技である。


「ジーブ。終わった……主だ。終わった?」

「進まなくてやめた」

「そっか」


 魔石が入っているらしい袋を持って奥から出来たコガネがアオイを見つけてフワッと笑った。

 アオイも同じ表情を返して、コガネを横に呼んだ。

 そこにコガネが座った所で、ジーブが何か紙を差し出してきた。


「これは?」

「依頼。今回はこっちがメインだな」

「んー……コガネ」

「了解」


 内容を確認して、コガネに見せると魔法をかけて飛ばしてくれた。

 これで見せるべき人の所に届くだろう。

 そんなことをしていたら、サクラがお茶を持ってきた。


「置いとくねー」

「ありがとう。サクラとモエギは?」

「モエギは明日の準備?してる。私はこれからウラハの手伝い!」

「そっかー。ありがとう」


 お盆を持って笑顔で戻って行ったサクラを見送って出されたお茶を啜っていると、カウンターの陰からトマリが抜け出てきた。

 アオイたちは慣れているが、フレアは少し驚いたようだ。


「……なあ」


 そんな中トマリが話しかけたのはフレアだった。

 コガネが何かすごい疑惑の目を向けているが、これはきっと意味が違う。

 アオイは何をするのだろうかとのんびり考えながらお茶を啜った。


「何でしょう」

「妹、見つけたんだが」

「……無事、ですか?」

「おう」

「なら、いいです」

「そうか」


 それだけ言って、トマリは影に入って行った。用事はそれだけだったのだろう。

 フレアが妹を想っていることを知ってるから……というか、一体どこで見つけて、なぜそれがフレアの妹だと分かったのだろうか。


「……さて」

「あら、もう行く?」

「ああ。頼んだ」

「了解。気を付けてねー」

「お邪魔しました!」


 手を振って去って行った2人を見送って、そのままシオンは外に出ていった。

 セルリアの所に行くのだろうか。

 そんなことを考えて、アオイは残ったお茶を飲み干した。


「……コガネ」

「どうしたの?」


 お茶を返しに行こうとしているコガネを呼び止めてアオイはカウンターに体重を預けた。

 先ほどまでの緩やかな笑顔を浮かべていた表情は思い悩むようなものに変わっている。


「どうしたらいいかなぁ……」

「……分からないけど、考えるだけじゃ纏まらないんじゃないかな?」

「……そうだねぇ。あ、見せたいものがあるから、あとで部屋に来てくれる?」

「分かった」


 今度こそ去って行ったコガネを眺めて、アオイはため息を吐いた。

 そして、そのまま作業部屋に入った。

 何も考えられないので、考えずとも手が動く作業をしようと思ったのだ。


 どうせポーションは作らないといけないのだから、ちょうどいい。

 そんなことを思いながら材料を用意してコガネに見せなくてはいけない手紙の内容を思い出す。

 それは、レヨンから急に来た手紙だった。



 やあ、アオイちゃん。久しぶり……かな?

 まあいいや。今回の内容なんだけどもね、ヤトゥールの続報だよ。

 第1大陸に毒が撒かれたようだ。ギューヴィルの毒のようだが、早々に上位薬師たちが集まってね。


 女王の花は作れる者が少ないし、手間がかかるからねぇ。

 解毒に時間がかかっているが、毒が回るのを抑える薬も同時に作っているらしい。

 なのでまあ、心配はいらなそうだよ。


 何かあったらまた連絡するねん。

 それじゃ、そっちも何かあったら教えて頂戴。


                   レヨン・ベール

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