0,天眼
天高く伸びた1本の大木。
人は見上げる事しか出来ないそれの上に、1人の人影があった。
人影であるはずだが、その背には人が持たないはずの翼を持っていた。
翼を持った人影は何か遠くを見ていたが、何かに気付いたのか大木の枝の上に立ち上がり、翼を広げてどこかに向かっていく。
向かう先には開拓された土地があった。
低い建物が密集するその場所で、一軒だけある背の高い建物、そこに向かっているようだ。
入口は下のはずだが、翼の人影は高さを保ったまま建物に向かっていき、開いていた窓から中に入り込んだ。
「おや、来たのかい」
「何が来る?」
「悪いものではないさ」
中に居たのは、少女のようだった。
その少女は床に座り背筋を伸ばしている。
翼の人影が入ってきたのを確認するように振り返ったが、彼女の目には布が巻かれていた。
それでも、何かが見えているらしい。
彼女の隠された目は、本来見えないものをも見ているのだろう。
楽し気に微笑んで、どこかへ視線を向ける。
「彼女が来るのは久々だね」
「どの子だい」
「あの子だよ」
不明瞭な会話は、彼らにとっては楽しいものだった。
長く生きていると、単純明快な会話はつまらなくなってしまうものだ。
「前はいつ来た?」
「いつだったかねぇ。そんなに前ではなかったと思うが」
「お前の感覚は当てにならんからなぁ」
これは、ちょっとした遊びなのだ。
答えを知っている者と知らない者、2人いれば謎かけも始まるだろう。
「どんな子だい」
「美しい子だよ」
「……お前が気に入っている子は皆美しいだろう」
「それもそうだなぁ」
2人揃ってくすくすと笑う。
謎かけは、まだ続く。
10月に入ってしまいましたが、まだ3日なので実質9月です。
……はい。そんなわけで14章が始まります!