8,考え事
「それでは、お邪魔しました」
「ありがとうございました!お気をつけて!」
ヴィストレーン家に泊まった翌日、アオイは笑顔で屋敷を出ていた。
手を振って、そのまま外套を被って歩き始める。
国の外か、海辺まで送っていくと言われたのだがそれを断り、お散歩がてら歩いて行くことにしたのだ。
国を出ればコガネが運んでくれるので、ある程度のんびりしていても大丈夫だろう。
「前にカブルに来たのっていつだったっけ?」
「確か……3年前じゃないか?」
「もうそんなに……」
時間の流れは早い、なんて呟いて、アオイは辺りを見渡した。
相変わらず活気に溢れていて、平和で。
自分たちは守られている、という安心感から、少しばかり緩んでいる国だ。
まあ、この世界にあって1、2を争う平和な国。少しくらい平和ボケしていた方が自然なのかもしれない。
この大陸で起こっていた時空の穴から来る魔物との攻防など、この国の人々からしたら遠い地での話なのだろう。
「……あ、そうだ」
「どうした?」
「カーネリア様が、ここの名物の話してたんだ」
「ほう……寄っていくか」
「うん」
かくいうアオイたちも完全に観光気分である。
急ぎの用事がないからいいが、あまりゆっくりすると帰ってからの作業量が増加することを忘れているようだ。
「……ん?」
「コガネ?」
「主、緊急連絡」
「え、何?」
「次の分のポーションがない」
「何故に!?」
「スコルでまとめ買いされたらしい。トマリが店から在庫を持って行ったから今日は平気だが、次はない」
「……帰ろう」
「ああ」
急ぎの用事が出来たようだ。
こればかりは仕方ないので、文句を言わずに急いで帰るしかない。
カブル名物は、またそのうち時間を作って来るしかなさそうだ。
「えっと……急ごう」
「そうだな」
ブツブツ言いながら頭の中を整理しているアオイを気遣いつつ、コガネは移動速度を上げた。
考え事をしながらアオイもつられて速度を上げ、最終的には駆け抜けるように国を出る。
出てしばらく進んだところでコガネがアオイを抱き上げて、更に速度を上げて海辺に出た。
水竜を呼びながら予定を決め終えたらしいアオイは、コガネに口頭で帰ってからの予定を伝える。
コガネからもそれで行けると言われたので、のんびりするはずだった午後の慌ただしい予定が決まった。
水面から顔を出した水竜に、無理のない程度に急いで、と伝えて背中に乗り、アオイはフードを取った。
「コガネ、足りないのってポーションだけ?」
「今のところは、な」
「ひゃあ、怖い」
言いながらまた考え事を始めたアオイを後ろから支えて、コガネもまた思考を回す。
アオイが根を詰めすぎないように、しかし作業は終わるようにするにはどの量が最適だろうか。
今日の調子だと、倒れるまで作りそうである。
それに最近アオイは何かずっと悩んでいるようだ。
自分に相談してこないということは話すべきことではないのかもしれないが、ウラハやシオンに相談を持ち掛けている姿も見ない。
アオイが思い悩みようになったのは星を視ていた時からだろうか。
あの後にヒソクの所にも行ったが、そこでも何も聞いていなかった。
自分がいると話しづらい事なのだろうか。
急に闇蝶の元を尋ねたのもそれが原因だろうから、その時に相談をしていたならいいのだが。
コガネとしては、あまり考えすぎないでほしいのだ。
アオイは何か悩みがあると、ずっとそれを考えていて色々と自分の事を疎かにする。
そこはしっかり見張っておくが、アオイの心が乱れたままなのはコガネとしてはよろしくない状態である。
日々心安らかに過ごしてほしいのだ。
「……主、着きそうだぞ」
「え、はっや」
水竜は相当気合を入れてくれたらしい。
行きの半分の時間か、それ以下でリコリスへと続く洞窟に入った。
「ありがとねぇー」
リコリスの湖に上がって、アオイは水竜に礼を言った。
そして、お礼に果実を渡して手を振る。
アオイたちが帰ってきたのを察して在宅組が寄ってきたので、話を聞きながら家に入った。
そして、モエギがすぐに用意してくれた昼食を食べていそいそと作業部屋に移動する。
土産話は後である。今は、不味いことになっているらしい在庫をどうにかしないといけない。
「よーし、始めるよ、コガネ!」
「うん。任せて」
同時に頷いて、作業を始める。
しばらくは話しながらやっていたのだが、途中から徐々に会話は減り、アオイはまた何かを考え始めたようだった。
コガネは、その苦悩が早く解決されることを祈りながら手元のポーションとアオイの作っているポーションと、ないとは思うが失敗しないように気を配っていた。
これで13章は終わりです。
次は、早いか遅いか正直全く分かりません。困った。
まあ、とりあえず2か月云々の表示が出る前には上げられるはずです!