7,古の事柄
案内された趣味のいい客間に荷物を置いて、そのまま食卓に案内された。
普段、貴族の屋敷で食事となるとコガネがもの凄い警戒心を発揮するのだが、流石にレークの事は信用しているらしく何か探っている気配はない。
ちなみに、もし毒や薬を盛られたとしてもアオイはそういったものに耐性があるので、それらが身体に回りきる前に自分で解毒出来てしまう。
アオイの毒殺は割と不可能である。なので、そう警戒することもないのだが、コガネにそれを言うと怒られる。解せぬ……
「わあ……」
「モエギさんの料理に敵いますかね……?」
「敵わなくても仕方ないんじゃないか?」
「レーク様、アルフ、料理長が凄い見てるの気付いてます?」
使用人と主人は同じ食卓には着かないのが普通のはずだが、助手2人はレークと同じ席に着いていた。
後で話を聞いたら、幼いころにレークが駄々を捏ねて以来の習慣らしい。
「……うーん……」
「レーク様、食事」
「ん?おお」
貴族の食事にしては堅苦しくない夕食は、色々な話をしながら進んでいく。
その中で、レークは時折何かを考えているのか、食事の手を止めてはベーレスに指摘されていた。
考えているのはおそらく、例のカードの事だろう。
アオイは、その答えを知っている。
だが、それは開示してはいけない事だ。
それをすると自分はただの最上位薬師で居られなくなってしまうから。
とどのつまりは保身なのだが、もともと世に出る情報ではないのだから許してほしい。
そんなことを時折考えながらだったが、食事自体は楽しく終わり。
明日は何時に出るのかと聞かれて、アオイはコガネを見た。
「……」
「……」
「何時?」
「……はあ。昼までには出る。昼食は帰ってから遅めの、だな」
「だそうです!」
「分かりました!朝食だけ用意させますね」
「ありがとうございます!」
コガネにため息を吐かれてしまったが、仕方ない。
もう10年の付き合いなのでお互い慣れたものである。
そもそも、アオイの移動プランは基本同行者にお任せなのだ。
自分でやってみようと思った時期もあったが、同行者が面倒みよく何でもやってくれる人ばかりだったので結局は任せた方が早いし良いプランになる、と諦めた。
これでも、一時期はやってみようと思っていたりしたのだ。これでも。
「部屋の横に浴室があります。内鍵で閉まるので」
「分かりました、ありがとうございます」
部屋まで送ってもらって、アオイはレークに頭を下げた。
至れり尽くせりである。
「……コガネ」
「何だ?」
「レークさん、あれが素なのかな?」
「……どっちも素なんじゃないか?」
「なるほど」
自分の家だからか、考え事をしているからか。
レークは初めて会った時のハイテンションではなく、落ち着いた青年の雰囲気を醸し出している。
何というか、ああ、貴族なんだなぁと納得してしまう雰囲気だ。
「ところで、主」
「ん?なあに?」
コガネは辺りの気配を探って、誰も周りに人が居ないことを確かめてから話を切り出した。
その表情は妙に真剣だ。
「あのカード、結局何なんだ?」
「……あれ?情報ないの?」
「ああ。神獣も種族として確立されているからな。そのあたりの知識は持ってない」
「私の記憶が行ってるかと思ってた……」
「来てないな。最近来たのはびわ?のコンポート?だった」
「ああ、あれ……美味しいのよ……」
「そうなのか」
呟いてはみたが、今の話題は枇杷のコンポートではない。
神話時代の道具、カードについてだ。
「……んーっと、神話時代の知識ってどこまである?」
「島で作られた世界。海と空に島が浮かんでいて、それらのほぼ全てに島主が居た。島主の居ない一定以上大きな島は中立地として交渉なんかに使われていた」
「なるほど、なるほど。あとは?」
「後は……今より、色々な技術が栄えていて、進んでいた。今の世界は、進み過ぎたそれを取り除いて作られた世界だと……」
「ふむ」
コガネの話を聞きながら、アオイはどれをどこまで話すか、どこから話すかを考える。
そのうち本格的に知りたくなったら別の方法を取るだろうから、今は簡単な説明でいいだろうか。
「じゃあ、まず。端的に言って、あのカードは人魚を閉じ込めたもの」
「閉じ込めた……カードの中にか?」
「そう。……私も又聞きくらいの知識しかないけどね、あの世界は、所有物をカードに変化させることが出来たらしいの」
「所有物、な」
コガネは苦い顔をする。
アオイもこの話を初めて聞いた時は同じような顔をしていたことだろう。
「つまり、ただ暮らしている生物なんかはカードにはならないのか」
「さっすがコガネ、話が早い」
「……奴隷も?」
「カードになる。……そりゃあそんな技術切り離すよねぇ……」
だらりとソファに寝転がって、アオイはぼやく。
神が世界を作る時に持って来なかった技術。それらは、人には行き過ぎたものがほとんどだ。
「カードから出すには所有者の許可と魔力が必要」
「……出せなくないか?それ」
「レークさんが頑張ってあの島から所有権を獲得するしかないねぇ……」
未だ方法も知らないレークがそれを成すのは困難だろうが、こちらからは特に手出しが出来ないのだ。
頑張ってもらうしかない。
実はそろそろ終わりが近いリコリス。
そんなわけでアオイちゃんのもう一つの肩書を明かすときも近付いてまいりました!
まあ、エキナセアを読んだことある人は最初っから知っているんですがね!気分の問題ですね!