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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
13章・古の事柄
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4,人魚

 水中を進みながら、初めて潜ったらしいレークの質問に答えている間に水竜たちはどんどん進んでいく。

 第5大陸の縁に沿うようにして外海を進み、そのまま内海に入って目的地を目指す。

 陸路で行けば数日かかる移動距離だが、海路で行くと1日でついてしまう。


 やはり陸が遅いのだろうか。

 もっと早くなる手段もありそうだが。

 なんて関係のないことを考えていたら、コガネに肩を叩かれた。


「んー?」

「主、上」

「うえ」


 言われた通りに上を見上げると、頭上をまばゆく光る何かが通って行ったところだった。

 それ自体が発光体であるかのように(事実発光体であるのだが)光り輝くそれは、小さな魚である。

 形を見て、知っている者が居れば金魚だというであろうその魚は、神獣が1体光魚だった。


 闇蝶と対を成し、常に光で覆われている光魚には闇蝶の毒が効かない。

 故に時々闇蝶に会いに行く、らしい。

 残念ながら、アオイも詳しくは知らないのだ。


 種族間の関係性は、あまり深く関わってこなかった部分である。

 必要な時に聞けばいいや、なんて思っていたから。


「……ねえコガネ、あの子、この前の闇蝶の所に行くのかな?」

「俺には分からないが……そうなのか?」

「んー……なんかね、そんな気がする」

「そうか、なら、そうなのかもな」


 光魚は陸を歩けない。

 人型を取っても、その足は陸を歩く強度を持っていなかった。

 故に光魚は世界中を水に浸かって旅するのだ。


 彼らの身体はとても小さく、細い小川も遡れる。

 どんな水質でも暮らすことが出来るようになったのは神獣特権だ。

 この世界の主からの、ちょっとした贈り物である。


「……コガネ、今どのあたりかな?」

「第1大陸が終わるくらいじゃないか?」

『うん!もうちょっとだよ!』

「あら、もうそんなところ」


 思っていたより長く移動していたようで、意識した途端にお腹が空いてくる。

 時計を取り出して時間を確認すると、もうすぐ1時になるところだった。

 水竜はまだまだ元気なようだ。


「レークさんは疲れてたりしないですか!?」

「大丈夫です!アルフが疲れ始めてますけど!」

「いや、俺もまだ平気です」

「なら、このまま一気に行きますねー!」


 ここからは近くに休憩出来るところが無くなる。

 なので確認を取ったが、皆大丈夫のようだ。

 それなら行くのは早い方がいい。


 そう思っているのが水竜たちも同じなのか、少しづつ速度が上がっていく。

 そのままラストスパートをかけて進んでいくと、目的の岩場が見えてきた。

 海面に浮上して、岩場に足をかける。


 アオイが落ちそうになっているのをコガネが引き上げている間に、レークたちも岩場に上がっていた。

 助手2人はレークが落ちやしないかと心配そうに見ているが、レーク本人はそんな視線も気にせずに目を輝かせて辺りを見渡していた。


「ここが、人魚の住処ですか!」

「住処は水中ですね。ここは、彼女たちがよく来る場所です」


 少し遅い昼食を取り出しながら言ったアオイに飲み物を差し出しながら、コガネは説明を付け加えた。


「この辺りは船が通らないからな、この辺りに住んでいる人魚は、この岩場を随分と気に入っているようだ」

「そうなんですかー……あ、ありがとうございます」


 レークと助手たちにも昼食の厚切りサンドイッチを差し出して、アオイは適当な岩場に腰かけた。

 ここに来るのも久々である。


「今は誰も居ませんねぇ……出てくるかも分からないので、夕方近くなったら会えなくても戻りましょう」

「はい!分かりました!」


 撤退時間も素直に受け入れて、レークは渡された昼食を齧った。

 甘辛く味付けされた肉から溢れる肉汁が、分厚く切られたパンとシャキシャキな葉野菜に絡んで何とも美味である。


「主、垂れてる」

「はえ?」


 口周りと手をタレで汚したアオイが濡らした布で汚れを落としている間にレークは海を見渡した。

 ここは内海、第2大陸に近い場所だと言っていたが、こんなところがあるとは思っていなかった。

 見渡す限り、海。大陸は視界に入らない。


「……すごいな」

「レーク様、相変わらず海好きですねぇ」

「まあ、なぁ」


 昔、海は自分にとって未知の象徴だった。

 故にそこに強く惹かれていたし、何かあればすぐに海を見に行ったりもしていた。

 懐かしい記憶に思いを馳せていると、アオイが急に立ち上がった。


「あ!」

「どうしましたか?」

「来た、かもしれません」

「人魚!?」


 勢いよく反応して目を輝かせ始めたレークを見て助手たちは顔を見合わせて笑い、アオイが指さす方に目を向けた。

 ジッと見ていると、確かにその水面が揺れている気がする。


 アオイもレークと同じくらい目を輝かせてそこを注視しており、それぞれのお供は自分の主が海に落ちないか心配している。

 そんな時間が少しだけ続き、陽の光を反射してなびく髪が水面を動いた。


 ゆっくりと、警戒するように顔を出したのは、レークたちは初めて見る本物の人魚だった。

 ジッと、窺うようにこちらを見ていた人魚はふと目線をアオイに移し、急にその表情を明るくした。

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