10,伝えたい事
使い魔が家の外に出た感覚と、帰ってきた感覚。
その2つの空き時間はそう長くない。
説明も手短なものだったのだろう。無駄な時間を取らせないのは、優秀は証拠だ。
「おかえり」
目の前に現れた自身の使い魔に声をかけて、魔眼の魔女は微笑んだ。
使い魔は紙袋を抱えていた。
中には2つの小瓶と、それぞれに括りつけられたメモ。
内容を読んで、星のような形の方だけ蓋を開けた。
夢は、まだ眠るたびに見ている。
ならばこちらだけで十分だろう。
「ああ、そのままでよいよ」
使われなかった薬を抱えて迷ったように飛んでいた使い魔に机を示して、魔女は薬を呑み込んだ。
そのままベッドに横たわり、いつも通り目を閉じる。
時間の感覚がないこの住処では、自分がどのくらい継続して活動しているのか分からない。
思っているより長く動いているのか、歳を取って体力が落ちたのか。
疲れたと思ってベッドに寝転がると、いつもすぐに眠ってしまう。
そして、あの夢を見るのだ。
魔女は暗闇の中に居た。
ああ、何かに追われている。
それを認識して、いつもなら走り始める。
今回は、身体が自由に動いた。
だから、いつもとは違い、追ってきている何かに向かって歩いて行く。
逃げろと警告する自分の意識を無視して、気配を探るように歩いていると、黒い靄のような何かが居た。
これが、自分を追って来ていた者。
これが、自分が会うべきと思った者。
「……お前は、誰だ?」
そっと尋ねた声は、震えていたかもしれない。
その声には答えずに、靄は手を伸ばしてくる。
逃げ出したい気持ちを黙らせて、こちらからも手を伸ばす。
指先が靄に触れた瞬間、靄が消え、暗闇が晴れ、魔女は草原に立っていた。
目の前には、ずっと前に忘れてしまっていた懐かしい顔が居る。
「寂しくはないか?」
名前も思い出せないその人は、優しい声でそう言った。
「苦しくは、ないか?」
心の底から、魔女を気遣うように。
そっと手を伸ばしてきたその人の、温かな手を取って魔女は笑う。
「ああ、何だ。お前だったのか」
「皆、居なくなって、1人残されて、お前は、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫だよ。これでも、新たな友が出来た」
「そうか、でも、俺は寂しい」
「悪かったよ、長く会いにも行かんでなぁ」
これは、古い知り合いだ。
まだ魔女が魔女ではなかった頃の知り合いだ。
魔女を心配していたのか、自分が寂しかったのか。
もう魂だけの存在だから、どちらの感情だったとしても抑えが効かなかったのだろう。
それで、自分が干渉出来る夢という媒体を使って接触を試みていたと。そういう事なのだろう。
「これからは、顔を見せに行くよ」
「うん。待ってる」
満足気に笑って、その姿は薄れていく。
草原に1人だけになったと同時に、魔女は現実に引き戻された。
眠りから覚めた魔女に気付いて、使い魔たちが寄ってくる。
その頭を撫でて、魔女は出かける支度を始めた。
使い魔も来るというので、2体だけ連れて久々に住処を出る。
道中の魔物は魔眼で退治して、まっすぐ進んだ先は夢で見たものにとてもよく似た草原だ。
そこに、魔女にしか見えていない村の門があった。
もうずっと前に死んでしまったその村の入口に、魔女は両手いっぱいに抱えた花を丁寧に並べていく。
全て並べ終えるころには夜になっていた。
綺麗に並んだ花をみて、その奥で笑っている古い知り合いたちを見て、魔女は心底満足そうに笑った。
12章はこれで終わりです。
次は……2か月更新うんぬんの表示が出る前には更新できる予定です。
ブクマ、評価、感想等々貰えたりなんかしちゃったら頑張って早く上げます。頑張りたい()