9,夢見の星
3日間星の光を集めていた薬のベースは、それ自体が星空のような色に変わっていた。
コガネに作ってもらった方も同じ色に変化している。
ここからこれを凝縮していって、どちらが完成形になるかは最後まで分からない。
ここ3日ほど夜に起きていて昼間眠っていたアオイは昼寝がしたくてたまらなくなっているが、それを我慢して作業部屋に居た。
「主、結局どれにするの?」
「うーん……炒り……」
「小鍋出す?」
「出すー」
凝縮方法を色々と考えていたのだが、結局炒ってしまうのが1番早いという結論が出た。
コガネが小鍋を出してくれている間に、アオイはビンの蓋を開けて中身を確認する。
どちらも問題ない質である。
「主、これここでいい?」
「うん。こっちお願いしていい?」
「いいよ」
「ありがとう」
コガネが作っていた方のビンをコガネに渡して、アオイは2つ用意された小鍋の1つの前に立った。
そこにビンの中身を半分ほど入れて、木べらでゆっくりとかき混ぜていく。
コガネも同じように作業を始めて、どれくらい時間がかかるか分からないこれを続けるためにイスを持ってくる。
「ねえ、主」
「なあに?」
「何で、今回のお供は私じゃなかったの?」
「……妬いてる?」
「妬いてる」
「おおう、素直……」
ジッとアオイの方を見てくるコガネの目は、確かに嫉妬の炎が灯って……いるかもしれない。
ちなみに最終日のお供はトマリだった。
それを聞いた時にコガネがひどく驚いていたが、あれはもしや嫉妬していたのだろうか。
「……それぞれの過去とか、私の知らない話を聞いてみるいい機会だと思って」
「……むう」
「よし、今度2人でお出かけしようか」
「絶対だよ?」
「うん」
むくれているコガネの頭を撫でて、途端に緩んだ表情に笑みを零しながらナベの中をかき混ぜる。
どこに行こうか、なんて話ながらナベの中を混ぜ続ける事2時間、ナベの中身は徐々に小さな塊を作り始めた。
コガネのナベも同じ状態になっているようだ。
そのまま続けると、アオイのナベの中身は小さな星のような形に、コガネのナベの中身は丸いものになっていく。
極小の金平糖のようだ、なんて思いながらそれを回収して小瓶に入れる。
コガネの方も別の小瓶に入れて、それぞれを見比べる。
「主、どっちが成功?」
「……どっちも成功な気がするけど……今回の目的で言うとこっちかな」
アオイは自分の作っていた方を手に取って笑う。
そのままメモに用法を書き始めたアオイの横に座って、コガネは自分の作ったものを日に透かす。
「こっちは?」
「それは夢を見る薬になったかな。目的の夢は設定できないけど、何らかの夢を」
「主は何でそんな正確に薬の内容が分かるの?」
「……天の加護?」
「あー……」
全てがその一言で納得されるから体のいい言い訳である。
一応こちらも渡しておこう、とメモをもう1枚取り出す。
それにも用法を書きこんで、出来上がったものを紙袋に入れて、魔女から受け取っていた使い魔の召喚証を取り出す。
魔力を込めると、すぐにカードが燃えて使い魔が現れた。
手紙を届けに来た子と同じ子である。
「こんにちは、薬が出来たから、届けてくれる?使い方は中にメモが入ってるわ」
そう告げて紙袋を渡すと、使い魔は嬉しそうに袋を抱えて去って行った。
これで今回の件は解決、だろうか。
「それは?」
コガネに声をかけられて、手元に残した少量の薬に目を向ける。
特に意味はないのだが、何となく残してしまった。
「……ヒソクにでも、渡してみる?」
「良いかもしれない」
最上位ドラゴンは夢を見るのだろうか。
見るようなことを言っていた気もするが、一体どんな夢を見るのか。
そんなことを考えながら、残ったベースも加工し終えてしまう。
保存するには完成形の方がいいだろう。
「これは捨てないんだね」
「うん。何かに使えるかもしれないし」
「そっか」
普段は余った薬は処分するのだが、今回は他の事にも使えそうなのでそのまま保管だ。
一般的ではない薬の保管にはラベルを付けるのだが、これの名前はどうしようか。
「……こっちは、夢見の星」
「これは?」
「……夢……夢見の……欠片?」
「いいんじゃない?」
「じゃあそれで」
さっそくラベルを作り始めたコガネに、数粒入れる小瓶の製作を頼んでからアオイは書斎に向かった。
いろいろと考える事が溜まってきたが、今は作り方の清書が先である。
作った薬の製作方法もだいぶ溜まってきた。
そのうち1冊目の本を正式に出してしまおうか、などと考えながら手を動かし、まっさらな紙を文字で埋めていく。
完成した下書きはシオンに渡して、作業部屋を覗くとコガネはついでとばかりにポーションのビンを作っていた。
「……在庫ないっけ」
「次行ったら無くなりそう」
「うわ……じゃあ、明日はそれをやってからヒソクの所かな」
「分かった」
緩い会話をしているうちに夕飯の時間になったようで、サクラが呼びに来たので揃ってリビングに移動する。
食卓には豪華は夕飯が並んでいた。
作っているウラハの様子は、いつも通りである。
「姉さま」
「お、どしたのセルちゃん」
「お仕事、終わり?」
「とりあえずね」
「じゃあ、あのね、魔法、見てほしいの」
なぜ私に、と思っていると、シオンが横から会話に入ってきた。
その声色はどこまでも楽しそうだ。
「木箱、自由に動かせるようになったんよ。マスターにも成果を見てほしいんやって」
「そういう事なら、明日薬を作り終わった後にでも」
「うん!」
少し目を離した隙に、小さな妹は凄い速度で成長していたようだ。