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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
12章・夢見の星
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8,星の輝き

 ウラハは、アオイと出会ったとき大きな町に居た。

 国ではないが、国の管理しているそれなりに平和で、それなりに物騒な場所。

 そこで人と関わりながらのんびりと暮らしていた。


 アオイが夢で見た場所は、その前に居た場所らしい。

 詳細は誤魔化されるかと思ったが、ウラハは隠す気がないようだ。


「マスターは、不死に憧れる?」

「ううん?不死って、辛くない?」

「そうね。でも、憧れる人も多いのよ」


 そう言って、悲しそうに笑う。

 その表情に心を締め付けられるようで、アオイはビンを抱えなおした。


「私の横に、男の人が居たでしょう?」

「うん」

「あの人は、不死に憧れた人間に実験の道具にされたの。世界中からかき集められた物が、不死なりえる薬かどうかの実験に使われて、あの人は不死の身体になった」


 お茶を啜って、ウラハは星を見上げた。

 アオイもつられて上を見上げ、ついでにビンを掲げて光を集める。


「不死になっても、傷つけられる痛みは消えなかったみたいね。あの人は時が経つにつれて心が壊れていった。自分を傷つけるようになった」

「痛いのに?」

「ええ。これだけ痛い思いをしているのに死ねない自分を、どうにかして壊そうとした。私には、その苦しみがどれほどのものか分からない。だから、痛みを共有する契約をしたの」


 静かに語られるのは、ウラハにとっては罪の告白なのだろうか。

 アオイには、それが良い事なのか悪い事なのか、よく分からない。


「私の痛みは向こうにはいかない。あの人の痛みを、勝手に私が共有するだけの一方的な契約」

「……それが、最善だった?」

「分からない。分からないの。あれが最善なのか、何が最善だったのか。どんなに考えても、分からないのよ」


 震える声で、そんなことを言うから。アオイは思わずウラハの顔を窺った。

 ウラハもアオイを見ていた。

 泣き出しそうな笑顔で、ウラハは言う。


「ねえ、マスター?不死を殺す薬は、作れるのかしら?」




 翌日の夜、アオイは昨日と同じように空を見上げて寝転がっていた。今日は、ちゃんと敷物の上だ。

 今日の供にはシオンを呼んだ。そろそろ来るころだろう。


「マースター」

「おー、セルちゃん寝た?」

「うん。で、どうしたん?」

「話が早いねえ」


 何を告げるでもなくシオンを指定しただけなのだが、敏い彼は何かを察しているらしい。

 隣に腰かけたシオンにビンを1つ預けて、アオイは空を見上げた。

 今日も、満天の星空だ。


「ウラハの契約って知ってる?」

「察しては居るけど、内容は知らんよ」

「じゃあ、不死を殺す方法は知ってる?」

「また面倒なことに首突っ込んだん?」


 明確な返事をくれないのは、知られたくないからか。

 シオンの方を見ると、シオンは静かに星を見上げている。


「不死の内容によるなぁ。マスター、闇蝶は知ってるやろ?」

「うん」

「あの毒は、何よりも強い。光から不死になったやつ以外は、闇蝶の毒で死ぬで」

「……そっかぁ」

「あんまり無理しちゃあかんで?」

「はーい」


 ぼんやりと返事をしながら、アオイは自分の師匠を思い出していた。

 あの人も、不死のようなものだ。

 もし不死を殺す薬が完成したら、先代勇者たちは欲しいと言うだろうか。


「……んー……」

「何で悩んでるんか知らんけど、相談行ったらいかんの?」

「あー……行ってこようかな……」


 ヒソクにはしばらく会っていないし、相談ついでに会いに行くのは良いかもしれない。

 契約獣の最年長なら、何か知っていそうだ。


「……まあ、やるかどうかも分からないけどね」

「そか」

「うん」


 話している間に月が傾いていく。

 まだ夜明けまで時間はあるが、だんだん眠くなってきた。

 眠らないように何か話していたいが、なにか話題はあっただろうか。


「……あ、ねえ。シオンって、ここに来る前何してたの?」

「森で昼寝」

「それは知ってるけどさ……」

「デルピュネーで星詠み屋」

「それは知らない!」


 勢いよく反応すると、シオンは楽しそうに笑った。

 今も店はあるのでは、などと言うので、アオイはそのうちデルピュネーまでシオンを連れて行こうと決意した。


「もうちょっと詳しく」

「いや、人の作る物っておもろいやん?」

「うんうん」

「んで、それを得るには人の通貨が要るやん」

「そうだね」

「だから、稼ごう思うて」

「そんな軽くやることなの!?」

「まあ、俺らからすれば生まれた時からやってるしな。呼吸みたいなもんやし」

「えー……知ってはいたけど……」


 星詠みとは、それなりに高度な技術だった気がするのだが。

 まあ、彼は星花猫。人が星を詠み始めるずっと前から星と共に生きている種である。


「あ、そこで散らかし魔?」

「そうそう。人の子拾ってなぁ」

「人の子拾ったの!?」

「うん。多分奴隷やったな。逃げてきたみたいやから。おもしろそうや思うて」


 初めて知るシオンの過去は、思っていたより内容が濃い。

 それでも面白そうな日々だった。

 拾われた子は、付けられていた鎖を解かれてシオンの元で星詠みを学んだそうだ。


 そこの子が立派な星詠みになった頃、シオンはその国での生活に飽きてきたので、店を継がせて別の所に行ったのだと。

 そして色々やっているうちにアオイと出会ったのだと。


「もう代替わりしたかもなぁ」

「そんなに前の事なんだ」


 シオンの話を聞いていたら、眠気はどこかに行ってしまった。

 話しながら空を見上げると、もう夜明け近くになっている。

 手元の薬は大分完成に近い。明日が最後の星集めだろうか。

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