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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
12章・夢見の星
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7,羊の過去

 長い髪。毛先だけ緩いウエーブのかかった、クリーム色の髪。

 優しい瞳。少しだけ銀の混ざった金色の、柔らかなたれ目。


 そこに立っていたのは、間違いなくウラハだった。

 アオイの記憶にある、寝る前に見たウラハと変わらない姿。

 けれど、見た事のない服を着ていて、見た事のない場所に居た。


 そして、ウラハの横にはアオイの知らない男の人がいた。

 2人は何か話していた。

 話し声は、聞こえない。でも、口は動いている。


 読唇術が使えれば内容が分かったかもしれないが、生憎アオイはその術を身に着けていなかったので、内容は分からない。

 それでも、穏やかな話し合いでないことは分かった。


 男の人は、自分を傷つけようとして、ウラハがそれを止めて。

 そのやり取りの間に、恐らくは言い争っているのだろう。

 しばらくそんなやり取りが続いて、男が動きを止めた。


 その場に座り込んで何かを言う男を見て、ウラハが唇を噛む。

 そして、何か決意した表情をした。

 夢の中で見ているだけなのに、アオイの心がざわつく様な、強い決意の表情だった。


 そんな表情のまま、ウラハは男に声をかけた。

 一体何を言ったのか、男は驚いたようにウラハを見上げて、言葉を返す。

 続けて何か言ったようだが、ウラハはそれを聞く前に行動に出た。


 そして、2人光が包む。

 アオイはこの光、この魔力を知っている。

 これは、契約の魔力だ。


 契約の魔力ではあるのだが、アオイとウラハが結んだ契約のように、双方の同意があるものではない。

 この契約は、ウラハの独断で結ばれたものだ。


 内容は、分からない。

 それでも、男が困惑しているのは分かった。

 夢の中で最後に見たのは、見た事のない、悲しそうな笑みを浮かべるウラハの姿だった。



「……いや、まったく分からん」


 目が覚めて、思わず呟く。

 これはきっとウラハの過去で、ウラハがその名前になる前の話。

 突然これを見た理由も、夢の内容も、全く理解が追い付かない。


 ウラハが何か契約を結んでいて、契約相手であろう男の人は困惑していた。

 それくらいしか分からない。

 あれが何だったのか、ウラハに聞いた方がいい気がした。


 でも、それを聞いたら何か起こってしまわないだろうか。

 今の平穏な関係が崩れるのだとしたら、アオイはそれを厭う。

 それを聞いて、ウラハが居なくなってしまうような事があるなら聞かない方がいいと思う。


「……悩ましいな……」


 呟きながら時計を確認すると、時刻は昼の11時である。

 着替えて下に降りたら、丁度昼食になるだろうか。


「……それでも、かな」


 もし、聞いて今の関係が崩れたとしても。

 それでも、アオイは契約主としてウラハの悲しい笑顔の真相を突き止めなければいけないと、そんな気がしたのだ。


 決意を固めて、着替えて髪を梳かしてから部屋を出る。

 1階からは賑やかな話し声が聞こえてきた。


「おはよう」

「あ、姉さま!おはよう」

「おはようマスター。昼食は食べられるかしら?」

「うん。食べる」


 いつも通り。

 ウラハも、恐らくアオイもいつも通りに見えているだろう。

 昼食の用意された席に座って、午前中の報告を聞きながらアオイはなるべく自然に会話を切り出した。


「あ、今日の星の番は、ウラハにお供してもらおうと思うんだけど」

「いいわよ。2人きり?」

「うん。たまにはいいでしょ?」

「そうね。お茶を淹れていくわ」


 にっこりと微笑まれて、アオイも笑い返した。

 そのやり取りに違和感はない。

 アオイは内心ほっと胸を撫でおろしながら、食器を持って立ち上がった。


 星が出るまで、まだ時間がある。

 それまでにベースの最終調整をしておこう。



 夜、満天の星空の下にアオイは寝転がっていた。

 そろそろ片付けやら明日の朝食の支度やらを終えたウラハが来るころである。

 何と切り出せばいいだろうか。そんなことを考えていたら、上から声が降ってきた。


「マスター、お風呂上りにそのまま寝転がるのはどうかと思うわよ」

「えへ。つい気持ちよさそうで」


 身体を起こしながらウラハを見上げると、ウラハはため息を吐いてから微笑んだ。

 手に持っていた敷物を敷いて、その上に2人で座って星を見上げる。


「それがベース?」

「うん。星の光に当ててれば完成、かな」


 ビンの蓋を開けて、それを抱えながら差し出されたお茶に手を伸ばす。

 優しい味のお茶を啜りながら、横目でウラハを覗き見た。

 その表情は、いつも通りの優しい微笑だ。


「……ねえ、ウラハ?」

「なあに?マスター」


 声をかけると、その優しい表情のまま、ウラハはアオイの方を見た。

 その瞳を真っ直ぐに見返しながら、アオイはそっと声を出す。


「ウラハの抱えた契約は、私が触れない方が良い事?」


 そう聞くと、ウラハは驚いた顔をして、その後に、夢で見たものと同じ、悲しい笑顔を浮かべた。

 抱えたビンを抱きしめながら、アオイはウラハを窺った。


「そう、マスターにバレちゃったのね。……隠してて、ごめんなさいね。巻き込んじゃいけないかと思ってたの」


 静かにそう言って、ウラハは悲しい笑顔のまま、アオイの知らない、アオイと出会う前の話を始めた。

前々から入れようと思っていたウラハさんの話。

1話に収まりきらなかったのは内緒。

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