6,星を捕らえて
サクラが帰ってきて、渡された紙をトマリに渡す。
トマリはそれを見て軽く手を振って闇に入って行った。
行動が早い。帰って来るまでにベースは出来るだろうか。
トマリならそう時間はかからないだろう。
出来る限り急いで進めないと、こちらが遅れて効果が薄れてしまいかねない。
「いっそげー」
「主、あんまり急ぐと危ない」
「分かってるよー。コガネ、こっちお願い」
「うん」
巻き込まれたコガネとそんな話をしながらナベの中身をかき混ぜる。
コガネにも同時進行で別パターンを作ってもらっているが、どちらが成功するだろうか。
「……んー?」
「どうしたの?」
「コガネ、これ、多分ダメだよね」
「……主、流石に分からない」
「あうふ……」
コガネなら分かるだろうと声をかけたのだが、そっと首を振られてしまった。
流石に、最上位薬師の仕事内容は気軽に相談できなかった。
「どうしよっかなぁ……」
「作り直し?」
「うーん……まだ修正出来そう」
ちょっと材料を取ってくる、とコガネに声をかけて、アオイは自身の部屋に向かった。
部屋に入り、棚を開けてその奥に仕舞われた小箱を取り出す。
中身は綺麗な魔石と、送り主からのメモ。
《きっとあなたが一番上手く使ってくれると思う。
どう使うかは任せるので、悪い方に回らぬように》
メモの内容をもう一度読んで、アオイは心の中で返事をする。
大丈夫、悪い方には回しません。
その返事は、相手には届かないだろう。なにせ顔も知らない相手である。
小箱を持って作業部屋に戻り、中の魔石を半分にする。
片方は箱に戻し、片方は薬研に乗せる。
そのまま砕こうとして、硬くて砕けない事に気が付いた。
「こ、コガネー」
「変わろう」
「お願い」
「粉々に?」
「うん。こまっかくして」
「了解」
己の筋力の無さを実感しながら、アオイはコガネが混ぜていたナベの前に立つ。
しばらくその作業をしていると、コガネから声をかけられる。
「このくらいでいい?」
「バッチリ。そっちのナベに入れてくれる?」
「分かった」
細かく砕かれた魔石がナベの中に入り、そこからまたコガネと交代して作業を進める。
しばらく様子を見て、材料を加えながらぐるぐるとかき混ぜる。
「どう?」
「いけそう」
「やったね」
短く会話をして、作業に戻る。
そんなことをしているうちに両方とも完成に近い状態になり、タイミングよくトマリが帰ってきた。
渡された物を見て親指を立て、コガネに渡して少し加工してもらう。
それを半分ずつそれぞれのナベに入れたところで、夕飯のお呼び出しが来た。
「はーい。すぐ行くよ」
返事をして、ムラがないようによくかき混ぜたら一旦放置だ。
夕飯を食べて戻ってきたらいい具合だろうか。
「マスター、そっちどんなん?」
「もう完成かな。多分大丈夫だよ」
「お、そか。星は明日から1週間くらいやで」
「はーい。ちょうどいいかな」
全体的にタイミングがいい。ここまで噛み合うとは中々だ。
何かそういった意志が働いているのではないかと思うほど、美味い具合に事が進んでいる。
これでアオイの作っていたベースが崩れていたりしたら全てが崩れるが。
不安もあるが、まあ大丈夫だろうと楽観視している部分もある。
どちらかというと、楽観視が強い。
アオイは基本なるようになるさ、と気楽に生きているのだ。
「マスターの方が出来てたら、明日から夜の番がいるわね」
「私がするよ?」
「マスターだけじゃ寝ちゃうでしょう?」
「うぐ……」
そんな話をしながら夕飯を食べ、食器を片付けてから作業部屋に向かう。
ナベの中は、アオイの理想通りに出来上がっていた。
この段階でも、まだ2つあるうちのどちらが完成に至るかは分からない。
「このまま?」
「うん。……ビンに移すだけ移そうか」
「分かった」
今日はもうやることはない。
明日から夜更かしの日々が始まるので、早めに眠った方がいいだろう。
そう思って、夜更かしに付き合って貰う予定のシオンとウラハにも声をかけてから部屋に戻る。
まあ、2人は数日眠らなくても問題ないので、アオイが十分眠ればいいだけだ。
明日の朝はコガネも起こしに来ないらしいので、たっぷり眠って夜になっても眠くない状態にしてしまおう。
健康的には悪いのかもしれないが、森の中に引きこもっている身からすると今更である。
何かに対して言い訳をしながら、アオイはベッドに入った。
いつも通りすぐに眠気がやってきて、意識が落ちる。
アオイは普段、夢を見ない。
時折夢を通して会いに出かけることはあるが、あれは自分の意志でやっていることである。
自発的に見ない、いわゆる「普通」の夢はここ数年見た記憶がない。
それなのに、アオイはその日夢を見た。
夢の中で人に会いに行く薬を作っているからなのか、ただの偶然なのか。
ともかく、久方ぶりに夢を見た。
見た、のだが、それはアオイの夢ではなく。
アオイは知らないはずのもの。
アオイのものではない記憶。
魔力契約の契約獣の特徴で、過去の記憶が共有されたのだろうか。
その夢は、ウラハのものだった。
捕らえてなくない?とか言ってはいけない(タイトル考え直す元気がなかった)