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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
2章・血をすすぐ雪の剣
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4,製作

 イピリアは、国内で一切の魔法が使えない特殊な国だ。

 そのため、魔力を嫌う種族や魔法があると輝けない力自慢が集まったりする。

 回復魔法なんかも使えないこの国では、ポーションの売り上げがとても伸びる。

 今日売った分だけで、雪の剣の材料費を賄えそうな勢いだ。


 イピリアには、金物細工の職人が多くいる。

 今回必要な材料は金物ではないが、特殊な材料を集めることは出来そうだ。

 最終手段として、主に許可を取って女王に頼むことも出来る。

 アオイとイピリアの女王は交流があるのだ。


 少し市場を回って、店を止めてコガネが店番をしている間にトマリが材料を探しに行った。

 こういった事はトマリの方が得意だ。魔法が使えないならなおのことである。

 しばらく店番をしていると、トマリが帰ってきた。

 手には袋を抱えている。


「見つかったか」

「おう。ただ、長い剣は作れねぇな」


 袋の中身を確認して、客の目につかないところに置いておく。

 懐から懐中時計を取り出し、もう少ししたら店じまいだな、と呟く。

 トマリが覗き込んできたので時計を見せて、彼が離れてから仕舞った。




 アオイは唸っていた。

 作業部屋で試行錯誤していたが、何が不味かったのか爆発を引き起こしてしまい、直前でどうにか店に逃げて扉を閉めたところである。

 こんな事態に備えて作業部屋は特別強く作ってある。

 シオンが驚いて起きたくらいしか被害はなかった。


「いやー、ビックリ。あれ混ぜたら爆発するんだ……」

「やったやんマスター。爆薬の完成やで」

「どう使うの……」


 第1大陸で高く売れそうやなぁなどと呟くシオンは無視して、そのままカウンターに座る。

 一応色々試していたのだが、爆発を起こして少し冷静になった。

 魔神にとっての毒、つまり人にとって毒ではないなら、毒の製造法じゃダメなのでは?


「うーん……」

「まあ、次はもっと安全な方法でやってな?」

「一応安全な方法だったんだよ?」

「爆発しとるやん」

「材料が不味かった」


 これは薬師会に報告かなあ……なんて呟きながらメモを始めたアオイに、シオンは寄りかかる。


「なんか手伝おうか?」

「うーん……爆発の片づけ」

「マスターの仰せとあらば」


 シオンは素直に頷いて立ち上がった。

 そうなると、アオイも立たざるを得ない。

 アオイはため息を1つ吐いてから立ち上がった。


「どんなになっただろ」

「まあ、そんなに酷くないと思うで」


 シオンの後ろに隠れるように作業部屋を除いて、ホッと息を吐いた。

 思っていたより酷くない。

 まあ、ナベの周りが悲惨だが、それくらいだ。


「よし、パパッと片付けよか」

「はーい。シオンなんか慣れてるね?」

「昔散らかし魔と一緒に居たこともあるんよ」

「初耳」


 うちのお供、結構知らない過去があるな……

 コガネも昔は旅してたって言ってたし、1回みんなの過去話纏めたら面白そう。

 などと片づけから目を背けて考えていたら、シオンが気付いてひょいっと抱えられる。


「ほら、かたすでー」

「分かった、分かったから降ろそう?」


 降参すれば何も言わずに降ろされる。

 なんというか、年下の扱いに慣れてるんだよなあ……



 コガネたちが帰って来る前に、サクラが戻ってきた。

 行きとは違う紙を持っている。

 内容は、製作を引き受ける、待っている。という短い文章。


「やっぱり引き受けてくれるんだ」

「嬉しそうだったよ?」

「そっか。ありがとう」


 サクラの頭を撫でて、部屋に戻って荷物を纏める。

 そこそこの頻度で出かけるから、基本の持ち物はもうすでに纏められている。

 コガネが帰ってきたら声をかけて、その前にジーブに説明をして……

 考えながら、ふと手が止まった。

 トマリは、来るだろうか。


「……来たかったら勝手に来るか」


 トマリは、アオイの契約獣の中でもかなり自由に動く。

 気付いたら居ない事もあるし、気付いたら付いてきていることもある。

 だから、あまり気にしなくていいだろう。

 トマリは影だ。呼べば元からいたかのように現れる。


 必要なものを用意して、あとはコガネたちが帰ってきてから、と呟いて客間に向かう。

 フレアは庭で女子会に参加していて、客間にはジーブしかいなかった。


「おーい」


 ソファに座って舟を漕いでいたので、緩く声をかける。

 ゆっくりと目が開かれ、アオイを確認して座り直した。


「何かあったのか?」

「剣を作りに行く。一緒に来る?」

「行く。俺が使う物だしな」

「だよね」


 その確認だけ、と言うと、今度は抗うことをやめたのかソファに横になった。

 いつか聞かれたので明日と答えて客間を出る。

 庭に居るフレアに目をやると、フレアは気付かずウラハがアオイに目を向けた。

 そして心得たようにウインクしてくる。


「絵になるなぁ」


 優しいクリーム色の髪や、身に着けた微かな金属が日の光を浴びて輝いている様子を見て、思わず呟いた。

 そんなウラハの行動で気付いたのか、フレアが振り返った。

 笑顔で手を振って来るので、微笑んで手を振り返す。

 少し前に爆発を起こした人物とは思えない、綺麗な微笑みだった。


 少ししてコガネたちが帰ってきて、入手した材料を見せてくる。

 見せられてもよく分からないが、2人がいいというからいいのだろう。

 思考を丸投げしたアオイに、コガネは慣れたように材料を仕舞った。

 もう10年の付き合いである。丸投げされることは知っていた。


「よし、じゃあ、明日行こう」

「分かった」


 材料はコガネが持っていき、夕飯の支度をしていたモエギに出発時間を伝える。

 昼食に弁当を作ってくれるらしい。楽しみだ。

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