表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
12章・夢見の星
128/190

2,魔眼の魔女

 アオイとコガネはその日、日帰り用に纏めてある軽い荷物を持って敷地内の池を見つめていた。

 今日向かう先は第1大陸、暗黒の地に近い海岸である。

 なので、久々に海路から行こうという話になり、もう既に水竜には声をかけてあるのだ。


 もうすぐ来るはずの水竜を待ちながら、アオイは自分の手を強く握っていた。

 第1大陸、暗黒の地。その単語は、1人の友人を脳裏に連れてくる。

 彼女がどうしているのか、まだ、生きているのか。


 知りたいような、怖いような。

 会いに行きたいような、行きたくないような。

 考え始めると落ち着かなくなってしまう。今、そのことは関係ないと分かっているはずなのに。


「……主」

「ん、なあに?」

「来たぞ。大丈夫か?」

「うん。大丈夫」


 コガネに声をかけられて、へにゃっとした笑みを返す。

 心配性なコガネはまだ不安そうだが、アオイとしてはひとまず移動に意識が向いたので大丈夫である。

 もう一度大丈夫と繰り返して、顔を出した水竜に向き直る。


「こんにちは。第1大陸の暗黒の地の横までお願いしたいの」

「キュリュッ」

「ありがとう」


 自信満々に大丈夫!と言われて、アオイは微笑んだ。

 今回は荷物も少ないのでそのまま背中に乗せてもらい、すぐに出発する。

 久々の水中はいつも通り綺麗で、頭上を優雅に泳いでいく光り輝く魚を眺めたりしている間にどんどん進んでいく。


 水中の風景を楽しんでいる間に気付けばもう第1大陸に来ているらしい。

 足が速くなったのでは、と呟いたら、得意げな鳴き声が返ってきた。

 何やら特訓していたらしい。


「キュル」

「うん。ありがとう」

「キュルル」

「じゃあ、ここで呼ぶね」

「キュルッ」


 目的地に着いたらしく、水竜は一声鳴いて水面に顔を出した。

 帰りもここに迎えに来てくれるらしいので、その言葉に甘えて頭を撫でる。

 水中に潜って行ったツルツルな姿を見送り、アオイはコガネに向き直った。


「よし。じゃあ、お願いね」

「ああ」


 魔女の住処には、普通の人間はたどり着けない。

 魔術と呼ばれる、魔法の元になった魔法よりも強大な技術を持って隠されているからだ。

 コガネは神獣、魔法特化種族である。


 魔法は元より魔術にも適性のあるコガネならば、魔女の住処の入口を見つけることが出来る。

 ただ、それは見つけるだけだ。

 中に入るにはそれよりもずっと強力な守護を越えなければいけない。


 それを通過するためのものが、使い魔の少女が持ってきた招待状である。

 アオイに向けて書かれた招待状をアオイが使用すれば、住処の扉は開く。


「あったぞ」

「お、じゃあ、入ろうか」


 コガネが見つけてくれた、アオイの目線の高さに浮かぶ魔術印に招待状をかざす。

 すると、招待状は宙に溶けて消え、先ほどまで何もなかったそこには下に降りる階段が現れていた。


 アオイとコガネは慣れたようにその階段を降りていく。

 地下に潜っているはずなのに、この空間は太陽の下に居るかのように明るい。

 何度来ても不思議な場所である。


 階段を降りきって、続いている廊下を進む。

 歩いていると丸く開けた空間に出た。

 丸い空間の中央に置かれた丸い机。そこに、アオイを呼んだものが居た。


 イスに座って、のんびりとお茶を啜っていたその人は、アオイを見て、そっとイスを示す。

 先ほどまでそこにイスはなかったはずだが、気が付くとアオイとコガネを歓迎するように2つのイスが置かれていた。


「こんにちは、お久しぶりです」

「うん。久しぶり」


 嬉しそうに目を細めた彼女が、この空間の主、魔眼の魔女である。

 髪で隠れている右目が「魔眼」であるらしい。


「呼びたててすまないね。本当なら、私から出向いた方がいいのだろうが」

「いいえー。私が動いた方が色々と楽でしょう?」

「お前はいい子だねぇ」


 優しいお婆ちゃんのようなことを言って、魔女は軽く指を動かした。

 それに合わせて魔女の使い魔、招待状を届けに来た少女と、もう1人同じ身長の、蝙蝠のような羽を生やした髪の長い使い魔がお盆を運んでくる。


 上に乗っていたお茶をそれぞれアオイとコガネに差し出して、使い魔たちは去って行った。

 出されたお茶に口を付けて、アオイは魔女を見る。

 ゆったりとした布を幾重にも纏った服装、半分が隠れた顔、醸し出される雰囲気。どれも、いつも通りである。


「それで、今回はどうしたんですか?」


 そう聞くと、魔女は手に持っていたティーカップを置いた。

 そして、ゆっくりと深いため息を吐く。


「夢をな、見るのだ」

「夢、ですか」

「ああ。同じ夢を、かれこれ50回ほど見続けている」


 話している魔女の横から、小さな蝙蝠が飛んできた。

 紙を持っていて、それをアオイの前に落とす。

 紙に書かれているのは、夢の内容のようだ。


「気付くと、何かに追われている。それが夢であることは分かっているのだがな、どうにも自由に動けんのよ。そして、逃げているうちに扉を見つける。扉に入ろうとは思っていないのに、最後には勝手に開いた扉に吸い込まれて目が覚める」


 語られた内容は、紙に書いてあるものと同じ。

 これが、今回呼ばれた原因か。

 アオイは紙をコガネに渡して、魔女に向き直った。

魔女という存在が出来たの、もしかしなくても初めてなのでは

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ