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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
12章・夢見の星
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1,魔女の使い

 その日の薬作りノルマを達成したアオイとコガネは、庭で優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいた。

 モエギがお茶と茶菓子をくれたので、天気もいいし庭に出ようと話した結果の現在である。

 他愛もない話をしながらのんびりお茶していたのだが、何かの来訪を察知してコガネがお茶を飲む手を止めた。


「どうしたの?」

「……使い魔、かな」

「あ、魔眼の所の?」

「うん」


 話しているうちに、その子は姿を現した。

 コガネが姿を変えるときのような、軽いポンッという音がすると同時に、アオイとコガネの目線の先に小さな少女が姿を見せた。


 身長12センチほど、天使のような翼と、同じく天使を模したのであろう頭の上の輪。

 くりくりとした目を輝かせて、キノコのような形に綺麗に切られた髪を揺らして、少女はアオイに向き直った。


 そして、両手で抱えていた1枚の紙を差し出してくる。

 しっかりとしたその紙は、魔女の招待状である。

 暇な時に、と書かれているそれを、アオイはコガネに渡した。


 そうしている間に、気付けば使い魔の少女は消えていた。渡すところまでが仕事だったらしい。

 使い魔とはそういうものだ。

 アオイはさして気にも留めずにコガネに向き直った。


「いつ行こうか」

「……とりあえず、出店リコリスの出ない日に、かな」

「じゃあ、フォーンとスコルの中日かな」

「分かった」


 今回はそう時間のかかる用事ではないだろうから、薬の作り置きは慌てなくていいだろう。

 アオイの何となくの感覚だが、コガネが何も言ってこないので同意見なのだろう。

 とりあえず連絡だけ回して、詳しいことは後で決めることにした。


「明日がフォーンだよね」

「うん」

「じゃあ3日後、だね」

「そうだね」


 ゆっくりと、何となくの予定を組みながらお茶を飲む。

 少しするとモエギが寄ってきて、お茶の追加をくれた。

 先ほど飲んでいたのとは別のお茶のようだ。


「モエギ、これは?」

「レヨンさんから貰ったんです。まだ市場に出てない新作らしいですよ」

「へえー……」


 おそらくは宣伝を頼まれたりしたんだろう。彼女はそういう仕事も受け持つのだ。

 情報屋だから、ある種の情報操作も仕事の内さ。

 なんて言って笑っていた。その実、こうして珍しいものがいち早く手に入る状態が気に入っているだけな気もするが。


「どうですか?」

「アルハニティーより甘みは少ないね。さっぱりしたのが好きな人はこっちの方が好きなんじゃないかな。値段次第だとは思うけど」

「なるほど。伝えておきます」

「あ、美味しかった、って言っておいて」

「はい」


 レヨンがアオイに新作をおすそ分けしてくれるのは、感想を求めているからだ。

 レヨン曰く、自分とは違う味覚の人の感想も欲しい。その方が何かと都合がいい。と。

 感想を送る代わりにタダでお茶やら何やら貰えるので、アオイとしては全く問題ない取引である。


「主、本当にアルハニティー好きだね」

「コガネはそうでもない?」

「うーん……主ほどの執着はない、かな」

「……私そんなに執着してる?」

「見てる限りは」


 確かに、お茶は高いのから安いのまであれこれ飲んでいるのに、結局はアルハニティーに戻ってきている。

 これを最初に飲んだのはまだ独立する前、コガネと会ってそう時間も経っていない頃だっただろうか。

 それからずっと飲んでいるのだから、執着しているのかもしれない。


「他に好きなお茶とかないの?」

「あるけど、なんか結局アルハニティーでいいかなって」

「アルハニは妥協点……?」

「いや、そんなに高くないし、結構出回ってるし、他を無理に探さなくてもなって」

「……なるほど。納得」

「かたつむり」


 最後の一言にコガネは何の反応も示さなかった。

 流石慣れている。

 アオイのこうした一言に意味がないことは契約獣の共通認識だ。


 アオイとしてもいちいち意味を聞かれると困るので、聞き流されるくらいで丁度いい。

 茶菓子を齧り、手元の新作お茶を啜りながら、ふと思う。


「これ、甘いものにはあんまり合わないかもね」

「お茶の甘さが負ける?」

「うん。風味が薄れて、ちょっと残念」


 ぼやいて追記内容をモエギに伝えて、アオイは息を吐いた。

 リラックスしすぎて眠い気すらする。そんな優雅な午後である。


「……やっぱりアルハニティーだよ」

「アルハニは甘いもんね」

「茶菓子と一緒でも甘みが消えない。しつこくない。美味しい」

「本当に好きだね。カーネリアの所で飲むお茶とどっちが好き?」

「あれはお高すぎて比較対象になりませぬ」


 そんな会話をしているうちに、徐々に日が傾いていく。

 時計を確認すると、時間は午後4時半である。

 そろそろ片付けよう、と空になった皿とティーポットを運ぶ。


 リビングにはウラハが居て、ウラハもお茶の試飲中だった。

 感想を聞くと、ウラハはこちらの方が好きだと。


「さっぱりしてていいわね。このお茶」

「アルハニは甘いですか」

「あら、あれも好きよ?ただ、夜に飲むとちょっと心配よね」

「ウラハは気にするほどお肉にならないじゃん」

「動いてるのよ、これでも」


 洗い物をしながらガールズトークに花を咲かせる。

 レヨンが新作系を送ってくれるのは、リコリスに試飲者がたくさんいるからでもある。

 感想を言うだけでいろんなものの新作を貰えるのだからお得。というのが、リコリス全員の見解である。

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