0,夢の逃亡
女は、逃げていた。
女は、ここが現実ではないことを知っていた。
ここは自身の夢の中。それでも、逃げなくてはいけなかった。
息を切らせて、転びそうになりながら必死に足を動かした。
逃げて、逃げて。そして、扉を見つけた。
その扉に入れば、この夢から逃れられる。なのに、女はその扉を開くことを躊躇った。
扉を開かず、走ってきた道を振り返る。
自身が息を切らせて逃げていた相手を気遣うように、その者の事を確認するように。
女が止まって、後ろから来るはずの者を待っていると、ひとりでに扉が開いた。
女を追っていた者の姿を確認する前に、扉は開ききる。
そして、その中に引き込まれてしまった。
ゆっくりと目を開ける。
ゆっくりと息を吸う。
ここが、現実であることを確認する。
身体を起こし、その場所が見慣れた自身の寝室であることを確認して、女はため息を吐いた。
ベッドの横に置かれた机に向かい、開かれた手帳に見ていた夢の記録を付ける。
あの夢を見るのは、これで50回目である。
自分を追っているのが誰なのか、色々な手段で探っているがそれを知ることは出来ていない。
あれは誰なのか。自分に何を伝えようとしているのか。
それを知らなければいけない気がして、ずっと考えているのだが。
もう一度深いため息を吐いた女の元に、使い魔が何かを持ってきた。
それは、個人を示す紋。同時に店を示す紋。
それを見て、女は使い魔の頭を軽く撫でた。
自力でどうにかしようと思っていたが、もうどうにもならなそうだ。
なら、これの言う通り、頼った方がいいかもしれない。
そう思って、女は使い魔に何かを書きつけた1枚のカードを渡した。
使い魔がそれを抱えて去って行ったのを確認して、女はもう一度ため息を吐いた。
12章の始まりです!
夏は忙しかったりするので、次章は少し遅いかもしれません。
それはともかく12章です!