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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
11章・毒を撒くもの
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14,昔の話

 レヨンに依頼の完了報告をして、出されたお茶をゆっくりと飲み干す。

 流石に疲れた。コガネの疲労もすごかったので、薬が完成して病が完治するのを見届けてから1日休んで帰ってきたくらいには疲れた。


「うん。うちの子から聞いてた内容と誤差もないし、大丈夫そうだね。ありがとー」

「いいえー。はあ、疲れた」

「お疲れー。そういえば、新薬4つ、名前どうするの?」

「えーっと、冷華の息、赤華の涙、風華の舞、宝華の盾、です」

「いいじゃーん。中二病」

「仕方ないじゃないですかー。馬の上でぼんやり考えたんですから」

「ついうっかり右手が疼いた?」

「ついうっかり古い記憶が……」


 だらっと会話しながらアオイはメモをめくる。

 帰ったらこれの清書をしなくてはいけない。


「そういやアオイちゃん」

「なんですかー?」

「話は変わるんだけど、アオイちゃんって帰りたいと思ったことないの?」

「本当に変わりますね!?」


 全く予備動作のない会話の切り出しに、アオイはとっても驚いて身体を起こした。

 急に何かと思ったが、レヨンの目は真剣である。

 それに、一応場を選んだらしい。


 今、コガネとトマリは買い出しに出ていて、サクラは久々に鳥部屋で積もる話をしているところだ。

 契約獣に聞かれないから、ある程度話やすい。

 別に避けている話題でもないので、お茶のおかわりを貰いながらアオイは口を開いた。


「話したことなかったでしたっけ」

「まあ、なんか聞きにくくてね。10年目の真実ってことで」

「うーん、面白い話じゃないと思いますけど……」

「話したくなくなったらやめていいからさ」


 促されて、お茶に口を付ける。

 口の中を潤してから、ゆっくりと思い出すように声を出した。


「私、兄と姉が居るんです。2人ともすごく優秀で、2人が何でもこなすから私は何をしてもそんなに褒められなくて。

 全く褒められないわけじゃないし、愛されてなかったわけでもないんですけどね。私が勝手に距離を感じてたので。

 向こうは、兄と姉がいるので。私が居なくなってもそんなに被害はないなーと。でも、こっちは私を必要としてくれたので。帰る気は、なかったですね」


 声に出してしまえばあっけない。

 あまりに簡単な理由。あまりに単純な理由。

 アオイがここに居る意味など、割と簡単で軽いものだ。


「そっかー……ま、私としては残ってくれて嬉しいんだけどね」

「そうですか?」

「そりゃ、友人に会えなくなるのは悲しいからね……って、泣きそうな顔だね?」

「レヨンさん……無意識に悲しい話題を……」


 全く嘆かないレヨンの代わりにアオイが嘆いていると、レヨンは笑った。

 そして、アオイの頭に手を伸ばしてくる。


「あのねえ、アオイちゃん。私の周りは悲しい別れが多いけど、それは私がいろんな人と関わってるからだよ。悲しい別れの確率は、別に人と変わらんさ」

「そうなんです?」

「そうなんだよ」


 そう言われれば、そうかもしれない。

 アオイは未だ別れを経験していないが、それは関わる範囲が狭いからだ。

 レヨンのように広く人と関わっていれば、出会いも別れも増えるのだろう。


「さて、そろそろ2人が帰って来るころかな」

「あら、もうそんなに時間が経ちました?」

「まあ、喋ってたらすぐよねー」


 ゆったりと言って、レヨンは茶を啜る。

 ほどなくして玄関の扉が開き、買い出しに行っていた2人が入ってきた。


「おかえりー」

「ただいま。主」

「お?何か面白いものを持ってるね?」

「目ざといな……」


 レヨンに関心のような呆れのような目を向けて、コガネは小脇に抱えていた箱を差し出した。

 箱にはレヨンさんへ、というメモが張り付けられている。


「この字は、ミーファかな?」

「字で分かるのか」

「まあねー。当たり?」

「ああ」


 買い出しついでにレヨンへのお使いを頼まれていたらしい。

 さっそく箱を開けているレヨンを横目に、アオイはコガネの頭を撫でる。


「ありがとう、コガネ」

「ああ。……あ、見つけたからついでに買ってきたぞ」


 言いながら差し出された紙袋の中身を確認して、アオイは笑った。


「流石コガネ」


 そういうと誇らしげに笑うので、紙袋を返しながらもう一度頭に手を伸ばす。

 撫でているうちに箱の中身を確認し終えたらしいレヨンから、荷物を置きに行かないのかと言われて2人は抱えた荷物を置きに行った。


「……さて。明日の朝には帰るんだもんね?」

「はい。今度はお茶しに来ますね」

「そうしてー。待ってるよ」


 ゆったりと笑うレヨンにつられて、アオイも笑みをこぼす。

 笑いあっていたらサクラが舞い込んできて、2人も帰ってきて急に賑やかになった。


「あ、そうだ。報酬渡さないとね」

「あ。そういえば」

「主、忘れてたのか?」

「……えへ」

「可愛いけど駄目だよー。対価はちゃんと貰わないと」


 言いながら、レヨンは人差し指を立てた。

 それを揺らしながら悪だくみの時の笑みを浮かべる。


「金銭的報酬と、情報的報酬、どっちがいい?」

「うわあ、すごい2択だ」

「主、どうする?」

「え、どうしよう……コガネ的には?」

「任せる」

「おっふ、丸投げ……えー……」


 じゃあ、とアオイはレヨンの立てられた指に触れた。

本当はエキナセアに入れたかったアオイちゃんの話。

巡りに巡ってリコリスに入り込んできました。

リコリスだけ読んでる方にはなんのこっちゃかもしれない……でも入れたかったの……


これで11章は終わりになります。

12章もなるべく早めに、具体的には7月中に始めたいですねぇ

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