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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
11章・毒を撒くもの
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13,事の顛末

 アヤメが上から降ってきた。

 髪から滴っていた聖水は完璧に乾いてしまったようである。

 手に持った大剣の状態を確認しながら、アヤメは苦い顔をする。


「あんまり効いてる感じがないわね。物理特化が来るべきだったわ」

「仕方ないよ。別任務行ってるんだから」

「じゃあ、どうするのよこの状況。私だけじゃどうしたって火力不足よ」


 普段は魔法で魔力を上げているのだが、今回はそれをすると向こうが強くなってしまう。

 コガネなら何かできるかもしれないが、コガネは今魔力吸収を抑えながら村の保護をしながら攻撃の下準備をしているので大忙しである。


「ピイ!」

「あ、サクラ!良かったー」


 考え込んでいたら薄桃色の毛玉が降ってきた。

 家にいたはずだが、どうにか逃げてきたらしい。

 アオイの腕に納まって、満足気に鳴くサクラを撫でながらアオイはトマリに目を向ける。


「トマリも、攻撃できない感じかな?」

「おう。俺はそもそも闇に依存してるからな。最悪魔力吸われ過ぎて消滅する」

「それは駄目だ動かないで」

「急に早口だな」


 話し合ってみても事態は進展しない。

 そもそも、どうする?どうしよう。の応酬なのだから進展はない。


「……やるしかない?」

「主、まだだ」

「あれ、なんか勝算がある?」

「ああ。もう少し……もう少しのはずだ」


 魔法を保つのに苦しそうな顔をしながら、コガネがそんなことを言う。

 だがアオイとしては、コガネが勝算があると言うのだからとりあえず大丈夫だろう、と甘い考えだ。


「……行ってくるわ。気休めにはなるでしょ」

「ああ」


 アヤメが再び大剣をもって元神父に向かっていき、触手との攻防が始まる。

 コガネの表情は険しいままだ。

 それでも、時々目線を上げるのは何かが来るのを待っているからだろうか。


 しばらくアヤメと触手の攻防が続き、アヤメの表情が徐々に険しくなっていく。

 コガネの後ろと言う安全地帯に撤退するか否か、考え始めたところに、コガネの声が響いた。


「下がれ!」


 鋭く響くその声に応じて、言われた通りに撤退すれば、入れ替わるようにナニカが触手に突っ込んだ。

 アヤメの技量を持って、これほどの時間をかけて1本しか断ち切れなかった触手が2本まとめて飛んでいき、それを成した小さな黒はそのままそこで暴れる。


 神父の抵抗も攻撃も、その者の前では意味がなかった。

 そちらに意識が行ったからか、コガネがじわじわと広げていた魔力の吸収阻害が一気に範囲を広げて展開された。


 それと同時にトマリが神父に向かって走り出し、コガネは地面に座り込んだ。

 そこからは、もはや一方的な蹂躙だ。

 ほどなくして神父だったモノは崩れ落ち、長かった戦闘は幕を閉じた。


 絶望的だった状況をひっくり返した小さな黒は、動かなくなった残骸を眺めながらナイフを拭いていたが、アオイに気付くと身を翻して寄ってきた。

 その動きにアヤメとモクランが反応したが、アオイはそれを制して寄ってきた少女に向き直る。


「こんにちは!愛し子!」

「こんにちは、黒ウサギ。ありがとう。助かったわ」

「うん?愛し子は、これに襲われてたの?」

「ええ」

「ふーん……まあ、そうだよね!力を使うほどのモノじゃなかったもん」


 子供の様な純粋な笑顔を向けてきた黒ウサギに答えると、黒ウサギは首を傾げて、何か納得したように頷いた。

 そして、座り込んでいるコガネに向き直る。


「ねえ、白、これ、これで終わり?」

「……いや、それは末端だ。他にもいる」

「そっか、分かった!」

「気を付けろよ」

「はーい!」


 コガネに何かを確認して、勢いよく去って行った黒ウサギを見送ってコガネはそっと息を吐いた。

 この後の事もいろいろあるが、今は疲労がひどい。

 兎にも角にも眠りたかった。




「村に赴いた時は個人のものと混ざっていて判別がつきませんでしたが、最終結論は神父に擬態していたナニカによって魔力による毒が撒かれていて、それによって体調不良等が起こっていました。


 私が腐敗と血のめぐりを直した時点で病として撒いていた毒の根絶を恐れたのか、ソレは人の皮を捨てて本性を現し私の存在を……というかなんか広範囲を消そうとし始めました。


 なので、コガネがそれに応戦。魔力の吸収を阻害して時間を稼いでいる間に、元々これを狙っていたらしい黒ウサギが乱入。無事コレの討伐が完了しました。


 討伐が終わって黒ウサギが去った後、その日は休んで次の日ですね。その日から病の根絶を再開。残されていた残骸は、研究のためクリソベリルが回収しました。


 薬の方は順調に出来上がって、ついでに言うと新たな感染者が居なかったので治療は早くなり、新薬は合計4つ製作してそれらと既存の薬で病の根絶は完了しました。


 いろいろあったし、神父さんが化け物になるのを見てしまった人のショックとかが凄かったので、アフターケアとして安眠作用のあるお茶葉を大量に置いてきました。


 病にかかる、かからないの差としては、恐らくは魔力の影響力だろうとコガネが。魔法使いとかはすぐに侵されるし、私みたいに魔力とかに鈍いとかからなかったり進行がとても遅かったりしたみたいです。


 ……と、こんな感じですかね」


 村の病を治した後、レヨンへの報告を終えてアオイはお茶を飲む。

 アオイの報告を聞いて、レヨンは満足そうに頷いた。

久々登場黒ウサギ。味方ならとても心強いです。

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