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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
11章・毒を撒くもの
123/190

12,強敵

「ひえっ!」


 元神父が伸ばしてきた触手のような腕を避けて、アオイは走る。

 コガネが魔法で速度を上げてくれたので、追いつかれることはないはずである。

 元神父を倒そうとコガネが何かしているが、上手くいっていないようだ。詳しく知りたいところだが、今アオイは走り回っているところである。そんな余裕はない。


「あの、コガネさん」

「何だ!?」

「あれは、神父様、ですか?」

「元、な!もうとっくに死んでる。利用されてるだけだ。あと、今話しかけてくれるな!」

「はい、すみません……」


 知り合いなのだろう。神父の事が気になって尋ねて、コガネに怒られてシュンとしたハルフは腰に下げているカバンを漁る。

 サラがそれを覗き込んでいるが、お構いなしに何か探しているようだ。


 そんなことをしている間にもアオイと元神父の鬼ごっこは続く。

 アオイが走ったり跳んだりして神父の攻撃を避け続けている間に、普段ならコガネが何とかしてくれるのだ。


 それが今回、コガネが不調である。

 トマリが出てきて神父に何かしようとしたが、トマリも何かを感じたのか大きく跳んでコガネの横に着地する。


「おい」

「何だ!?」

「あれ、どうにかならねえのか」

「出来たらやってる!出来ないから下準備してる!」

「……時間かかるやつだな。アオイは大丈夫か?」

「手が離せないの分かるだろ!?お前がどうにかしに行け!?」


 珍しくずっと声を荒げているコガネに言われて、トマリはアオイの姿を目で追った。

 なんというか、下手に手を出さない方がいいほど器用に避けている。

 とても慣れている。攻撃魔法の20倍くらい得意なようだ。


「ひゃあ!」


 時々声が漏れているが、体力にもまだ余裕があるようである。それでも、集中力には限界がある。

 アオイは足元にあるそこそこ大きな石に気付いていないようだ。

 トマリが動いたが、この状況では動きが鈍い。


 転がってもいいからせめて触手は避けさせようと魔法を放つと、予想通りアオイは石に躓いて大きく倒れこんだ。

 アオイは驚いて目を瞑り、衝突に備えようとしたのだが地面には衝突しなかった。


 代わりに、腹部に何かが引っかかったようだ。それに支えられて地面には衝突しなかったのだが、代わりにカエルの潰れたような声が出た。

 何かと思って目を開けると、頭上からため息が聞こえてくる。


「君さあ、無駄に狙われることは無くなったんじゃなかったの?」

「あはは……そのはずです……」


 転びかけたアオイを腕に引っ掛けて、伸ばされた触手を弾いてくれたらしいモクランに憐みの目を向けられて、アオイは腕に引っかかったまま頬を掻いた。

 そして、モクランのほかにも聞きなれた声がすることに気が付いた。


「アオイちゃんに手を出すとは……万死!!」


 鬼のような形相で元神父に大剣を振り下ろすアヤメを見て、アオイはどこか懐かしい気持ちになった。

 過去5回くらい、同じようなことがあった気がする。


「で、これ何があったの?」

「あ、知らないんですか」

「俺たちはハーブさんからの依頼でここに来るように言われただけだよ」

「あー……なるほど」


 モクランの小脇に抱えられてコガネの後ろに移動しながら、ゆったりとそんな会話をする。

 コガネは何か難し気な魔法の準備をしていて、アオイを横目で確認しただけだった。

 余程手が離せないらしい。


 そんなことを思っている間にアヤメが上から降ってきて、コガネの後ろに着地する。

 手に持った大剣の状態を確認しながら、訝しげに神父を見た。


「何、あれ?なんだか嫌な感じだけど」

「魔力吸い込んでるみたいだね。正直、俺じゃ手が出せない」

「え、そうなんですか?」

「コガネがだいぶ抑えてるみたいだからそんなに影響ないけど、そうじゃなかったら人が持ってる分も含めてここら辺の魔力全部あいつに吸われてるよ」

「ひえ……」


 アオイはよく分かっていないが、大変な状況らしい。

 道理でコガネが攻撃できていないわけだ。

 モクランが言うには攻撃魔法の魔力も、放った瞬間から吸われるらしい。


 ついでにあいつは吸った分だけ自分の魔力にしていると。

 つまり、攻撃すると相手の力になる。

 何もしなくても相手の力が増す。


「……強敵ですね?」

「君が追いかけっこ出来たことを褒めたたえるくらいには強敵だよ」

「これ、私が対処した方がいいわよね?」

「まあ、俺は今回無能かな」


 それを聞いて大剣を握り直したアヤメに、ハルフが何かを差し出した。

 小瓶に入った透明な液体だ。カバンを漁っていたのはこれを探していたかららしい。


「これは?」

「聖水です。効果があるかは分かりませんが……」

「……あった方がいいかもしれないわね。ありがとう。貰っていくわ」


 そう言って、聖水を頭から被ってアヤメが走り出した。

 それを見守りながらアオイはモクランに声をかける。


「ヒエンさん、なんて言ってたんですか?」

「詳しく言う時間はないけど緊急事態だから急いでここまで行ってくれ、って地図を押し付けられた」

「ああ……なんかごめんなさい」

「別に。それで、動ける中で速かったのが俺とアヤメ」

「馬持ち組ですか」


 緊張感無く話しているが、気を抜いているわけではなく。

 モクランはコガネの魔法を手伝っているらしい。アオイはやることがないのでサクラの安否を確認中だ。

 どうしたものか。考えてはいるが、答えは見つからない。


 ……いや、正確には、1つしか思いつかない。

 それを使いたくないのはアオイのわがままで、本当ならさっさと使ってこの危機を脱するべきである。

コガネとトマリとクリソベリルが居るのに倒せないとか、国1個滅ぼせる戦力ですのでね……

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