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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
11章・毒を撒くもの
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小話,お留守番

 アオイたちが留守にしている間もリコリスは通常通り営業する。

 それは出店リコリスも含めての事であり、今日はフォーンに出店が出る日である。

 いつも通りの事なのだが、いつもとは少し違う事がある。


 今日、アオイとコガネ、サクラ、トマリは遠くの村に行っている。

 そうなると出店リコリスに乗るのはウラハ、引くのはシオンだ。


 つまり今日。家にはセルリアとモエギしかいないのである。

 とても珍しい、2人のお留守番。

 モエギはある程度慣れているが、セルリアはどこか落ち着かなそうである。


 普段は大人数で暮らしているので賑やかな家の中が、とても静かで物音もあまりしない。

 読書をしようかとも思ったが、静かすぎて落ち着かない。

 普段のセルリアの読書環境は、遠くから話し声が聞こえてきて、隣からはページをめくる音が聞こえているのだ。


「モエギお兄ちゃん」

「どうしたの?セルちゃん」

「あのね、あのね、とっても静か……」

「そうだね。……セルちゃん、おやつを持って外に行こうか。いい天気だよ」

「うん……」


 おぼんに2人分のおやつを用意して、お茶も淹れて庭に出る。

 置いてあるガーデニングテーブルの上におぼんを置いて、イスを軽く拭いて座り、お茶会を始める。

 おやつに手を伸ばしながら、モエギはセルリアを窺った。


「セルちゃん」

「なあに?」

「セルちゃんは、どうしてお空を飛びたいの?」


 実はずっと気になっていたのだ。

 簡単な魔道書を色々と読み漁っているセルリアが、真っ先に望んだ魔法が飛行だったこと。それは、納得できるようでどこか不思議だった。


 小さく齧ったカップケーキを呑み込んでから、セルリアは喋り始める。

 どこか考えるようにしながら、モエギの質問への答えをくれた。


「あのね、あの……サクラお姉ちゃんと、モエギお兄ちゃんは、お空を飛べるでしょ?」

「うん」


 サクラとモエギは鳥である。

 人型のまま、背中に翼を生やして飛ぶことが出来たりする。

 モエギはよくそれを使って天井を掃除しているので、セルリアはそれを見ていたのだろう。


「アオイ姉さまは、ドラゴンの背中に乗せてもらえるでしょ?」

「そうだね」

「コガネお姉ちゃんは、魔法で飛べる」


 確認するように、セルリアはモエギを見た。

 モエギが頷くと、また何かを考えながら続ける。


「トマリお兄ちゃんも、飛べるって言ってた。聞いてないけど、ウラハねえとシオンにいも、多分飛べる」

「ああ、それで……」

「うん。私も、お空飛びたいなって」


 言われてみれば、リコリスに居る者は皆、何かしらの手段で空を行くことがある。

 日常的に飛んでいるのはサクラとモエギだけだが、セルリアは全員が飛べることを察していたらしい。


「そっか。……よし、頑張り屋さんなセルちゃんに、特別なご褒美をあげる」

「特別?ごほうび?」

「うん。おいで」


 手に取ったケーキを一旦置いて、モエギは一度家の中に戻った。

 貯蔵庫の中、陽の当らない特別涼しい場所に置かれた大瓶を取り出してきたモエギを、セルリアは不思議そうに見つめる。


 その視線の先でモエギはビンの蓋を開け、台所から乾いた柄杓を持ってきた。

 その柄杓でビンの中身を掬い、一緒に持ってきていた水の入ったコップに入れる。


「飲んでごらん」


 セルリアは渡されたそれをじっと見ていたが、言われて頷いて口を付ける。

 そして、目を丸くした。


「美味しい……!」

「良かった。まだ出来上がってないから、ちょっとだけ、ね?」

「うん!」


 なるほど、「特別なご褒美」である。

 2人きりの静かな時間はそれからも続き、セルリアはモエギからいつもより少しだけ甘やかされた。

話の流れをぶった切ってしまう気もしましたが、どうしても入れたかった小話。

セルちゃんの魔法への興味の元とか、背中に翼生やしてまで天井を掃除するモエギの執念とか、書きたかったのです。

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