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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
2章・血をすすぐ雪の剣
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3,正直不安しかない

 夜、アオイの部屋の扉がノックされた。

 扉を開けると、トマリが立っている。

 出発から3日ほどだった。


「おかえり」

「おう。何から聞く?」

「とりあえず、移動しようか」


 ここではイスが足りないから、とリビングに場所を移し、お茶を淹れつつ問う。


「どんな魔神だった?」

「魔神の中では中位だな。上位はもっと高度な取引をする」

「下位は取引なんてしない、か。雪が何か分かった?」

「端的に弱点だな。雪を用いてその首を打ち取れ、って文があったぜ」

「流石に、雪玉とかじゃ無理だよね?」

「流石にな。あとは、皮膚がかなり固いらしい。雪もそこで阻まれる」


 トマリにお茶を渡しながら、アオイはため息を吐く。

 目を閉じて、少しの間動かなくなる。

 そして、諦めたように言った。


「毒、かな?」

「だろうな。魔神の装甲を破壊する伝承も調べてきたぜ」

「流石有能」


 手渡された紙を見ながら、アオイは考える。

 毒とか、全然作ってないけど大丈夫かな。

 仮にも最上級薬師で、薬師試験にいくつか毒の製作があったはずなのにこれである。

 トマリに渡された資料の内いくつかを分けながら、アオイは何かに気が付いた。


「トマリ、レヨンさんの所行った?」

「ああ、そういやよろしく言ってくれって言われたな」

「そっか、元気だった?」

「おう。髪型まで非対称になってたぜ」

「え、見たい」


 アオイが顔を上げた。その目はやけにキラキラしている。

 予定を組めばいい、と返すと、何やら予定を呟き始めた。そんなにか。


「とりあえず、これを作り上げないとなぁ……」

「そうだなー」

「雑だなぁ。よし、とりあえず、寝よう。ありがとね」

「おう。俺も風呂入って寝るかな」


 お互いにおやすみ、と言ってアオイは階段を上り、トマリは階段横の廊下に進んだ。風呂はこの先である。

 アオイはこのまま眠りにつき、トマリは風呂に入った後自室の窓から屋根に上った。

 意味はない。何となくだ。


 翌朝、コガネに起こされたアオイはまず客間に向かい、それを見送ってコガネはトマリに声をかけた。

 眠たげに振り返るトマリの顔面に氷を投げつける。


「なんだよ」

「夜中に屋根を歩くな。うるさい」

「あ?起きてたのか?」

「起こされたんだ」


 なるほど、それで不機嫌なのか。

 納得したトマリに、コガネはもう1度氷を投げつけた。

 魔法で作り出した氷のため、トマリに当たると消滅する。


 トマリが避けて氷を投げ返し、コガネがそのまま打ち返す。

 いつの間にかじゃれあいに発展していたやり取りはウラハの朝食の呼び声によって終止符が打たれた。



 アオイは客間に行き、ジーブに声をかけた。

 眠たげに振り返るジーブに氷は投げつけず質問を投げる。


「魔神を倒すのに、討伐役がいるんだけど……」

「俺がやればいいんだな?」

「悩んだりとかないの?」

「元々そのつもりで付いてきてるしな」


 魔神の討伐なんて、命を溝に捨てるようなものだ。

 少しくらい悩むかと思ったのだが、そんなことはなかった。

 相変わらず決断が早い。


 その決断の早さに、少しだけ師匠を思い出したりする。

 あの人行動は早いのに説明しないから唐突に動き始めてすごい振り回されるんだよな……

 久々に会いたい気がする。


 懐かしさに目を細めて、客間に朝食を持ってきたモエギと共に母屋へ戻る。

 なぜかコガネとトマリが魔法で髪を乾かしていたが、それは気にせず席に着いた。

 またじゃれていたのだろう。


 朝食に舌鼓を打ちつつ、考えるのは魔神の討伐だ。

 装甲は自分が何とかするとして……いや、なるかは分からないが。やるしかないが。

 必要なのは、剣か。


「うーん……」


 雪で作られた剣など、作れる人は1人しか思い当たらない。

 だが、頼っていいものか。多分断られはしないが、気安く頼るのは気が引ける。

 とりあえず材料を用意して、頼んでもいいかお伺いを立ててみよう。



 今日はイピリアに店を出す日であり、トマリとコガネに「雪の剣の材料も調達してきて」という雑な注文をして、アオイは部屋に戻った。

 ペンと紙を取り出し、さてなんと書き出そうか、と悩む。

 いきなり本題に入ってもいい気はするが、何となく別の書き出しが欲しい。


 悩みつつペンを動かし、現状と必要な剣の内容、材料は持参するから頼んでもいいか、と必要な内容を書き、サクラを呼ぶ。

 駆け寄ってきたサクラに手紙を渡し、窓から飛び立つのを見送る。

 これで、あとは自分の仕事だけだ。


「嫌だなー、毒。まあ魔神にとっての毒、だけどさ……なんか嫌だよねぇ……」


 ブツブツ言いながら階段を下り、作業部屋に向かう。

 途中通った店でシオンが溶けているのを見つけ、何となく面白くなって笑った。


「なんやあマスター。いきなり笑うことないやろ」

「ごめんごめん。なんか面白くって」

「ひどいなぁ」


 棒読みで言うのが余計面白く、アオイは笑いながら作業部屋に入った。

 作業部屋の中央に置かれた机に必要な材料を並べる。

 とりあえず普通の毒と同じやり方でやってみよう。

 愛用の手袋を着けつつ、アオイは自分に気合を入れた。


 作れるか、ではない。作れ。

 どうにかして期間内に仕上げろ。

 得意だろ、ギリギリで詰め込むの。


 別に期限がギリギリなわけではないが、毒に関しては本当に追い詰められないとやる気がしない。

 作れないわけではないのだ。ただ、作らないだけ。

 必要があれば、注文を受ければ、と逃げ回っている。


「はああ!やるぞー!ほらやるぞー!」


 ブツブツ言いながら手を動かし始める。

 アオイは気付いていないが、シオンが扉越しに笑っていた。

 耳がいいから、アオイが小声で呟く内容が聞こえるらしい。

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