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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
11章・毒を撒くもの
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7,まずは試薬を

 コガネが書き写した古い薬は全部で3つ。

 そのうちの1つをハルフに渡して、2つはアオイとコガネで作ることにした。

 渡したのはハルフたちが作っていた薬とは系統の違うものだったが、ハルフは納得したようですぐに作業を始めていた。


「えっと、ここ使っていいんだよね?」

「ああ。そう言われてたな」

「ピィ」

「あ、サクラには別の事をお願いしたいんだ」


 ハルフはここを馴染みの村だと言っていたが、その実よくここで過ごしていたようだ。

 ハルフたちがいる部屋とこの部屋、2つ作業部屋があり、アオイたちがいるこちらはハルフが普段使っている部屋らしい。

 彼らは普段弟子のサラが使っている部屋で作業をしているようだ。


「ナベの合計が5つってすごいね」

「そうだな」

「リコリスにも5個置いたらポーション作り早くなるかな?」

「2人しかいないから変わらないと思うぞ。……それに、やるならまた先代勇者が集まるぞ」

「やめとこう」

「それがいい」


 リコリスの建物は先代勇者が作ったもので、その作りは無駄に豪華だ。

 ただでさえアオイが最初思い描いていたものの数倍の大きさなのに、作業部屋を拡大するなんて言ったら建物ごと総とっかえしかねないのが先代勇者である。


 無駄話をしながら手を動かして作業を進め、途中戻ってきたサクラに時間を告げられて驚く。

 驚きはしたし寝た方がいい時間だが、一度始めてしまうと途中で止められない作業である。

 これだけ終わらせる、と告げれば、サクラはハルフたちが待っている、と言う。


「休むように言ってくれる?」

「はーい!」


 元気に返事をして去って行ったサクラを見送って、そっと息を吐く。

 寝不足の上で長距離を移動してきたのだ、疲れはある。

 正直寝たい。終わらないと寝れないから作業は続けるが。


 アオイの電池切れが近いことを察したのか、コガネがそっと毛布を差し出してきた。

 それを断ってナベの前に立ち、中の様子を確認しながら材料を加えていく。


「主、無理は禁物だぞ」

「まだ大丈夫だよ。それに、これの最後はコガネだけじゃ難しいでしょ?」

「それもそうだが……」


 話しながらアオイはナベの中に材料を追加し続ける。

 その動作に間違いはなく、コガネだけではこの薬を作りきれないのも事実だ。

 仕方ないのでアオイが立ったまま寝始めないかだけ注意を払いつつ、次の作業に必要なものを準備する。


 作業が終わったのは日付が変わってだいぶ経ってからだった。

 作り終えると同時にアオイが寝落ちたので、コガネは出来上がった薬を保管してからアオイを抱えて寝室に運び込んだ。


 先に部屋に行ったサクラはすでに眠っていて、コガネも横になりたかったがまだ後片付けが残っている。

 ため息を吐いて、もう部屋中に広がった闇に声をかける。

 トマリはそこに居たようで、呼んですぐに出てきた。


「何だ?」

「主を見ててくれ」

「おう」


 トマリを呼んでそれだけ言って、コガネは作業をしていた部屋に戻った。

 何かあったら動いてくれるだろうとは思っているが、それでも心配なものは心配なのだ。




 陽の光が顔面を直接殴ってきた。

 なんでいつもこう、朝日が直撃する位置に寝ているのだろうか。

 普通はいいのかもしれない。だが、朝弱い人間にやらないでほしい。


 うだうだと文句を考えながら体を起こすと、横にトマリが丸まっていた。

 珍しいその光景に思わず手を伸ばし、ぴょこぴょこと跳ねるその髪を撫でる。

 そんなことをしていると目を覚ましてしまったので、仕方なく手を引っ込めた。


「おはよう」

「おう……何してたんだ」

「撫でてた」

「そうかよ」


 呆れたように言って、トマリは影の中に沈んでいく。

 それを見送って、持ってきた服を取り出して素早く着替える。

 着替えを終えて部屋を出ると、ちょうどコガネがやってきたところだった。

 驚きの表情をしているコガネに胸を張って、アオイは得意げに言う。


「私だって起きれるのだよ!」

「主、大丈夫か……?体調が悪かったり……」

「しないよ!?そんなに意外か!?」

「いや、まあ、うん」

「そっか。うん。そうだよねぇ」


 10年一緒に居て数えるほどしか自力での起床をしていない気もするので、驚かれて当然かもしれない。

 でも、少しくらい褒めてほしいとも思う。

 サクラは先に起きて朝食の支度を手伝っていたらしい。


「おはようございます」

「おはようございます、キャラウェイ様」

「うーん……せめて、さんで」

「キャラウェイさん、ですか」

「はい」

「いや、それは…………いえ、はい、分かりました」


 ハルフ的には、最上位薬師を気軽に呼ぶなど出来ない事のようだが、その最上位薬師から無言の圧力をかけられてしまったら仕方ない。

 アオイはとにかく様とか殿とか、付けられるのが嫌いなのだ。


 嫌っていない人に付けられるのはなお嫌いである。

 ハルフは普通にいい人だと思っているので、気軽に呼んでほしい。

 ただアオイは最上位薬師なので、周りは気軽に呼んでくれない。


 アオイの微妙な葛藤を知っているのは昔からの知り合いくらいである。

 そんなに気にするならもっと表に出て親しまれればいい、と言われたりもしたが、それは嫌だと我が儘を言っているのでどうにもならない。


「……さて、と。朝ご飯の後、昨日作った薬を使ってもらいに行きましょう。その後で試薬を作ってみます」

「了解しました。……材料は、大丈夫でしょうか」

「大丈夫だと思います。手配したので」

「す、すごいですね……いつの間に」


 話しながら昨日作った薬をそれぞれ机に並べる。

 ハルフの方も言われて確認したが、問題ない出来である。

 これなら大丈夫、と言うとホッと胸を撫でおろしていた。


「おはようございま……ふあ……」

「おはよう、サラ。寝ぐせついてるぞ」

「あい……後で直します……」


 話している間に寝ぐせを付けたままのお弟子ちゃんが起きてきて、サクラが嬉々として朝食の配膳を始めた。

 食べ終わったらまた忙しくなる。つかの間の休息である。

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