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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
11章・毒を撒くもの
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6,現状把握

「あ、あの」


 声をかけてきたのは、見覚えがあるような気がする方の人。

 アオイが一旦考えるのをやめてそちらに目を向けると、その人は緊張の面持ちで声を出した。


「キャラウェイ様、ですか」

「はい。……すみません、どこかで……?」

「あ、申し遅れました。シルバー級薬師、ハルフ・フィアーと申します」

「ああ、なるほど」


 どこで見たのかと思ったら、上位薬師会で見かけたことがあるようだ。

 最初の村人は薬師を呼びに行っていたのか、とアオイが納得している横で、コガネは村を見渡している。


「こっちは弟子のサラです」

「は、初めまして」

「初めまして。……お2人は、この村の治療を?」

「はい。……残念ながら、力不足でしたが」


 その言葉を聞いて、アオイは頬に手を当てた。

 上位薬師会に参加できる級を持っている薬師が治せない病となると、本格的に普通ではない。

 早めに来て正解だった、自分を褒めつつコガネの服の裾を引く。


「魔法か?」

「魔力、かな」

「分かった」


 アオイの考えを読むことに長けたコガネは、その動作だけでアオイのやりたいことを把握してくれる。

 流れるようにコガネの魔力波が広がり、アオイはその波に身を任せてもう1つの探し物をしてみた。

 結果は分からなかったが仕方ない。アオイは、そんなに魔法が使えないのだ。


「どう?」

「微妙、だな。個人のそれとの判別が出来ない」

「そっか、了解」


 コガネの魔力波が消えると同時に、アオイは首を傾げていた薬師2人に向き直る。


「何をどこまで試したか、教えていただいてもいいですか?」

「は、はい!もちろんです」


 こちらへ、と言われて、薬師の後をついて行くと一軒の家にたどり着く。

 この家で治療を行っていたらしい。


「読みにくいかもしれませんが……」


 そう前置きされて渡されたのは紙の束。

 今まで行った研究の結果らしい。

 なぜその研究をしたかも記録されていて、かなり優秀なメモ書きである。


「なる、ほど……」

「あの、キャラウェイ様は、この村の治療を?」

「はい。その依頼を受けて来ました」


 アオイの言葉に、薬師、ハルフ・フィアーと名乗った方は胸を撫でおろした。

 この村の治療に限界を感じていたらしい。


「ハルフさんは、なぜこの村の治療を?」

「馴染みの村なんです。知り合いも多いので、助けたくて」

「なるほど」


 何とも健全な理由である。

 アオイの来訪理由に問題があるわけではないが、それでも薬師の始まりであろうその理由に若干感動してしまう。


「手伝っていただけますか?」

「私たちに出来る事なら、何なりと」


 アオイの申し出も快く引き受けてくれたので、こちらとしても安心だ。

 今、この村には4人薬師がいることになる。

 三人寄ればなんとやら。


 4人いるんだから何とかなるだろう。

 最上位薬師なのに、割と周りに思考を投げる形でそんなことを考えていたアオイは、コガネの視線を感じてコガネに向き直った。


「見に行くか?」

「うん」

「大丈夫か?」

「うん」


 患者の様子を見に行って、それから考えようと思っていたのだがその確認らしい。

 コガネはアオイが苦手なものを把握している。だから、これは最終確認なのだろう。

 それでもアオイが行くというなら、止めはしない。それがコガネである。


「すみません、患者さんに会いたいのですが」

「分かりました。こちらへ」


 案内されてついて行きながら、アオイは村の中を見渡した。

 ひどく疲れている。当然だろうが、全体的に暗く淀んでいる。


「コガネ」

「何だ?」

「おかしくは、無いんだよね?」

「……そうとも言い切れないな」

「そっか」


 話しながら村人たちを尋ねて回り、戻ってきたときにはアオイの顔色が良くない状態になっていた。

 コガネに支えられながら脳内を整理して、必要な情報を紙に書きだしていく。

 その作業をしている間に日が暮れて、泊まる場所を考えていなかったことを思い出した。


「ここを使ってください。部屋は余ってるんです」

「ありがとうございます」


 薬師たちが使っていた家の一室に案内され、何かあれば、と彼らが寝ている部屋を教えられる。

 必要だろうと思って薬作りの道具も持ってきていたのだが、彼らが使っているものを使っていいらしいのでお言葉に甘えよう。

 改めて設置するより、その方が何かと都合がいいのだ。


「えっと、まずは……」


 言いながらアオイは荷物の中から古の書・魔という薬学書を取り出し、コガネに頼んでその中から関係のありそうなものを紙に写してもらう。


「我々は何をすればいいですか?」

「とりあえず、ポーションを作りましょう。延命にはなるはずなので」

「分かりました。サラ」

「はーい、やってきまーす」

「あと、お茶を淹れましょう。そのままだと飲めない人もいますからね」

「了解です。茶葉に指定はありますか?」

「乾燥させたものがいいですね。水出しで」

「はい」


 流石、シルバー薬師は話が早い。

 これなら進みも早いだろう、とコガネに目を移すと、何か言いたげにアオイをちらちら見ながらすごい速度で内容を書き写していた。


「……コガネ、それ終わったらずっと私の手伝いだよ?」

「もちろん」


 これで機嫌がよくなる理由が、10年一緒に居ても分からない。

上位薬師会に出れる階級を纏めて上位薬師、と呼びます

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