4,出発
レヨンとアオイのおしゃべりは夜遅くまで続き、アオイは翌日の出発時点でとても眠そうだった。
睡眠時間は同じはずなのに、レヨンは平然としている。
トマリが一体何の差なのか考えているうちに、アオイの支度は終わったようである。
眠たい目を擦りながら帰り支度をして、アオイはレヨンに向き直る。
頭を撫でられてまた今度、と言われ、返事をして軽く話しているうちにトマリが馬を借りてきた。
「それじゃ、報告待ってるね」
「はい。お邪魔しました」
笑顔で手を振って、レヨンの家を出る。
馬に跨ったトマリに引き上げてもらい、体勢を整えて出発である。
依頼を受けた村に向かう前に、リコリスに帰って色々と準備をする必要がある。
コガネは当然連れて行くので、薬も大量に作ってから行かなければ。
今も作ってもらっているが、もしかしたら足りないかもしれない。
そうなっては大変なので、面倒だが大量に作ってから行こう。
いろいろと考えている間に馬は進む。
今回は中々いい馬を借りたようで、その進みは行きより早かった。
まだ空が青いうちに森の入口に到着し、リコリスに入る。
「主、おかえり」
「ただいまーコガネ」
外で出迎えてくれたコガネに抱き着き、馬から荷物を下ろす。馬にはそのまま居てもらい、第2大陸まで運んでもらう予定だ。
荷物を抱えてリコリスに入ると、カウンターにセルリアとシオンが居ていつものように本を読んでいた。
「アオイ姉さま!おかえり!」
「ただいまセルちゃん」
「おかえりー。大丈夫そうやね」
「ただいま。大丈夫だよ」
2人とも軽く話して、荷物を置きに行くついでにコガネにレヨンからの依頼を話す。
コガネも流石に内容は予想外だったらしく、目を丸くしていた。
「珍しいね」
「ねー」
言いながら荷物を片付けて、遠出に持っていく荷物を纏める。
ポーションの製作状況を聞いて、追加で作る分を決めて、連れて行くものを決めて……意外とやることは多い。
「えーっと、まずはどこからかな?」
「ハイポーションはもう大丈夫だよね」
「そうだねぇ。ポーションはもうちょっと作って、あとは毒消しかな?」
「うん。あと、丸薬系がもう少しかもしれない」
「分かった、確認しとく」
話しながら1階に戻ると、トマリも入って来ていて夕食の準備が始まっていた。
声をかけて夕食が出来るまで薬作りの準備をして、呼ばれたら中断してリビングに向かう。
「アオイ姉さま、またお出かけ?」
「うん。そんなに長くはならないと思うけど」
「誰連れてくんだ?」
「とりあえずコガネと……サクラにもついて来てもらおうかな」
「分かった!」
夕食を食べながらそんな話をして、食べ終わったら作業部屋に向かう。
レヨンの依頼は急ぎのものだ。出店リコリスを疎かには出来ないが、第2大陸に行くのは早い方がいい。
だから2人で急いで作業を進める。
「主、こっち終わったよ」
「ありがとー。これお願いしてもいい?」
「うん」
夜遅くまで作業を続けて、どうにか必要であろう数を作り終える。
寝るのが遅くなってしまったが、明日には第2大陸に行かなければならない。
起きるのは早いだろうし、出来るだけ早く寝なければ。
そもそもアオイは寝付くのは早い。
朝はコガネにたたき起こされるので心配はないだろう。
「おやすみ、主」
「おやすみコガネ」
言い合って、それぞれ部屋に入る。
コガネは神獣なので、1、2日寝なくても平気らしい。なので、今日は寝るのかねないのか。
どちらにしろアオイは眠らないと動けないので、何かすることがあるならコガネに任せて寝てしまうつもりである。
時間を確認すると日付が変わった頃である。
起こされる時間を考えて、アオイはため息を吐いた。
明らかに、睡眠時間が足りない。一度起きれば大丈夫だが、近々長寝したい。
考えながらベッドに潜り、そこからは何を考える暇もなく夢の中に入っていく。
アオイは基本的に夢を見ないので、寝てしまえば朝まで一瞬だ。
さっき寝た気がするのに、もうコガネに起こされてしまった。
「もう朝ですか……」
「もう朝ですよ」
「朝ですかぁ……」
剥がされた布団を求めて手を伸ばしながらそんな会話をする。
そうこうしている間に手を引かれて身体を起こされ、目を擦っている手を止められて着替えを渡される。
流れるように世話をされて、アオイはポリポリと頬を掻いた。
「何というか、私世話され過ぎだね」
「今更?」
「うっふ……ま、まあ、もう10年もこんな感じだもんね」
「そうだよ。私がしたいからしてるの」
「わーあ。いい嫁」
言っている間にコガネがアオイの分の荷物を持って部屋から出ていき、そうなると絶対に二度寝は出来ないのでいそいそと着替えて部屋を出る。
1階に降りるともう既にウラハと小鳥組が待機していた。
「みんな早いね」
「おはようございます」
「おはよう」
モエギに手を引かれてついて行くと、流れるように椅子に座らせられる。
そして流れるようにウラハが後ろに現れた。
「マスター、髪を結ってもいいかしら?」
「いいよー」
いつも通り聞かれて、いつも通り答えて、髪を結ばれている間に目を覚ます。
「はい、出来たわよ」
「ありがとー」
「気を付けてね」
「うん」
手を振ってリコリスを出ると、青年姿に変化したコガネが待っていた。
引き上げられて姿勢を整えながらアオイはそっと息を吐いた。