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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
11章・毒を撒くもの
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2,お話の内容

 まだ日も昇らないような薄暗い時間。

 早起きなウラハやモエギも動き出さない時間に、アオイは旅装束を着て外に居た。

 余裕をもってキマイラに入るために、こんなに早くから移動を開始することになったのだ。


「ほら、行くぞ」

「ん……」

「主にケガさせたら刺すからな」

「おー」


 見送りに来ていたコガネに鋭い目を向けられて、トマリはとりあえず頷いた。

 落とすつもりも雑に扱うつもりもないが、念のため気を付けよう。流石に刺されるのは嫌だ。

 コガネは、刺すと言ったら割と本気で刺しに来るので注意が必要である。


 眠たげに目を擦るアオイを馬の上に引き上げて、トマリはコガネに目線を戻した。

 自分で言いだしたくせに留守番が嫌らしいコガネは、どこか不機嫌そうにトマリを見返してくる。


「行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 毛嫌いしているのかと思えば、素直に返事をくれるのだ。

 そういうところが構いたくなる原因なのだろう。

 そんなことを考えながら馬を動かし始め、森に入ってすぐにユラユラしていたアオイの体幹が安定し始める。


 相変わらず、目覚めは悪くない。

 一度覚醒すればしばらくは大丈夫なので、早く覚醒してほしい限りだ。

 そんなことを考えながら森を抜け、徐々に速度を上げていく。


 走っているうちにアオイも完全に覚醒したようだ。

 身体を預けてきて、風の所為か目を閉じている。


「今どの辺?」

「もうすぐ関所だ。背え伸ばせ」

「んー」


 アオイにはいつものようにフードを被せてある。

 関所を通る時に軽く持ち上げて、通過したらもう一度被る。

 進み具合は順調だ。途中モエギから渡されている昼食を食べるために馬を止めたが、まだ日は高い。


「余裕はあるかな」

「おう。そのために早く出てきたんだしな」


 レヨンには事前に連絡を入れている。

 何時についても大丈夫なら早めに着きたい。夜は何かと危ないのだ。

 キマイラの閉門はそれなりに遅い時間だが、それでも早く入国したい。


「よし、行くぞ」

「はーい」


 アオイとトマリが2人で移動、というのは中々珍しい。

 アオイは普段コガネを連れ歩くし、そうでなくとも小鳥を1羽連れている。

 そしてトマリは基本影の中に入っている。なので、こうして触れる位置に居るのはあまりない状態だ。


「旅はいいねぇ」

「のんきだな。嫌な予感はどうした」

「そうだけど、それは一旦置いておくんだよ」


 考えてみれば、そこそこ長い時間トマリと2人になること自体初めてかもしれない。

 出会って結構経つのだが、案外初めてはあるのもだ。


「トマリは、闇の中の方が居心地いいんだもんね」

「おう。元が影だからな。陰の中の方が能力も使いやすいし、何かと楽なんだよ」

「それでも、リコリスに居てくれるんだもんねぇ」

「ま、白キツネやらなんやら、習性的に寄っていくもんも多いからな」

「それだけ?」

「モエギの飯はうめえ」

「だよねぇ」


 馬で大地を駆けながら、のんびりと会話をする。

 こんなにのんびり話すのも、案外初めてかもしれない。

 シオンやウラハとも、個々に話をしてみようか。面白いことが聞けるかもしれない。


 そんなことを考えて、ぼんやりと空を見上げる。

 今日は中々いい天気である。

 洗濯物がよく乾きそうだ。となると、もしかしたらリコリスでは大シーツ洗い会が開催されているかもしれない。


「おら、着くぞ」

「はやーい」

「ボーっとしてるからだろ」


 夕方、というにも早い時間にキマイラに到着し、アオイは広場で馬から降りて伸びをした。

 ほとんど何も考えずに馬に揺られていただけだが、何となく疲れた。

 トマリが馬を返しに行っている間広場をうろつき、トマリが帰ってきたところでレヨンの家に向かう。


 レヨンの家は低い丘の上にある。

 周りには建物がないので、見晴らしは大分いい。

 玄関の戸をノックすると、すぐに扉が開いた。


「いらっしゃい。待ってたよう」

「お久しぶりです!お邪魔しまーす」


 レヨンは相変わらず全体的に非対称で、妙にかっこよかった。

 アオイとトマリが家の中に入るのと同時にレヨンが飼っている小鳥が1羽舞い込んできた。

 レヨンはそれを指に止まらせて、机で待っているように言いつけてからアオイたちに向き直る。


「部屋は?いつもの所でいいかな?」

「はい」


 遊びに来たときのいつものやり取りをして、いつも借りる部屋に荷物を置いてリビングに戻る。

 レヨンはリビングで待たせていた小鳥の話を聞いていた。


「……あ、そういえば、今日はコガネ君一緒じゃないんだ?」

「実はスコルにも店を出すことになって、薬の消費が凄いんですよね」

「ほー。スコルの新王は本当に色々やってるねぇ」


 小鳥の報告は終わったらしく、レヨンがアオイに声をかけるのと同時に飛び去って行った。

 進められてイスに座りながら、アオイはレヨンを窺う。

 その様子はいつも通りな様で、どこかいつもより暗い気がした。


「それで、どうしたんですか?レヨンさんに呼ばれると大ごとな気がするんですが」

「そんなに大ごと……でもあるかも」

「わー。怖い」


 冗談めかして言ってはいるが、本当に怖い。

 レヨンが言う大ごとは、個人の枠に収まらない事である。時には国も巻き込むので、なるべく小さくあることを願わなくては。


「アオイちゃんさ、世界に毒を撒いてるやつがいるって知ってる?」

「……ギューヴィルの毒、ですか?」

「それも、かな」


 なるほど、これは大ごとだ。

 ついでに言うと、関わらなくてはいけないようだ。

 嫌な予感は当たるものである。アオイはそっと息を吐いて、姿勢を正した。

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