0,伝言を
第11章です。6月中に始められて、私はとても嬉しいです。
男は、壁に手を付きながら歩いていた。
猫のように軽やかだった足取りは、今は見る影もない。
身体が重くて仕方ないというように足を引きずり、呼吸は浅く荒い。
顔からは血の気が引き、指先も薄紫に変色している。
男は笑った。
呼吸をするだけで痛む身体を。かすみ始めた目を。
ここで終わる、自分の命を。
笑い、そのまま壁に寄りかかった。
もう、立っていることも出来ない。
徐々に見えなくなっていく男の視界に、1羽の小鳥が映りこむ。
丸い身体をした、愛らしい小鳥。
それの飼い主とは友人だった。
「なあ……伝えて、くれ……」
発した声は掠れていて、聞こえにくいものだったが小鳥は小さく返事をした。
伸ばした手は何も掴めず、力なく地面に落ちる。
先ほどまで痛みを伴っていた呼吸は、もう必要なくなっていた。
男は笑った。
自分の運の無さを。
友人の運の強さを。
あるいは、自分も最後だけは運が良かったのかもしれない。
最後の瞬間を看取ってくれるものが居たのだから。
それは人ではなかったが、それでも1人ではなかったのだから。
息を引き取った男が、最後の瞬間だけ安らかな表情をしていたのを見て小鳥は一声鳴いた。
そして、何か悩むようにその場で跳ねる。
しばらくそうしていたが、何かを見つけて飛んでいき、すぐに戻ってきた。
咥えた1輪の花を男の手元に置いて、小鳥は今度こそ飛び立った。
それは自分の役目でもあったし、男から頼まれたことでもあった。
彼の最後を、その理由を、自分の主に伝えなければ。
ブクマ、評価、誤字報告等本当にありがとうございます!