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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
2章・血をすすぐ雪の剣
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2,闇を行く

 トマリはリコリスを出て、まっすぐ第3大陸を目指していた。

 この世界の大陸は陸続きで、繋がっている部分は細くなっている。

 そこに関所があり、国に指名手配されている者が通らないか目を光らせている。……が、海から行けば関係ないし、トマリにも関係なかった。


 トマリは姿を本来の、暗く闇に溶ける毛色をした狼に戻し、闇に入った。

 トマリの種類は影狼という。

 闇属性には3つ種類がある。


 1つ目は、そのまま闇を操る能力。掌から炎の玉を出す感覚で闇の玉を出す。

 2つ目は、搦め手の能力。相手の足元の闇を踏めなくしてそこに落とす、などのえげつないことが出来る。

 3つ目は、闇と一体化することが出来る能力。闇の中に入る、闇に溶けるということが出来る。


 トマリの……影狼の属性は闇三種、3つ目である。

 種族的にも人とは比べ物にならないほど闇との親和性が高く、1度闇に入れば余程の事がない限り分からない。

 トマリは闇に溶け、そのまま関所をスルーした。誰も気がづかなかった。


 コガネほどではないが魔法も操れる。

 そのまま勢いを乗せて、第3大陸にあるキマイラという国に向かった。

 国に入る時も闇に溶け、認識されずに入り込む。

 何かやったわけでも、顔を見えられたら不味いわけでもないが、面倒だからすり抜けた。


 やけに段差の多い、階段と坂だらけの国内を進み、とある家の前で人の姿をとる。

 その家の扉をノックして少し待つと、中から女性が出てきた。

 左右が非対称な服を着て、前にあった時より髪が短くなっている。


「おお、君か。1人?」

「ああ。聞きたいことがある」

「入って」


 この女性は、レヨン・ベールという。

 キマイラで情報屋をしている、アオイの友人だ。


「髪切ったのか?」

「使う用事があってね。おかげで髪までアシメだよ」


 前にあった時はそこそこ長さがあった髪だが、今は右だけ長く左が短くなっている。

 右も、前より短いだろうか。

 髪はその人の魔力を含んでいて、魔道具なんかにも加工しやすい材料だ。

 おそらくそれで使ったのだろう。


「で、何が聞きたいんだい?」

「村を守る代わりに50年に1度若い女の生贄を求める魔神を知ってるか?」

「またえらく具体的だね、アオイちゃんは何に首を突っ込んだの?」

「生贄にされる予定の娘の姉が来た」

「あー。なーるほど」


 レヨンは納得したのか、頷きながら後ろの本棚を漁る。

 彼女が集めた情報が分類されて書き込まれたノートが何冊も置いてあるのだ。


「そんなに詳しいことは書いてないな……確認。第6大陸?」

「そうだ」

「おっけー、待ってね」


 手元の紙に何か書き始めたレヨンを横目に、トマリは家の中を見渡す。

 ここは、レヨンを守ろうとする意志が強く働いている。

 正直得意な場所ではなかったが、自分の役割的に訪れることは多かった。


「よし。これで大丈夫かな?」


 渡された紙を軽く読んで、トマリは頷いた。

 これだけ分かれば、詳細は自分で調べられるだろう。


「大丈夫だ。お代は?」

「ふっふっふ……今回こそは逃がさん。女の子バージョン見せて」


 トマリは深く深くため息を吐いた。

 コガネはよく姿を変えているが、それは特殊なことだった。

 どちらの姿をとれたとしても、基本的に自分に合った方を取り続けるのが普通である。


 トマリも、どちらの姿もとれる。

 だが、女の姿なんてここ数百年とっていないし、進んでやりたいことではない。

 レヨンに知られたのが不味かった。

 お代として要求されれば、とるしかない。


 ポンッと軽い音がして、トマリの周りが煙で埋まる。

 煙が晴れると、そこには背が高めの目つきの悪い女性がいた。


「満足か?誰もがコガネみたいになる訳じゃないぞ」

「大満足。誰もが可愛いものばかり求めてるわけじゃないんだよ」


 いい笑顔で親指を立てたレヨンに頭を抱えつつ姿を戻し、扉を開ける。


「じゃあな」

「うん。アオイちゃんによろしく言っといて」

「おう」


 家をでて、闇に溶ける。紙に書かれた内容を確認し、キマイラを出た。

 今度は門すら通らず、国を囲む壁を越えて進む。

 次に向かうのは、第6大陸だ。




 トマリが不在でも、フォーンとイピリアに店を出す日程は変わらない。

 いつものように荷物を積み、いつものようにつり銭の確認をし、いつものように買ってくる物のリストを受け取り、いつもとは違いコガネが店を引いてリコリスを出た。

 後ろの、普段コガネが座っている場所にはウラハが座っている。


 ウラハは普段リコリスに居てモエギと一緒に家事をしている。

 優しい微笑みを絶やさない、クリーム色の髪をした女性だ。

 手元のベルを眺めながら、ウラハはコガネに話しかける。


「コガネは良かったの?」

「何がだ」

「またマスターが面倒ごとに首を突っ込んでること」

「主がいいなら、それでいい」


 当然のように返され、ウラハは苦笑いした。

 この子が、いつか、壊れてしまうのではないか。

 ウラハはコガネが心配だった。あまりに幼いその行動が、あまりに幼いアオイへの信頼感が。


 マスターは、いつまでも生きてるわけじゃないのよ。


 そんなことを言いそうになる。

 だが、意地悪をしたいわけではないので口をつぐんだ。

 いつか、コガネが壊れてしまったら。そうしたら、思いっきり抱きしめよう。

 そう思っていることを知っているのは、自分だけ。


 シオンはひょっとしたら悟っているかもしれない。

 自分と対を成す種族の彼は、時々妙に鋭い。

 自分があるかも分からない母性本能をコガネに向けていることがバレていたら、少しだけ恥ずかしい。


「そろそろ入るぞ」

「はーい、準備は大丈夫よ」


 門を潜り、その賑やかさに頬が緩む。

 人の多いところは嫌いではなかった。

 アオイと出会う前は、1人で国の中で暮らしていたこともある。


 人の輝きはどこか星に似ている。

 自分の象徴は月だが、いや、だからこそ星のようなその輝きを好ましく思っていた。

 人の一生など、自分の生きた時間から見れば本当に短いもので、その短い時間に色々なことを詰め込んだ人の姿はとても眩しかった。


「あれ?」


 つぶやきが聞こえて、手元の鈴を鳴らした。

 店が止まる。近づいてきたのは1人の少年だった。

 店が止まって、ウラハが自分を見て微笑んでいるのを確認して近づいてくる。


「店番の人、変わったんですか?」

「ああ、今日は車引きが不在なの。だから私が店番」


 少年は納得の声を上げて、買い物をして去って行く。

 常連なのだろうか、店の前を通る時にコガネに声をかけて行った。

 店が再び動き始める。


 建物の方の店番は、今日は昼寝でもしているかもしれない。

 よく晴れた空を見てそんなことを思った。

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