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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
10章・国との繋がり
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7,風を纏って

 アオイはその日も作業部屋に居た。

 まだ朝と言っていい時間。朝食を食べてすぐに作業部屋に籠って薬を作っている。

 思っていたよりも忙しくなりそうだ、とぼやきながら作業をするアオイの横ではコガネが小ビンを作っていて、ぼやくアオイに適当な相槌を打っていた。


「流石に作る量増え過ぎじゃない?」

「1回分増えるんだからそのくらいだよ。こっち終わったけど手伝う?」

「おねがーい」


 ナベを混ぜていた木べらを渡して、アオイは別の作業を始める。

 1回1回が時間のかかる作業だ。纏めて進めた方がいい。

 1人でやっていると手が離せなくて1つずつしか進まないが、コガネが手伝ってくれると別の事に手が回るので楽だ。


 朝から作っていてもすべての作業は終わらず、お昼ご飯を食べた後もアオイは作業部屋に居た。

 コガネは別にやることがあるので午後は1人だ。

 作業する手は止めずに窓の外に目を向けると、セルリアとウラハ、それとコガネが木陰に居る。


 よくよく見るとシオンもいるようだ。

 セルリアは両手で大きな杖を持っていて、他はそれを見守っている。

 時々何か言っているようだが、基本は手出ししない。


 アオイは微笑ましそうにそれを見て、自分の作業に戻った。

 出来る事なら、早く終わらせてあそこに混ざりたい。




 セルリアは自分の杖を抱えて、教えられた通りに呪文を唱えていた。

 セルリアは記憶力がいい。

 呪文はしっかり覚えたし、覚えた通りに唱えた。

 最後まで言い切った所で、セルリアの周りに風が起こり始める。


 最初は小さかった風は段々と大きくなり、セルリアは慌ててスカートを抑えた。

 風が収まってからウラハを見ると、ウラハは指で丸を作っている。


「やったー!」

「すごいわセルちゃん。こんなに早く出来るようになるなんて」


 やっていたのは、初級風魔法の応用だ。

 初級の魔法はほとんど使えるようになったので、セルリアがご所望の空を飛ぶ魔法を教え始めたところである。


 空を飛ぶにも、方法はいくつかある。

 今やっていた風を纏って空に上がる方法、魔法で一時的に空気を固めてその上を歩く方法、似たもので、木の葉を足場に空を行く方法。難しいが、翼を作って上がる魔法もある。


 どれが出来るかは才能次第だ。

 セルリアは風を纏う方法があっているだろう、とこれにしたが、そのうち別のものを試してもいいかもしれない。


「それじゃ、次はこれを浮かせるよ」

「はーい」


 先ほどは風を纏ったが、今度は用意した小さな木箱を風で浮かせる。

 演唱は同じ。対象を変えるだけだ。

 だけ、といっても、そこそこ難しい作業である。


 それでもセルリアなら出来るだろう、と保護者達は思っていたし、セルリアは期待通り木箱を浮かせて見せた。

 浮かせたものを地面に描かれた円の中に収めるまで魔法を発動させ続けるのだが、これが難しい。


「あっ」


 途中で木箱が落ちてしまい、セルリアは小さく声を上げた。

 落ちた木箱を拾って最初の場所に置いて、同じように演唱を始める。

 こうなるとセルリアは疲れて休憩に入るまで続けるので、保護者は見ているだけである。


「進捗どう?」

「順調」


 作業を終えたアオイが混ざりこんでも気付かない集中力は中々だ。

 アオイは風で木箱を動かすセルリアを見て、素直に感心している。


「主、こういう魔法苦手だもんね」

「うん。浮かなかったもんね」


 魔法の才能がないわけではないのに、アオイには使えない魔法が多い。

 結界やら保護やら守護やらはやたら得意なので、そういう性格なのだろう。


「コガネはあれ出来るんだよね」

「出来るけど……やるなら風は使わないかな」

「わー。強い」


 忘れそうになるけど魔法特化種族だったね、と言われてコガネは微妙な顔をした。

 そこは忘れないでほしい。

 何が悪いと言われたら物理で殴る自分が悪いが忘れないでほしい。


 喋りながらセルリアを見ていたが、どうしても惜しいところで木箱が落下する。

 それでもめげずに何度も繰り返すので、この子は強い子である。


 何度もやっているうちに段々と運べる距離が増えてきたのだが、その後精度が一気に落ちた。

 そのタイミングで声をかけて休憩にして、ウラハが淹れていたお茶を揃って啜る。


「セルちゃんはすごいねぇ」

「でも、まだ出来ないよ」

「私はその魔法発動しないよ」

「そうなの?」

「うん」


 アオイは自分の指にリングがはまっていることを確認して、セルリアが唱えていたのと同じ呪文を唱える。

 しっかり魔力を練って、しっかり演唱したのだが、風はほとんど起きず魔力が霧散する。


「主、本当に苦手だね」

「どうにもねぇ……」


 指をクルクルと回しながら呟くアオイを見て、セルリアは自分の手を見つめる。

 おそらく、自分は全然できていないものだと思っていたのだろう。

 どちらかというとビックリするくらい出来ている方なのだが、なにせ周りが凄すぎる。


 神獣に囲まれてたらそうなるよね……とアオイは苦笑いして、セルリアの頭を撫でた。

 もう一度すごいねぇと呟いて、茶を啜る。

 アオイとしては、セルリアはもうちょっと自信を持っていいと思うのだ。


 まあ、原因は周りが神獣だらけな現状なのだが。

 これはどうにもならないな、と思いながらアオイはセルリアの頭を撫でた。

10章はこれでおしまいです。

今回はそんなに間開かなかったので(当社比)次も早めに上げたいですね!

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