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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
10章・国との繋がり
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5,国との繋がり

 王に向き直って、アオイは柔和な笑みを浮かべる。

 王はどうしたのかと目で聞いてきて、アオイは笑みを深くした。

 アオイのこの笑みに、何かを勘違いする者は多い。

 王からはそれを感じられず、それだけでアオイにとっては心地のいい人間だった。


「リコリスを出すのはいいのですが、そうなるとスコルの薬師たちの稼ぎが減ってしまうのでは?」

「意地悪を言わないでください。スコルに薬師が少ないのは、キャラウェイさんも知っているでしょう?」


 困ったような笑みと共に言われて、アオイも苦笑いを浮かべる。

 スコルに薬師が少ないのは、薬師ならほとんどの者が知っていることだった。

 原因は、先王にある。


「増やしたい、とは思っているのですが、そう簡単でもなくて……」

「先王様の時代は、長かったですからね」

「はい。遺恨の一つですね」

「サラッと言いますねぇ」

「事実ですから。あの人は、多くの遺恨を残していった」


 実の父であるはずなのだが、新王の先王に対する評価はどこか冷めていた。

 身内という色眼鏡がかかることはなく、ただ事実だけを見ている。

 まあ、王族だもんね。一般家庭とは違うよね。と、勝手に納得して茶を啜る。


「貴方は、精霊の加護を信じていないのですか?」

「信じては、いると思います。ただ、それに頼ろうとは思わないだけです」


 スコルの先王は、精霊の加護を過信した。

 この国には精霊の加護がある。だから、そんなものに頼らなくていい。

 そう言って多くのものを切り捨てた。そのうちの一つが薬師だ。


 切り捨てられた薬師たちは、他の国に移って行った。

 資格さえ持っていれば、薬師は基本受け入れられる。わざわざ残る理由は少なかった。

 その中でも残った者たちは居たが、その数は少ない。


 薬師が少ないということは、信頼のできる薬屋が少ないということだ。

 薬屋が少なければ、その分薬の量も減る。

 最終的には国内で全て入手出来るのが理想なのだろうが、今はとにかく数が足りない。リコリスを呼んだのは、多分そういう事だ。


「この国は、確かに精霊の加護を受けていますよ」

「分かるのですか?」

「交流があるので」


 そんな話をしているうちに、コガネは日程を決め終えたらしい。

 途中からモエギも手伝っていたが、やはり時間はかかった。

 決まったものを見せてもらい、元々何か言う気はないのでそのまま返す。


「コガネも、確認しておいて」

「分かった」


 出店の出店許可証を見せて内容を確認してもらい、問題が無いようなのでそこにサインをして印の飾りを受け取る。

 なくしたらまずいのでそれもコガネに預け、王にも日程の紙を渡して席を立った。


「その飾りがあれば、王城に立ち入れます。何かありましたら」

「ありがとうございます。それでは」


 王は、今後の交流も望んでいるようだ。

 アオイとしてもこの王にはそんなに悪い印象を持っていないので、何かあれば頼ろうと思うし、頼られたらそれなりの対応をするつもりである。


 部屋から出る前にフードを被り、来たときと同じように案内されて門に向かう。

 ついてきた王に見送られて王城から出て、アオイはフッと息を吐いた。


 最上位薬師といえど、王族と関わる時は緊張するのだ。

 カーネリアは友人なので別として、フォーンの王も王になる前から関わりがあるから別とするが。


「よーし。思ったより早く終わったし、市場見ていこう」

「ああ。……何か欲しいものでもあるのか?」

「うーん……しいて言うなら、小物入れ?」

「それは精霊関係なさそうだな」

「あ、あとインクが欲しい」

「それも関係なさそうだ」


 ダラダラ話しながら市場に向かい、そこで目的の物を探す。

 精霊の加護は、そうかかるものではない。

 あったらラッキー、くらいの感覚だし、かかっているからと言ってそれを買うかといわれたら微妙な所だ。


 なので、加護は関係なくものを探す。

 この国の工芸品は、精霊をモチーフにしたものが多い。

 若い女性に人気らしく、例に漏れずアオイもその工芸品が好きだった。


「精霊の加護なら、もう貰ってるしね」

「そうだな」


 アオイが独立前から着けているネックレスは、精霊花という花の花びらを加工したものだ。

 それには精霊の加護が付いていて、アオイは長くそのネックレスを着けているので加護は強いものになっている。

 今更別のものを探す必要はあまりない。


「主、小箱ならあったぞ」

「おお、見ていこう」


 丁寧に作られた小箱を眺めながら、アオイはふと考えた。

 セルリアはよく本を読んでいるし、リコリスに来た当初から字を書く練習もしていたが、自分用のペンなんかは持っていないのではないか?


「……コガネ、セルちゃん用のペンとノートを探そう」

「分かった」


 急に思いついて言ったのだが、コガネは驚きもせずに返事をした。

 それを聞いていたモエギがノートを探しに飛び立っていき、アオイは自分用のインクと共にセルリア用のペンを探す。

 日常的に使うなら、中にインクが充填出来るものがいい。


 セルリアはどんなものが好みだったか。

 薄い紫を気に入っているのは知っているが、インク色はどうしようか。

 考えているうちに楽しくなってきて、アオイは予定より長く市場を歩き回った。

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