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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
10章・国との繋がり
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4,対話

 昼食のサンドイッチを食べ終わり、アオイは露店を横目で眺めながら海辺へ向かっていた。

 精霊女王がよく来ていたというこの海辺は、観光地にはなっておらず人はほとんどいない。

 アオイがフードを取っても問題なさそうなので、フードを取って海を見ていると、すぐに声がかけられた。


 こんにちは!花園。貴女がここに来るのは久しぶりね!


「こんにちは。お元気そうで」


 ええ、皆元気よ!もちろんランもね


「そうですか、それは何より」


 寄ってきた精霊はアオイの周りをクルクルと回りながら、楽しそうに話し始める。

 しばらく話していると他の精霊も寄ってきて、だんだん賑やかになっていく。

 コガネが懐中時計を取り出して時間を確認している間にも精霊たちは増えていき、今この国に来ていた精霊は皆、この海辺に集まっていた。


「主、そろそろ」

「ああ、そっか。じゃあ、私はこれで」


 ええ、もう行っちゃうの?

 まだ日も高いよ、まだお話しようよ

 これ、花園にも用事があるのじゃろう。我が儘を言ってはならんぞ


「また来ますね」


 絶対だよ?

 また、今度はもっとお話ししましょうね!

 なんなら、君が根を下ろしたという深緑の森に遊びに行くよ


 手を振って精霊たちと別れ、アオイはフードを被った。

 そのまま市場を通過して、高台にある王城に向かう。

 王城の門番は近付いてきたアオイたちを見て、一瞬何かを迷ったように手を彷徨わせてから別の者に声をかけた。


 何をしているのだろうか、と思いながらその間にコガネが渡されていた紋を見せ、待たされるかと思ったがすぐに城内に通された。

 入ってすぐに人が寄ってきて、部屋に案内された。


 そう広くもない部屋で、中央に机とイスが4脚置かれていた。

 促されてそこに座り、コガネも横に腰かけた。

 茶と茶菓子が出され、少しして扉が開く。


 入ってきたのは、若い男。

 服装と雰囲気から王だろう、と思いつつ、アオイは座ったままその男が動くのを待っていた。

 給仕の者は男の分の茶を注いで部屋を出ていき、男は護衛を付けていなかったので部屋には3人……正確には、影の中にトマリとアオイの肩にモエギがいるから5人なのだが、まあ、人型は3人だけになった。


 アオイは、今回正確な日時を決めずにここに来た。

 事前に来訪を告げず、唐突に。

 普段、アオイは事前連絡を欠かさない。のだが、今回は、新王が何を考えているのか分からなかったので、どこまで寛容な王なのか試したかった。


 意地が悪いかもしれないが、先王とは少し色々あったので、少しくらいは許してほしい。

 そんなことを考えている間に、王はアオイの正面に来た。

 イスには座らず、スッと頭を下げる。


「ありがとうございます。急な申し出にも関わらず、来ていただいて」


 それを見て、アオイは少しばかり後悔した。

 ああ、なんだ、なんか、すごく、いい人っぽいぞ。

 どうしようかと考えているせいで語彙力が溶けきっているが、それに気付く者はいない。


「こちらこそ。何も言わずに来て、申し訳ありません」

「いえ。1週間以内に、とは聞いていましたので」


 コガネが目を向けてきた。

 これの確認は、何の確認か分かる。

 アオイは軽く頷いて、ゆっくりと立ち上がった。


 そして、外套を脱いでコガネに渡す。

 コガネは分かっていたようで、外套を受け取って軽く畳んでいる。

 外套を取ったアオイを見て、新王は目を見開いて固まっていたが、アオイは気にせず頭を下げた。


「改めまして、リコリス店主、アオイ・キャラウェイと申します」

「キャラウェイ……最上位、薬師殿ですか」

「はい」


 新王は驚いているようで、何かを考えてから慌てて着席を促してきた。

 それに従ってイスに座り直し、正面に座った王を見る。


「それで、お話とは?」

「……リコリスに、スコルにも来ていただきたいのです」


 アオイを正面から見つめて、王は言った。

 言葉の真意も何も、そのままの意味なのだろう。


「出店リコリスを、スコルにも出張させる、という事ですか?」

「はい。そのための許可証は、もう作ってあります」


 差し出された書類には、もうすでに王のサインがされている。

 後はアオイのサインだけで、この国にも出店リコリスを出せるようになるようだ。

 同時に差し出されていた出店許可の飾りを見ながら、アオイは呟いた。


「……リコリスを出すこと自体は、問題ありません。ただ……」


 言いながらコガネを見ると、コガネは少し難しい顔をして考え込んでいた。


「日程の調整をしないといけないな。主……」

「任せる」

「……はあ」


 だと思った、とため息を吐いて、コガネは紙を取り出した。

 今まで行っていた2国との兼ね合いもある。どうしたものか……と、コガネが悩んでいる間にそれを丸投げしたアオイは手元を確認する。


 出されたお茶に口を付けながら、許可証の内容を読んでおく。

 ないとは思うが、不当な契約を結ばないためだ。

 許可証の内容はアオイにとって不利なものはなく、本当に出店でみせ出店しゅってん許可が下りただけのようだ。


 サインはコガネが読んだあとにするとして、コガネの作業がまだ終わらないのでアオイは王に向き直る。

 少し時間がかかりそうなので、おしゃべりに付き合って貰うことにしよう。

精霊たちと話している時、周りからは大きな独り言だと思われてます。

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