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薬屋・リコリス  作者: 瓶覗
10章・国との繋がり
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3,精霊の加護

 開いていた書斎の扉を軽くノックして、コガネは振り返ったアオイに微笑んだ。


「ただいま、主」

「おかえりー。コガネ、ちょっと」


 振り返りざまに微笑んだアオイは、コガネを手招きする。

 アオイに近付いて、使いから渡された紋と本日の出店リコリスの売り上げが書かれた紙を渡し、コガネは視線を合わせるように机の横に置かれている箱に腰かけた。


「話、何かな」

「さあな。トマリが何か掴んでくるといいが」

「そうだねぇ……スコル、久々だね」

「そうだな。……いつ、行く?」

「トマリが帰ってきてから決めようか」

「分かった」


 アオイは元々、スコルが気に入っていた。

 薬師の位が上がるにつれ、色々とあって足が遠のいていたが、もしかしたら今回で何か変化があるかもしれない。


 アオイが楽しそうなのは良い事だ、とコガネは思っているので、アオイが望む場所に行けるようになるなら行く価値もあるか、と日程決めに積極的だった。

 そのままリコリスの売り上げ的な話をしている間に夕飯が出来上がり、リビングに呼ばれる。


 夕飯が終わってセルリアが部屋に入った頃、トマリが戻ってきた。

 モエギがキッチンでトマリの分の夕食を作っている間に、軽く内情を聞いておく。


「大分好かれてるみたいだぜ」

「そうなんだ」

「おう」


 先に出されたお茶を啜りながらトマリは話し始める。

 国内は前に言った時と同じか、それより明るかった。

 国民は若い王に不安もあったようだが、今は信頼して統治を任せている。と。


「若いんだ」

「らしいな」

「先王の息子、だよね?」

「おう」

「どんな人?」

「スコルの連中に聞いた限りだからな、悪い噂は入ってきてねぇ」


 つまり、会ってみないと何とも言えない。

 アオイが唸っている間にトマリの夕食が完成し、トマリはそれを食べ始める。

 勢いがすごい。見ていて気持ちのいい食べっぷりだ。


 そんな風に思考を放棄していたが、コガネにじいっと見られている。

 これは、日程を決めるまで逃がして貰えなさそうだ。


「……明後日、かなぁ」

「分かった」

「誰連れてくんだ?」

「コガネと……モエギも、来てもらおうかな」

「分かりました」


 モエギは微笑みながらアオイとコガネにデザートを出してくれた。

 プリン。一般的ではないが、アオイの記憶にあるものを作ったのだろう。もしくは、レヨンから聞いたのか。


「はー。おいしー」

「良かった。また作りますね」


 この短い会話の間にトマリの夕食が終わり、モエギが片づけを始めた。

 アオイはトマリからより詳しい話を聞くためソファに移動し、コガネもそこに残ったので一緒に話を聞く。

 スコルにはトマリも付いてくるらしい。宣言するのは珍しいな、と思いながらアオイは頷き、その日は早めに眠りについた。


 翌日は特に何もなく、出来事と言えばスコルに行くために馬を借りてきたくらいだ。

 サクラが行きたいと騒ぐのを宥めて、今日も早くに眠る。


 スコルへの出発は朝。

 アオイが眠たげに目を擦っているのはいつもなので、コガネは気に留めずに馬に跨る。

 手を差し出すとすぐにアオイの手が重ねられ、引き上げて進んでいるとすぐに目が覚める。


 トマリは影の中で、モエギは小鳥の姿でアオイの肩に止まっているので馬は1頭だ。

 普段とは逆の方向に森を抜けて、そのまま外海を目指して進む。

 スコルは海に近いのだ。


「久々だなぁ……」

「そうだな」


 アオイは何度かそう呟いていた。

 遠くを見ているようで、コガネに体重を預けている。

 落とさないように気を付けながら進み、国が近付いてくる前、人とすれ違い始めるころにアオイにフードを被せた。


「あれ、もうそんなに?」

「ああ。昼はどうする」

「食べてから行こうか」

「分かった」


 スコルに着くのは、ちょうど昼頃。

 話とやらが長くなったらお腹の具合が悲しいことになるので、先に食事を終わらせてしまうことにした。


「何が食べたい?」

「軽いのでいいなぁ」

「分かった」


 その会話を聞いていたモエギが先にスコル国内に入っていき、それを見送ってアオイたちも国内に入る。

 スコルの中は、数年前に訪れた時からそう変わっていなかった。

 相変わらず人々の活気と、精霊の声が混ざり合っている。


「海、行きたいな」

「ああ。……すぐに行くか?」

「うーん……先に、ご飯食べちゃお」

「分かった」


 馬を預けて、スコルの中を進む。

 この国は、精霊に愛されている。

 正確に言えば、先代勇者の1人である精霊女王が出身地であるこの国を愛していたから、精霊たちもこの国を愛し、多くの加護を授けた。


 露店にはまがい物に混ざって本物の加護付き装備が並んでいるし、精霊女王が初めて精霊と話したという海辺には今も多くの精霊が訪れる。

 アオイは、精霊が見える。声も聞こえる。


 昔は多くいたらしいが、今となっては精霊を見て話せる人間は少ない。

 見えるだけで声は聞こえない、声は聞こえるが見えない、といった者も居る中で、見えて話せるアオイは中々希少な人間だ。


「チュン」

「おかえりー。あった?」

「チュン」

「お、じゃあ、案内お願い」


 昼食の場所を探しに出ていたモエギが戻ってきて、アオイたちの前を飛んで道案内を始めた。

 その後ろをついて行きながら露店を横目で確認して、加護付きのものを探す。

 あとできちんと見て回りたいが、そんな時間はあるだろうか。

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