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神様

無理やり1話にまとめたので、長くなってしまいました。以後気をつけます。

目を覚ますとそこは何度か来たことがある、あの白い空間だった。だが、今まで来た時と1つだけ違うところがあった。それはこの空間の真ん中· · ·いや、この空間がどこまで続いているのか分からないため真ん中と言うのは正しい言い方ではないかもしれないが、『私』の立っている位置から真正面に机と椅子が1セットあることだ。· · ·ん、私?

自分の呼び方に疑問を感じながらも、私は歩き、椅子の前まで来ると、その椅子を引き、ためらうことなく椅子に腰かけた。

なぜ椅子に腰かけることを躊躇(ちゅうちょ)しなかったかは、分からない。ただ、その行動に妙な懐かしさを感じた。

そしてその瞬間、私の中に今まで無くしていた記憶が波のように一気におしよせた。

「うおおおー。」

私は獣のような声で叫び、しばらくして冷静さを取り戻し、深呼吸してつぶやいた。

「戻るか。」


目を覚ますと、結花が心配そうに見ていた。何時間もあっちにいた気がしたがどうやら、実際は10秒にも満たない短い時間だったらしい。

結花が私を呼ぶが、気にしない。私は立ち上がると目を閉じて深呼吸をした。

その時、私を光が包み込んだ。

ゆっくり目を開けると、羽が生え男とも女とも分からない中性的な顔になっていた。いや、戻っていた。

結花は驚いているのか、言葉を発することもなくただ呆然と私を見ていた。

「いろいろ言いたいことはあるかもしれない。でも先に、場所を移そう。」

呆然としている結花にそう言うと、私は結花を抱え羽を羽ばたかせ、空を飛んだ。

「えっ!?ちょっと優希!待って!」

結花が私を止めるが気にしている場合ではない。

「下見て。」

「えっ?」

私に言われ下を見た結花は目を見開いた。

「なんで· · ·」

「あんだけでかい地震が起きたんだ。ああなってもしかたない。でも· · ·あれを起こしたのは· · ·私なんだ。」

結花は声を出さずただこちらを驚いた目で見ている。

「もう少し待って、あとで全部話すから。」

そう、話さなければならない。私にはもう時間がないから。


優希に抱えられ津波にのまれていく町を見下ろす。あれを優希が起こした?地震も?津波も?

優希の顔を見る。優希が目を覚ました時、いつもの優希となにか違うように感じた。でも、それだけではなく、今わたしを抱えている人は、もはや優希とは全く違う人だった。いや、人ですらない。羽が生え、顔も全くの別人だ。声は同じだが、自分のことを『私』と呼んだことなんてこれまで1度もなかった。

それでも、わたしの中には優希と一緒にいる時の同じ安心感があった。そして、これで優希と別れくてはいけないこともなんとなく感じていた。

だからわたしは、優希に話すことにした。

きっとこれで最後になるから。


「わたし、捨て子なんだ。」

「えっ?」

私が自分の罪を確かめるように津波にのまれる人を見ながら飛んでいると、突然結花が話し始めた。

「小さい頃に捨てられて、それからは親戚に引き取られてそこで暮らしてた。でも、その人たちからしたらわたしは邪魔でしかなかったみたい。当然だよね。子供嫌いの人がいきなり子供を引き取ってって言われたからといって、子供を大切にできるわけないもん。だからわたしは、そこの家の人たちから自分はいらない子なんだって教えられた。別に言われたわけじゃなかったけど、そう感じてしまったの。だったら必要と思われる人になろうと思って、それから自分より人を優先して生きてきた。そしたら、人がよってきたし、わたしは必要とされてるんだって思えた。でも、そうじゃないことを心のどこかでは気づいてた。わたしは必要とされてるんじゃない、ただ都合のいい人間なんだって。なにか不都合なことがあったらわたしが庇ってくれるんだもん。そりゃそう思って当たり前だよね。でも、優希は違った。わたしが職場のお金を盗んだって罪を被ろうとしたとき、わたしを助けて、叱ってくれた。自分を大切にするっていうのは正直まだ分かりきってないけど、優希が同じことをしたらわたしも悲しくなる。優希のおかげでわたしは自分を大切にできた。だから、優希· · ·ありがとう。」

結花は満面の笑みでそういった。私のことが分からないはずなのにそんなの関係ないとでも言うような、どんなことも受け入れるとでも言うような、そんな笑顔だった。

「ああ。」

そう答えて、私は山の頂上で結花をおろした。

「悪いけど、私にはあまり時間がない。聞きたいこともあると思うけど、とりあえず聞いてほしい。」

「わかった。」

私は大きく深呼吸して話し始めた。

「まず、私の正体だけど、私は· · ·神様と呼ばれてるものだ。でも、神様といってもなんでもできるわけじゃない。飛んでいる時、『あれは私が起こした』って言ったけど、神様にできるのはそれぐらいのこと。もっと詳しく言うと、地震や台風、噴火とかの人間には防ぐことのできない、自然災害を起こすだけ。そしていつどこで自然災害を起こさないといけないかは全部頭の中にある。でもそれは、始めから決まって、自分で決めることはできない。だから、私は頭の中にある指示通りの場所に時間通りに自然災害を起こしてた。それ以外は特にやることがないから、よく下界· · ·この世界を見てた。そしたら、結花を見つけた。自分を犠牲にして、人を助けるのは私には理解出来なかった。それも、たとえ自分が嫌いな人だろうが、周りから嫌われてる人だろうが関係なく。本当に聖女みたいな人間だと思った。だからこうして結花に会いに来た。本当は神としてこんな行動はダメだと分かってた。それでも、どうしても知りたかった。今までこの世界を見てきて、結花のように本当に人のためだけに生きていける人を見たことがなかったから。それから私は半年後までの神としての仕事を終わらせてこの世界にきた。」

気がつくと涙が頬をつたってた。

あぁ、そうか、私は別れたくないんだ。結花と· · ·この世界と。

目の前の結花を見る。結花の目には涙がたまっているが、必死にがまんしているようだった。

私は涙をぬぐい、話を続ける。

「それから結花に出会って、今日まで自分の正体さえも忘れて過ごしてきた。でも、今日、自分の正体を思い出して、自分の罪の重さをしった。この世界の人はどんなことがあっても、苦しみながら足掻(あが)いて今を生きている。そうな命を私は· · ·何も思わずただ、神としての使命のために奪ってきた。。」

私は一息おいて言った。

「これが私の正体· · ·そして結花の前に現れた理由だ。私は人間の信じるような神ではない。なにひとつ救うことなく、ただ、命を奪うだけの存在だ。」


「そう· · ·」

話を終えた優希はとても悲しい顔をしていた。だからわたしは大きく深呼吸してから言った。

「たしかに優希は命を奪うだけの存在かもしれない。でも、わたしは· · ·あなたに救われた!どれだけの命を奪ってきたかなんて関係ない。職場での事件のときもさっきの津波でもあなたに救われた。あなたのおかげで、わたしは今を生きていける。」

わたしは優希を抱きしめた。

「えっ· · ·」

優希は驚いているが気にしない。

「これで最後になるんでしょ?だから· · ·このままでいさせて。」

そう言うと優希はなにも言わず、手を背中に回してくれた。

少しすると、優希から光がではじめた。それに伴って優希の体が消えていく。それでもわたしたちは声は出さず、顔も見ず、ただ抱き合っていた。

声を出すと、顔を見ると涙が出て、止まらなくなるから。


だんだん自分の体が光と共に消えていくのが分かる。でも、不思議と不安も恐怖もない。きっと結花のおかげだろう。このまま消えてしまってもいい。でも、最後に伝えなければならない。

だから紡げ、この言葉を。

「結花、ありがとう。私は消えてしまうけど、こうして結花の温もりを感じていると安心できる。ずっとこのままでいたいけど、もうすぐ私は消えるから· · ·だから最後に· · ·」

私は結花の背中から手を離し、肩を持って、涙を流しながらも笑顔をつくって言った。

「今までありがとう。愛してるよ。」


「今までありがとう。愛してるよ。」

「わたしも· · ·」

言葉を紡ごうとした瞬間、優希から、光が弾けるように飛び出した。あまりの眩しさに目をつむり、目を開けた時にはもう、優希はいなかった。

そう理解した時には涙が止まらなくなり、声をあげて泣いた。


· · ·どのくらいたっただろうか。涙は止まらないが、声は止み、やがて嗚咽へと変わった。

涙をぬぐい、優希のいた位置を見る。そこには、見たことのない果実が落ちていた。

これがどういう物なのか直感的に分かった。

· · ·だからわたしは迷うことなく、その果実を口にした。


「久しぶりに思い出したな。」

白い空間で『私』は1人つぶやいた。

果実を口にした後、気がつくとこの空間にいた。そして、その時優希の記憶が頭の中に流れ込んできた。

優希も昔は人間だった。だが、私のように神に出会い、果実を口にして神になった。神になった優希は人が死んでいくのをここから見るのに耐えられなくなり、自分を殺した。

それから優希は自分が出会った神のことも、自分が人間だったことも忘れ、神として生きてきた。

私も優希の気持ちは分かる。自分を殺してしまいたくなるほど、人が死んでいくのを見るのは辛い。その自然災害を自分が起こしたというのだから、余計にだ。

それでも私は· · ·自分のままでいる。

優希のおかげで救われたこと、そして優希がくれた最後の言葉を忘れたくないから。

いや、それだけじゃない。優希と過ごした日々全て、そして優希の記憶も覚えていたいから。

そして私はこの空間にたった1つしかない、椅子に腰かけ机に向かい、仕事を始める。

私を救ってくれた、彼のことを思いながら。

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