自分を大切に
サブタイトルがマジで適当です
優希と暮らし始めてから3週間がたった。未だに記憶が戻る気配はないが、最近はこれでもいいんじゃないないかと思うようになった。
「じゃあ、行こうか。」
そう言ってわたし達は仕事へと向かう。
一緒に暮らし始めて1週間たった日に優希は働くと言い出した。「さすがにお世話になってばかりで申し訳ないから。」
そう言って仕事を探しだしたのでわたしは同じ職場をすすめた。面接を受けるとあっさりと受かり、今ではこうして同じ職場で働いている。
「そういえばいつの間にか敬語も消えたし、名前も呼び捨てになったね。」
「まあ、3週間も一緒に暮らしてれば当たり前なんじゃない。」
こうして今日も職場へと向かうのだった。
ある日、仕事終わりに店長がみんなを呼び出した。
「わたしも信じたくはないが、昨日レジの中身が3万円足りなかった。こういうことは今までも何度かあったが、ここまでの金額じゃなかったから見逃してた。だが、さすがに今回ばかりは見逃せない。職場の仲間同士疑い合いたくはない。だから正直に名乗り出てほしい。」
みんなが黙り込んだ空間の中、わたしは大きく深呼吸をした。
「わたしがや· ·」
「オレ見ました。」
わたしの声は優希の声でかき消された。
「本当か?」
「はい。」
そう言って優希は話し出した。
「昨日の昼時· · ·1番忙しい時間にどさくさに紛れてお金を盗ってるのを· · ·あの時間にレジをしてた人はみんな知ってると思います。」
そう言った瞬間、パートの女性が走ってその場から立ち去った。
「あっ、ちょっと。」
そう言って女性を追いかける店長。
残されたみんなはコソコソと喋りながら帰っていった。
みんなより少し遅れて、わたしたちは帰り始めた。
「なあ、さっき『わたしがやりました。』って言おうとしただろ?」
「· · ·」
分かっているだろうとは思っていた。あの瞬間、明らかに優希は言葉を被せてきた。それもわたしの声が聞こえないように必要以上に大きい声で。
優希は優しく言った。
「オレが見てた時、結花も見ていたことに気づいてた。· · ·なあ、なんで自分で罪を被ろうとしたんだ?」
「だって、あの人は娘さんの学費のために働いてたんだよ?クビになったら悲しむ人がいるじゃない。でもわたしはクビになったとこで、わたし以外に悲しむ人も苦しむ人もいない。だったら」
言い切るまえに頬にするどい痛みが走った。
そこでわたしは優希に頬をぶたれたと気づいた。
「わたし以外悲しむ人も苦しむ人もいない?ふざけんな!本気でそんなこと思ってんのか?自分の顔見てみろ。罪を被ろうとした時も今も結花、スゲーつらそうだぞ。そんなのこっちが見ててつらくなんだよ。それにな、結花は自分が傷ついてもそれでいいかもしれねーけど、オレが悲しいんだよ!オレがつらいんだよ!だからそんなこと二度と言うんじゃねえよ!もっと自分を大切にしろよ!」
気がつくと涙が出ていた。わたしはただ嗚咽をもらしながら「うん· · ·うん。」とうなずくだけだった。
するといきなり、優希はわたしの手を握った。
「帰ろっか?」
満面の笑みでそう言った優希に、わたしはあいている手で涙をぬぐい、笑いながら言った。
「わたしの家だけどね。」