第6話 イケメンと狐
「悪霊退散ー!!!」
「俺、悪霊じゃないから退散しなーい」
ひらひらと両手を顔の横で広げ、転校生は道化師のように笑う。
塩の代わりにチョークの粉でも降りかけてやろうか、と思ったがやめておく。そんな事をすれば、女子の皆様に殺されかねない。
「てかなんでわざわざ男になって来たのー?」
「それはこっちのセリフだ!なんで…なんで…」
きょとんとした顔の転校生、雪が何を言いたいのか予測がつかないらしい。
そんな様子の転校生などお構い無しに、雪は叫んだ。涙やら鼻水やら色々な汁を飛ばしながら。
「ケモミミショタじゃなくなってるんだっっっっっ!!!」
「その姿で言うと余計なんかやばいよねー」
転校生は、とても残念な物を見るような目でイケメンバージョンの雪を見た。
雪はぐずぐずになった顔のあらゆる汁を手の甲で拭う。幾分かマシになったところで、ここに来た目的を思い出した。
ここは、あまり人の来ない…いつぞやに雪が授業をサボった際に籠っていた、例の空き教室だ。
何故、わざわざこんな場所に転校生を呼びたしたかと言うと……。
「何が目的でわざわざ学校まで来たんですか?」
この転校生の目的を聞き出すためだった。
「んー、面白そうだから?」
そう言って転校生、もとい狐は笑った。
先程の子犬のような笑顔はどこへやら、そこにいるのは人を騙すことに慣れきった狐でしかなかった。
「俺はね、君がどんな破滅の道を歩むのか見てみたいんだ!」
ずいっと狐は一歩こちらへと歩を進める。怖気づいて、後ろへ下がろうとする雪の腕を掴むと、にっこりと笑う。どこまでも胡散臭く、そして背筋が凍るような不気味な笑み。
「なーんてね!怖がらないでよー」
パッとまるで手品のように先程の胡散臭さは消え、人懐っこい明るい笑顔を浮かべる。
「こんなアホなお願いするヤツいるんだなーって思って、叶えてやったらどんな結末迎えるか見てみたかっただけなんだ!」
雪の腕を放すと、顔の横でタブルピースをする。意味がわからない、といった顔の雪などお構い無しだ。
「ま、思ったより上手くいっててつまんねーから、こまめに邪魔してくつもりだからよろしくねー!」
じゃーね!と言って教室から出ていこうとする狐。雪は慌ててその腕を捕まえる。予想外の行動だったのか、微かに狐は目を見開く。
「邪魔するのは良いけど、猫田君に迷惑はかけないでね?」
「うん、いいよー」
ところで、と再びあの胡散臭い笑みを浮かべる狐。びくり、と雪は掴む腕を放した。
「邪魔していいって言ったよねー、言質とったからね?」
そう言って転校生は、にっこりと爽やかにも胡散臭くも見える笑顔を浮かべた。